第23話 最後の頼み
国会質問の翌日。
朝のニュースは、御堂一色だった。
幹事長辞任要求。党内の離反。スポンサー企業の撤退。メディアの集中砲火。
御堂慎一郎の政治生命は、事実上終わっていた。
しかし御堂は記者会見に現れ、静かに言った。
「私は何も知らない。調査に全面的に協力する」
その顔に、動揺はなかった。
テレビを見ながら、美咲は言った。「信じられない。あれだけの証拠があって」
「政治家は最後まで諦めない」剛造は言った。「それは悪いことじゃない。しかし御堂の場合は、方向が違う」
「どう違うんですか」
「国民のために諦めないのではなく、自分のために諦めない」
美咲は手帳に書いた。
「田島さん、御堂は次に何をしますか」
「プロジェクト・レガシーだ」剛造は言った。「政治が終われば、あいつには別の目的しか残らない」
「不死化」
「そうだ。急ぐはずだ」
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その予想は、正しかった。
昼過ぎ、黒岩から連絡が来た。
「先生、御堂の部下が動いています。複数人が鎌倉方面に向かっています」
「わかった」
「先生、逃げてください」
「逃げない」
「先生!」
「黒岩、美咲を頼む。俺は別に動く」
「別に、とは」
「御堂に会いに行く」
電話の向こうで、黒岩が息をのんだ。
「先生、それは」
「罠だとわかっとる。それでも行く。御堂に最後の話をする必要がある」
「先生、体は」
「持つ」
「……わかりました。私も動きます」
剛造は電話を切り、美咲を見た。
「美咲、お前はここにいろ」
「嫌です」
「危ない」
「田島さんが行くなら、私も行きます」
「お前は」
「田島さんの傍にいることで、時間が延びるんでしょう」美咲は言った。「私が離れたら、もっと早くなる。だから行きます」
剛造はしばらく美咲を見た。
「……骨がある」
「そればっかり言う」
「本当のことだ」
二人は別荘を出た。
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御堂の部下から連絡が来たのは、夕方だった。
「田島剛造さんと、桐島美咲さんを、ご案内したい場所があります」
場所は、東京郊外の廃工場だった。
かつて御堂建設が所有していた施設だ。
「罠だな」と美咲は言った。
「わかっとる」剛造は言った。「しかし行く」
「なぜ」
「御堂はそこで、転写を実行しようとしている。俺の体内データを取ろうとしている。しかし俺が行かなければ、御堂は別の方法で動く。もっと多くの人間を巻き込む」
「だから、自分から行く」
「そうだ。御堂の土俵で戦う。それが最後の手だ」
美咲は剛造を見た。
「田島さん、一つだけ聞かせてください」
「なんだ」
「怖いですか」
剛造は少し間を置いた。
「怖い」
「私も怖いです」
「そうか」
「でも行きます」
「骨がある」
「もう慣れました」
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廃工場への道を、二人は歩いた。
夕暮れが迫っていた。
剛造は歩きながら、ふと立ち止まった。
「美咲」
「なんですか」
「一つだけ言っておく」
「はい」
「お前と一緒に動いてきて、よかった」
美咲は足を止めた。
剛造はまた歩き始めた。
美咲はしばらく立ったまま、その背中を見た。
「田島さん」
「なんだ」
「私も、よかったです」
剛造は振り返らなかった。
ただ、少しだけ足が遅くなった。
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廃工場に着いたとき、すでに御堂の部下が数人いた。
そして奥に、御堂慎一郎がいた。
昨日の記者会見とは違う顔だった。
政治家の顔ではなかった。
ただの、一人の男の顔だった。
「来てくれましたか」御堂は言った。
「ああ」剛造は言った。「話があるだろう」
「そうです」御堂は静かに言った。「田島さん、あなたに、最後の頼みがあります」
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