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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第3章 心の連鎖
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第2話 忘れられた坑道

 馬車を降り、草深い丘の間を抜けると、古びた坑道の入り口が目に入った。

 石で組まれたアーチは黒ずみ、所々に苔が張り付いている。

 入り口の奥は闇に閉ざされ、何も見えない。

 風に乗って、湿った土の匂いが漂った。


「……見事なまでの廃坑だ」


 低く呟いたリオの声が、風のざわめきに溶けていった。


 坑道の前には、古い木の柵と、朽ちかけた看板が立っていた。

 “立入禁止”の文字はほとんど読めないが、有無を言わせぬ存在感はまだ残っている。


 アイリスは深呼吸した。

 静寂が重くのしかかり、足元の小石の音さえも大きく響く。

 ここから先は、確かに異質な空気が漂っている。


 リオが軽く頷き、一歩を踏み出す。

 アイリスも早速、薄く魔力を広げて索敵を開始する。

 影が奥へ吸い込まれるように、坑道の闇が二人を飲み込んでいった。


 *


 坑道の中は真っ暗だった。

 リオが手を掲げると、小さな光の玉が浮かび上がった。


「綺麗ですね」


 炎魔法で炎の球を作ろうとしたアイリスは、詠唱を止める。


 火、風、水以外の属性は、適性が無いとまったく使うことができない。

 アイリスが羨望の目を向けていることに気づいたのか、リオが頬を緩める。


「俺は、氷魔法も相当有用だと思う」

「そうですかね……」


 絶対に光魔法の方が有用だと思う。

 だが、結局は無いものねだりなのかもしれない。


 アイリスたちは、地図に載っていた簡易昇降機に辿り着いた。

 当然のことながら、壊れていて機能していない。


「どうしましょうね」


 アイリスは膝に手をつくと、縦穴を覗き込んだ。

 相当深そうだ。


「普通に飛び降りればいいんじゃないか?」


 同じく覗き込んでいたリオが、そのあたりの石を拾ってポイと放った。


 石を放り投げてから穴の底にぶつかるまで、時間がゆっくり溶けた。

 四秒余りの静寂のあと、遅れて──コンと音が響く。


「結構深いな」

「行けます?」

「俺はね」


 リオが顎に手を当て、ちらりとこちらを見る。


「アイリスは……」


 そっと掌を向けて、リオの言葉を遮る。


「今、魔法を使わない前提で話してます?」

「そんなわけないだろ。俺のことを、なんだと思ってるんだ」


 リオが不服そうに眉を寄せた。

 アイリスはほっと息をつく。


「まあ、壁を使えばできなくはないけど……」


 ──できるのか。

 そっと穴に視線を戻す。


「一定間隔で段差を作ることはできます」


 試しにひとつ、人がひとり乗れるほどの氷の台を壁に設置する。


「魔力がもったいない。最後だけ風魔法で勢いを和らげた方が、早いし堅実だ」

「私はそこまで、風魔法使えませんよ?」


 アイリスが返すと、リオは笑みを浮かべる。


「俺が抱え──」

「結構です」


 食い気味に返し、アイリスは穴の底を指差す。


「先に降りてください。私が落ちる時に、風で衝撃を和らげてくれると助かります」

「……了解」


 リオがわずかに肩を落とす。


「冗談だったのに……」


 そんな小言が聞こえ、思わず笑いそうになって──やめた。

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