第5話 少しの安堵
剣先が欠けたら、どうしてくれる。
冷静に剣の様子を確認していたアイリスの、痛くない方の肩に手が添えられた。
「診せるんだ」
そのままくるりと振り向かされた。
リオがじっとアイリスの肩を見ている。
「瘴気が入ってる。すぐに浄化する」
傷口に視線を落としたリオの眉が、痛ましげに寄せられた。
傷は、そんなに酷いのだろうか。
「……瘴気が入ると、どんな感じになるんですか?」
聞いてみた。
「聞きたいか?」
アイリスは少し間を置いて、首を横に振った。
*
あっという間に傷は塞がり、痛みもなくなった。
「ありがとうございます」
腕をぐるぐる回して確認していると、リオがしゃがみ込んで深く息を吐いた。
「俺のことは、庇わなくていい」
リオは俯いている。表情は見えない。
アイリスは首を傾けた。
「……仕方ないじゃないですか。体が勝手に動いたんです」
確かに、リオなら問題なく対処できたかもしれない。
でも今、二人とも無事なのだから、それでいいのではないかと思う。
「大丈夫です。自分の力量は弁えていますので」
無理はしない。
できると思ったから、飛び出した。
リオが小さく笑った。
「庇われるなんて……何年ぶりだろう」
そしてゆっくりと顔を上げた。
まぶたが緩み、眉間の力が抜けたような、柔らかい表情だった。
「……ありがとう」
アイリスは少しだけ目を丸くして、笑い返した。
*
結局、最初に降りた縦穴のところまで戻ってきた。
リオと共に、光魔法の明かりを頼りに、地図をじっくりと眺める。
アイリスは今、ぶかぶかの上着を着ていた。
服の肩口がざっくり裂けてしまったため、リオが上着を貸してくれたのだ。
袖を何度か折り、長い裾は引きずらないように、紐で軽くまとめている。
「こちらから迂回すれば、気配の方に向かえそうだ」
リオが地図の一点を指差す。
アイリスも頷いた。
ふと視線を上げると、申し訳ない気持ちになった。
リオは今、非常に身軽な服装になっていた。
このまま部屋でくつろげそうだ。
アイリスの視線に気づいて、リオが頬を緩めた。
「大丈夫だ。むしろ君の防御力が心配だったから、これでちょうどいい」
「……というと?」
リオが、自分の服を指先でつまむ。
「この服なら、あの瘴気魔獣の爪くらいじゃ通らないんだ」
アイリスはゆっくり瞬きをして、言葉を咀嚼する。
理解した瞬間、顔が熱くなる。
つまり、リオは避ける必要すらなかったと。
立ち上がり、リオに背を向けた。
詠唱しながら片手を掲げ、特大の氷柱を作り、思い切り壁に打ち込む。
ふう──と深く息を吐く。
大丈夫、落ち着いた。
「行きましょう」
アイリスが何事もなかったように歩き出すと、一連の動きをじっと見ていたリオが顔に手を当て、肩を震わせた。
「……ふっ……君、おもしろいな」
「うるさいです」
ちょっと黙っていてほしい。
そう心の中で思いながら、アイリスは足早に進んだ。




