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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第2章 信頼の始まり
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第7話 守る者の沈黙

 ふと、リオが店の入り口を見た。


「そろそろ出ようか」


 宵時で、店は混み始めてきていた。

 アイリスは立ち上がる。


「払います。たくさん話を聞かせてもらいましたし」


 テーブルに、そっと金が置かれる。


「知識に貪欲なところはいいと思う。でも、二度も奢られるのは、俺が良しとしないかな」


 余裕で二人分払える金額。

 アイリスは驚いてその金を掴み、返そうとしたが、リオはもう店の戸をくぐるところだった。


 してやられた思いだった。

 だが、それほど懐に余裕があるわけではないのも事実だ。

 ここは甘えさせてもらおう。そう思い、手早く会計を済ます。


 外に出ると、少し離れたところにリオの姿が見えた。

 駆け寄ろうとしたその時、リオの目の前に立つ人影に気づき、アイリスは慌てて建物の影に身を隠す。


 そっと顔をのぞかせる。

 そこにいたのは──以前、パーティーに誘ってきた狩人の男たちだった。


 風に乗って、声が聞こえる。


「聞きましたよ。最近、アイリスの奴がリオさんに付きまとってるって」


 アイリスは浅く息を吸った。

 言葉の刃が、胸の奥に突き刺さるようだった。


「あいつ……あんな性格だから、とうとうパートナー候補すらいなくなったって話だぜ」

「それなのに、ランクを上げようとして……必死じゃあないか」

「リオさんも、さっさと候補なんてやめた方がいいですよ」


 アイリスに背を向けて、男たちは笑った。


 胸の奥が冷たく固まる。

 手が震えた。

 どうして、そこまで言われなくてはいけないのか。

 ──私の何を知って、彼らはこんなことを言うのか。


 リオはずっと無表情のまま黙って聞いていたが、ゆったりと口元に微笑を浮かべた。


「……君たちは、人を見る目がない」


 男たちが、ぽかんと口を開けたまま固まった。


「君たちのように平気で陰口を叩く人より。思慮深く、実力もある彼女の方が、よほど早くランクが上がるだろう」


 胸の奥がじんと熱くなった。

 込み上げるものを抑えきれず、口元に手を当てる。


「なんだと!?」

「このっ……!Sランクだからって、調子に乗るなよ!」


 男の一人が怒りに任せてリオに殴りかかる。

 だが、リオは片手でそれを受け止めた。


 リオが静かに目を細める。


「狩人同士の私的な諍(いさか)いは厳禁だ。理解しているか?」


 手に力がこもり、男が呻き声を上げる。


「くそ!行くぞ!」


 男たちはリオを睨みつけた。

 その顔は怒りで赤く染まっている。


 リオは手を離し、去っていく男たちを静かに見送った。


 やがて、こちらへ視線を向けた。

 思わず肩が震える。


 凪いだ翠の瞳と目が合った。

 隠れて聞いていたことは、とっくに気づかれていたらしい。


 ゆっくりとリオに歩み寄る。


「……私がいるから、ああ言ったんですか?」


 リオは少し眉を寄せ、視線を逸らす。


「君と彼らの問題だから、黙っているつもりだった。けれど、あれはさすがに言葉が過ぎる」


 怒っているように見えた。


「君も君だ。隠れていないで、出て来て一発殴ってやればよかったんだ」


 さっきの“私的な諍いは厳禁だ”はどこへやら。

 アイリスはくすりと笑ってしまう。


「……ありがとうございます」


 ほんの少し目を見開いたリオが、ふっと笑った。


 その笑みに、胸の奥が静かに熱を帯びる。


 信じること──それは強さか、それとも脆さか。

 アイリスには、まだわからなかった。

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