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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第3章 心の連鎖
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第5話 少しの安堵

 剣先が欠けたら、どうしてくれる。

 冷静に剣の様子を確認していたアイリスの、痛くない方の肩に手が添えられた。


「診せるんだ」


 そのままくるりと振り向かされた。

 リオがじっとアイリスの肩を見ている。


「瘴気が入ってる。すぐに浄化する」


 傷口に視線を落としたリオの眉が、痛ましげに寄せられた。

 傷は、そんなに酷いのだろうか。


「……瘴気が入ると、どんな感じになるんですか?」


 聞いてみた。


「聞きたいか?」


 アイリスは少し間を置いて、首を横に振った。


 *


 あっという間に傷は塞がり、痛みもなくなった。


「ありがとうございます」


 腕をぐるぐる回して確認していると、リオがしゃがみ込んで深く息を吐いた。


「俺のことは、庇わなくていい」


 リオは俯いている。表情は見えない。


 アイリスは首を傾けた。


「……仕方ないじゃないですか。体が勝手に動いたんです」


 確かに、リオなら問題なく対処できたかもしれない。

 でも今、二人とも無事なのだから、それでいいのではないかと思う。


「大丈夫です。自分の力量は弁えていますので」


 無理はしない。

 できると思ったから、飛び出した。


 リオが小さく笑った。


「庇われるなんて……何年ぶりだろう」


 そしてゆっくりと顔を上げた。

 まぶたが緩み、眉間の力が抜けたような、柔らかい表情だった。


「……ありがとう」


 アイリスは少しだけ目を丸くして、笑い返した。


 *


 結局、最初に降りた縦穴のところまで戻ってきた。

 リオと共に、光魔法の明かりを頼りに、地図をじっくりと眺める。


 アイリスは今、ぶかぶかの上着を着ていた。

 服の肩口がざっくり裂けてしまったため、リオが上着を貸してくれたのだ。

 袖を何度か折り、長い裾は引きずらないように、紐で軽くまとめている。


「こちらから迂回すれば、気配の方に向かえそうだ」


 リオが地図の一点を指差す。

 アイリスも頷いた。


 ふと視線を上げると、申し訳ない気持ちになった。

 リオは今、非常に身軽な服装になっていた。

 このまま部屋でくつろげそうだ。


 アイリスの視線に気づいて、リオが頬を緩めた。


「大丈夫だ。むしろ君の防御力が心配だったから、これでちょうどいい」

「……というと?」


 リオが、自分の服を指先でつまむ。


「この服なら、あの瘴気魔獣の爪くらいじゃ通らないんだ」


 アイリスはゆっくり瞬きをして、言葉を咀嚼する。

 理解した瞬間、顔が熱くなる。


 つまり、リオは避ける必要すらなかったと。


 立ち上がり、リオに背を向けた。

 詠唱しながら片手を掲げ、特大の氷柱を作り、思い切り壁に打ち込む。


 ふう──と深く息を吐く。

 大丈夫、落ち着いた。


「行きましょう」


 アイリスが何事もなかったように歩き出すと、一連の動きをじっと見ていたリオが顔に手を当て、肩を震わせた。


「……ふっ……君、おもしろいな」

「うるさいです」


 ちょっと黙っていてほしい。

 そう心の中で思いながら、アイリスは足早に進んだ。

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