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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第3章 心の連鎖
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第1話 魔力を視る瞳

 この日、アイリスとリオは狩人本部に呼び出されていた。

 今回は狩人組織からの直接依頼だった。

 受付のサラが、内容を説明していく。


「放棄された古い坑道に、瘴気の淀みが見つかりました。瘴気魔獣も確認されたため、討伐と浄化をお願いします」

「わかった」


 アイリスは頷いた。


 背後では、次の依頼を待つ狩人たちの声が飛び交っている。

 いつものざわめき──けれど、今回はどこか張りつめた空気があった。


 洞窟などは、瘴気が溜まりやすいことで有名だ。

 こうした話は、たまに耳にする。

 だがやはり、瘴気と聞くと緊張が走るのも事実だった。


「坑道内の地図です。確認された瘴気魔獣は、種類は未特定です。ただ、素早く、調査に赴いていたBランクの狩人が対処できなかったことから、仮でAランクと定められました」


 依頼書には、Aの文字が大きく書かれている。


「放棄されているなら、埋めてしまえばいいんじゃないのか?」


 リオが地図を見下ろしながら言った。

 サラが苦笑する。


「かつて、かなりの宝石が採掘できた有名な鉱山なんです。採掘量が減った後も、持ち主がなかなか決断できず」


 アイリスは眉を寄せた。

 その決断の遅さのせいで、とばっちりを喰らったと。


「今回の件で、正式に鉱山の封鎖が決まりました。討伐と浄化後、吹き飛ばしていただいて大丈夫です」


 リオがぱっと顔を上げる。

 その表情が少し嬉しそうで、アイリスは咄嗟にリオの腕を小突いた。

 え、吹き飛ばしていいの?そう言っているようにしか見えない。


「うん、埋めときます」


 アイリスはしっかり訂正しておいた。


 *


 目的の坑道までは、馬車で数日を要した。


 坑道に着く前日。

 宿のリオの部屋で、二人はテーブルの上の坑道の地図を眺めていた。


「随分と整ってますね」


 地図を見る限り、分岐は多いが、構造自体はかなり整っている。


「これなら、一日とかからず終わりそうだ」


 リオが口元に笑みを浮かべる。

 アイリスも頷いた。


「索敵は使えそうですか?」

「ああ。洞窟系は魔力の放出方向が限られているから、むしろやりやすい」


 そこまで言って、リオが何か思いついたように小さく口を開いた。

 嫌な予感がした。


「そうだ、アイリスにやってもらおう」


 アイリスは怪訝な目を向けた。


「どう考えても、慣れてるリオさんの方が……」

「俺の伝えた鍛え方、実践してるだろ?」


 言葉に詰まった。

 ──なぜバレている。


「アイリスの魔力量なら、絞って使えば、戦闘に支障が出ないくらいで済む」


 頬にじわりと熱がこもる。


「……私の魔力量まで把握してるんですか?」


 自分の魔力量を把握するのも難しいのに、他人のものとなればなおさらだ。

 余程の魔力を放たれでもしない限り、推し量ることなどできない。


 思わず一歩下がって少し距離を取ると、リオは静かに笑う。


「俺の眼は、少し特殊らしい。人より魔力がよく視えるんだ」


 ──ああ、それで。

 普通は目を凝らさないと見えないが、リオにはそれが常に見えているらしい。

 つまり、わざわざ凝視していたわけではないのだ。

 一瞬強張っていた肩の力が、ふっと抜けた。


 アイリスは話を戻す。


「それで、私が気づけなかったらどうするんですか?」

「その時は、俺が責任を取る」


 リオがすっと真面目な顔になった。


 変な声が出そうになって、飲み込む。

 いや、きっと言い出した責任をとって、しっかり戦ってくれるということだろう。そうに違いない。


「わかりました、やってみます」


 息をついて、地図を丸めた。

 その地図をリオに渡した。だが、リオは手を出さない。


「君が持っているといい」

「いえ、大丈夫です。大体覚えましたので」


 もう一度ぐっと差し出すと、リオが受け取る。

 アイリスが自室に戻ろうと踵を返しかけた時、リオが小さく声を漏らした。


「あ。良かったら洗浄魔法を使うか?」


 アイリスは足を止めてリオに向き直る。


「なんですか?それ」

「早い、確実、快適が売りな魔法だ。体と服を一気に洗える」


 アイリスは瞬きをした。

 なんだ、その便利な魔法は。


「使いたいです。何をすればいいですか?」


 少しワクワクする。


 じっと待つが、なぜか言い出したリオが、人差し指を立てて右手を持ち上げたまま固まっている。

 さすがに不思議に思い、首を傾げる。


「……リオさん?」


 リオは手を下ろすと、収納袋から紙とペンを取り出した。

 すごい速さで何やら魔法陣を書き上げると、アイリスに渡してくる。


「これを使うといい、魔力を込めるだけだから」


 アイリスは紙を受け取り、眉を寄せた。


「リオさんがパッとやってくれれば、いいじゃないですか」


 リオが視線を逸らせる。


「いや……さすがにそれは申し訳ない」

「何がですか?」


 ますます訝しい目をしてしまうアイリスの肩を、リオが押す。


「ほら、戻って部屋で使うといい」


 そのまま廊下に押し出され、アイリスは眉を寄せたまま振り返る。


「……ありがとうございます」

「また、感想を聞かせてくれると嬉しい」


 リオが笑みを浮かべる。


 だったら、今やってくれればすぐに伝えられるのに。

 アイリスは再び首を傾げながら、自室に戻った。


 洗浄魔法の感想としては、最高だった。


 今度、やり方を聞いてみよう。

 そんなことを考えながら、灯りを落とした。

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