第3話 光を掘りし場所
リオが飛び降りた。
少しして──ズドンと物凄い音が響いた。
アイリスは慌てて穴に向かって叫ぶ。
「大丈夫ですかー?」
「少し失敗した、いつでもいい」
穴の奥から、声が響いて返ってくる。
「じゃあ、行きますねー」
アイリスも穴に身を投げる。
落下の感覚、服と髪が風で激しく揺れる。
すぐにリオの光魔法が見えて、ふわりと優しい風がアイリスの勢いを和らげた。
そのままトッ、と着地する。
「ありがとうございま、す!?」
視線を向けたアイリスは、思わず言葉の最後に力がこもってしまう。
リオの足元が大きくひび割れ、数十センチ抉れている。
慌てて駆け寄るが、当の本人は朗らかに笑っている。
「魔法。使わずにいけるか試そうとしたけど、さすがに少し身の危険を感じた」
──バカなのか。
口に出しかけて自制する。
アイリスは思考を振り払うように辺りを見た。
坑道の壁から飛び出した宝石片が、灯りを受けて淡く瞬く。
それはかつて、この地が“光を掘る場所”と呼ばれた名残だった。
腐臭とも土ともつかない匂いが鼻を刺激し、アイリスは眉をひそめた。
今では、その光さえも瘴気に曇っている。
「カルヴォナイトという、宝石が採掘されていたらしい」
その名に、アイリスは顔を上げた。
「聞いたことがあります。透明度が高くて硬いんですよね」
「色のあるものは、不純物が多いとされるらしい」
リオが落ちていた石を拾い、呟く。
「……捨てること、ないのにな」
淡い赤色の宝石。
アイリスから見れば、それも十分綺麗だった。
よく見ると、それだけではない。あちこちに色付きの石が無造作に転がっていた。
「無色のもの以外は、価値がないんですかね」
言葉にしながら、胸の奥が少し痛んだ。
「硬いから、宝飾品にするのも一苦労らしい。加工の手間を考えたら、これも仕方ないんだろう」
リオが、手の中の石をそっと地面に置いた。
「それで、魔獣の気配はあるか?」
忘れていた。
アイリスは改めて魔力を広げる。
「……あっちですね」
指差すと、満足げな笑みが返ってくる。
「正解」
「……やっぱり、リオさんも索敵してるんじゃないですか」
ため息をついて、歩き始める。
「アイリスを疑っているわけではなくて……」
「はい、それはわかってます」
別に言わなくてもわかるのに。
でも──アイリスは口元に笑みを浮かべる。
言葉にしてもらえると、思いのほか安心するのだと気づいた。
*
坑道の地図は覚えている。
だが高低差がわからないのは痛手だ。
道があると思っていた場所に壁しかなくて、アイリスは歯噛みする。
「索敵ついでに、空間を把握するといい」
後ろを歩くリオがそんなことを言う。
「生き物の気配を探るだけで精一杯なんですよ。どうやってそんな器用なことするんですか」
アイリスは少しだけ頬を膨らませる。
「逆だ。先に空間を把握して、そこに生き物を配置するんだ。そうすれば、頭の中に情報を含んだ地図ができる」
簡単に言ってくれる。
アイリスは一旦足を止めた。
目を瞑って、まずは一気に空間を把握する。
そしてリオの言うように、空間の中に、生き物の位置を当てはめていく。
「──ふう」
止めていた息を吐いた。
額に汗が滲む。
「そう、その感覚。あとは常時、息を吸うようにできれば完璧だ」
「うわあ……」
あまりにきつくて、思わず素の声が漏れた。




