第24話 美咲の秘密
廃工場の中は、広かった。
かつて何かを製造していた痕跡が残っている。錆びた機械、割れた窓、埃の積もった床。
中央に、テーブルが一つ置いてあった。
御堂慎一郎は、そのテーブルの前に立っていた。
部下が四人。
剛造と美咲は、入り口近くに立った。
「座ってください」御堂は言った。
「立ったままでいい」剛造は言った。「何が目的だ」
御堂は静かに言った。「田島さん、私はあなたに頼みたいことがあります」
「言え」
「転写を、許可してほしい」
剛造は黙っていた。
「私はあなたの体内にある残留データを使って、自分の意識を転写したい。そのためには、あなたの協力が必要です」
「なぜ俺が協力しないといかんのだ」
「しなければ」御堂は静かに言った。「力づくでやるしかない」
「やってみろ」
御堂は少し間を置いた。
「田島さん、あなたは今、意識の混濁が始まっている。時間がない。しかし協力してくれれば……あなたの意識を、もう少し安定させる技術を提供できます」
「いらん」
「なぜですか」
「俺の時間は、俺が決める」
御堂は剛造を見た。
その目に、何か複雑なものが宿った。
「……田島さん、あなたは本当に、昭和の怪物だ」
そのとき、御堂が部下に目配せをした。
部下の一人が、装置を取り出した。
小さな機器だった。
それが美咲に向けられた。
「美咲さんに協力してもらいます」
剛造の目が、鋭くなった。
「美咲を巻き込むな」
「巻き込みたくありませんでした。しかしあなたが協力しないなら」
部下が装置を起動させた。
美咲の体が、わずかに揺れた。
「美咲!」
剛造が動こうとした瞬間、別の部下が剛造を止めた。
美咲は床に片膝をついた。
「大丈夫、です」
「美咲、立てるか」
「はい……少し、頭が」
そのとき。
装置を持った部下が、突然叫んだ。
「御堂さん! 装置が……反応しています!」
御堂が素早く振り返った。
「何が」
「この女性に……受容体の反応が出ています!」
工場内が、一瞬静止した。
御堂は美咲を見た。
その目が、驚愕に変わった。
「なぜ……彼女に受容体が」
美咲は床に膝をついたまま、顔を上げた。
御堂を見た。
「……どういうことですか」
御堂は答えなかった。
その代わりに、独り言のようにつぶやいた。
「桐島五郎……あなたは、まさか」
そのとき、工場の外で物音がした。
黒岩の部下だった。
窓が割れ、入り口が開き、数人が工場内に入ってきた。
御堂の部下たちが動揺した。
剛造はその隙に、美咲のそばに行った。
「立てるか」
「はい」美咲は剛造の手を借りて立ち上がった。「田島さん、受容体って」
「後で話す。今は」
「はい」
工場の中が、混乱した。
しかし御堂は動かなかった。
ただ、剛造を見ていた。
「田島さん」御堂は言った。「桐島五郎は……あなたにとって、どんな人物でしたか」
剛造は御堂を見た。
「友人だ」
「友人」御堂は繰り返した。「友人が、あなたを転写した。そして孫娘を継承者にした。それでも友人と呼べますか」
「呼べる」剛造は言った。「勝手なことをするのが、あいつの癖だった。しかしすべて、国のためだった。人のためだった」
御堂は黙っていた。
「御堂」剛造は言った。「お前に話したいことがある。今夜、聞けるか」
御堂はしばらく剛造を見た。
それから、部下に言った。
「全員、下がれ」
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