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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第2章 信頼の始まり
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第3話 ひとときの安らぎ

 魔法陣屋には、魔法陣の納品のために立ち寄っただけらしい。


 店を出たリオは、グッと背伸びをして空を見上げる。


「さて……何をしようか」


 アイリスは呆れた目を向ける。


「暇なんですか?」

「いや……忙しすぎて手が回らなかったから、逆に何をすればいいか……」


 そういえば、先ほども忙しいと言っていた。

 アイリスは少し首を傾げる。


 続きを待っていると、リオが口元に笑みを浮かべた。

 だが、その目元には疲労が滲んでいた。


「実は母に、働きすぎだからと仕事を取り上げられたんだ」

「え……」


 アイリスは絶句した。

 母──つまりフィオナのことだ。


 アイリスはフィオナをよく知っている。

 狩人は圧倒的に男性の割合が多い。狩人の長(マスター)の妻であり、かつSランクの狩人でもあるフィオナは、少ない女性狩人を気にかけてくれる穏やかで優しい人だ。


 そのフィオナが、仕事を取り上げた。

 それはとんでもないことだ。


「……どれだけ、詰め込んでたんですか」


 知りたいような、知りたくないような。

 アイリスは唾をのむ。


 リオはのんびりと笑った。


「二年間、依頼をまったくこなせず、ランクを剥奪されそうになったくらいかな」


 思わず短く悲鳴を上げる。

 なんだ、その意味不明な理由と結果は。

 ランクの剥奪?そんな言葉、初めて聞いた。


「狩人として働けと怒られてしまって。母も君のことを気にかけていたようだし、息抜きにちょうどいいだろうと。それで君のパートナー候補になった」


 フィオナが、気にかけてくれていた──そのことに、アイリスは少し泣きそうになる。


「見損なったか?」


 リオが、口元に笑みを浮かべて冗談っぽく言った。

 アイリスは首を横に振る。


「リオさんは……立派な人だと思います」


 それは本心だった。

 周りの外面ばかりの人たちとは、まるで違う。


 リオが嬉しそうに笑う。


「ありがとう」


 アイリスはぼうっとリオを見つめた。


 自分の言葉が、笑顔を呼んだ。

 なんだろう。心が、とても軽くなった。


「いえ……私の方こそ、ありがとうございます」


 この人のことがもっと知りたい。

 そう思った。


 *


 まだ昼前なので、簡単な依頼を受けようという話になった。

 狩人本部の掲示板の前で、アイリスは依頼書をじっと吟味した。


「これとか、どうだ?」


 リオが笑顔で紙を差し出す。

 薬草の採取依頼。依頼量は多いが、Dランクと書かれている。


 アイリスは、勢いよくその紙を奪い取った。


「何、薬草取りにはまってるんですか!ランク上位者が見合わない依頼を奪うのは禁止です!」

「薬草……教えてもらったのに、結局ひとつしかできなかった……」


 リオは名残惜しそうに、アイリスの手の中の紙を見つめる。


「俺、Sランク辞めようかな」


 我慢できなかった。


「今度!私の前でそんなこと言ったら、一生口ききませんよ!」

「……ごめん」


 Sランクになりたいと伝えたことを思い出したのか、リオは素直に謝る。

 アイリスは掲示板に視線を戻す。


「これにしましょう」


 白鹿肉の納品。Aランクの依頼だ。


 リオがわずかに目を細めた。

 どうやら、あまり乗り気ではないらしい。


「白鹿?もっと楽しそうなのを……」

「依頼は、楽しいか否かで選ぶものじゃありません」


 ぴしゃりと言い切り、アイリスは受付に向かった。

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