第9話:魔王軍四天王の来襲、しかし相手が悪かった
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フリーマーケットでの大騒動を何とか切り抜けたルイス一行ですが、息をつく暇もなく、今度は魔王軍四天王の一人『断罪のザルヴァ』が襲来します!
一触即発の緊迫した空気の中、ルイスの「めんどくさい」が炸裂するバトル(?)の行方はいかに……?
シュールで痛快な第9話、ぜひお楽しみください!
フリーマーケットでの大騒動から逃げ出し、ルイス一行がたどり着いたのは、町外れの静かな森の小道だった。
「はぁ、はぁ……! あんたねぇ、本当に少しは反省しなさいよ! 一歩間違えたら、あの町は消滅してたんだからね!」
「いやぁ、まさかあの剣、まだインベントリのゴミ箱フォルダに入り切らずに残ってたとはな。次からはもうちょっと深く埋めとこう」
「そういう問題じゃないでしょっ!」
エリスが腰に手を当ててぷりぷりと怒っている。その隣で、ルルアが「でも、お陰で追手は撒けましたね……?」と苦笑いを浮かべていた。
ルイスはというと、ヤレヤレといった様子で肩をすくめ、騒動のせいで乱れたローブの裾をパタパタと払っている。
その時だった。
「――ふん、人間の分際で、我が魔王軍の網から逃れられるとでも思ったか」
突如として、森の空気が凍りついた。
ガサリ、と頭上の木々が音を立て、漆黒の瘴気が周囲を覆い尽くす。陽の光が遮られ、一瞬にして辺りが紫色の不気味な薄闇に包まれた。
「きゃっ……!? この魔力、ただ者じゃありません!」
ルルアが杖を構え、エリスも瞬時に剣の柄に手をかけた。
闇の中から降り立ったのは、重厚な黒曜石の鎧をまとい、顔の半分を仮面で覆った大男だった。手には禍々しい大鎌を持ち、その周囲には冷たい殺気が渦巻いている。
「我が名は魔王軍四天王が一人、『断罪のザルヴァ』! 勇者と噂される小僧、ここで首を置いていってもらおう!」
ザルヴァの低い声が地響きのように轟く。
四天王という言葉に、エリスとルルアの顔色がサッと変わった。一般の冒険者であれば、名前を聞いただけで絶望するほどの格上の強敵である。
だが――。
「……はぁ」
ルイスは、この日一番の、盛大なため息をついた。
「な、なんだその態度は……! 恐ろしくないのか、我が魔王軍の威圧が!」
「いや、あのさ……さっきまでフリーマーケットで走らされて疲れてるんだよ。なんでこう、次から次へと思想の強そうな奴が出てくるわけ?」
「ふざけるなっ! 死ねぇ!」
怒りに狂ったザルヴァが、空間を引き裂くような凄まじい一撃を大鎌に込め、ルイスめがけて突撃してきた。
周囲の木々が衝撃波でバキバキとへし折れる。常人であれば一瞬で肉片すら残らないほどの絶技だった。
しかし、ルイスの体がぴくりとも動くことはなかった。
正確に言えば、動く必要がなかった。
十回目の人生までに手に入れた、あらゆる攻撃を無効化し、さらに受けた魔力を周囲の環境に合わせて「自動で綺麗に消去する」というチートすぎるパッシブスキルが、勝手に発動してしまったのだ。
――キィィィン……!
ザルヴァの大鎌が、ルイスの鼻先数センチのところで、まるで目に見えない壁にぶつかったかのようにピタリと静止した。
「なっ……馬鹿な!? 我が渾身の一撃が、指一本触れずに……!?」
「あー、ほらうるさいって。近所迷惑だろ」
ルイスが面倒くさそうに、あくびをしながら「ふっ」と息を吹きかけた。
ただそれだけだった。
ほんの微かな、微風のような呼気。だが、十回分の転生を経て圧縮された莫大な魔力と理外の干渉力がそこに混ざっていた。
――ドオォォンッ!!
次の瞬間、音の壁が弾けた。
ルイスの息吹を受けたザルヴァの巨体は、紙くずのように吹き飛び、背後の巨大な岩ごと木っ端微塵に粉砕されて森の彼方へと消えていった。
あとに残ったのは、静まり返った森と、ポツポツと舞い散る黒い灰だけだった。
「…………え?」
エリスが、顎が外れそうなほど口を開けて固まっていた。ルルアも杖を持ったまま、ぽかんと目をパチクリさせている。
四天王の一人であり、大陸を震え上がらせた最強クラスの魔人が、まさかの「あくびの一息」で消滅したのだ。戦闘が始まったから終わるまで、わずか三秒の出来事だった。
「ふあぁ……、眠い。早く宿に戻って寝たいな」
ルイスは周囲の驚愕の視線などどこ吹く風とばかりに、伸びをしながらトボトボと歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよルイス! 今の何!? 四天王のザルヴァよ!? 伝説の騎士団でも何日もかかる相手を、あんた、ただ息を吹きかけただけよね!?」
「え? ああ、なんか勝手に飛んでいったろ。問題解決、解決」
「全然解決になってないわよ! 魔王軍が本格的に動き出してる証拠じゃない!」
エリスの絶叫を背中に聞きながら、ルイス・クラウドは「あーあ、また神様に怒られるんだろうなぁ」と心の中でボヤきつつ、十一回目の世界の夕闇の中を、めんどくさそうに歩いていくのであった。
第9話「魔王軍四天王の来襲、しかし相手が悪かった」をお読みいただきありがとうございました!
大陸を震え上がらせるはずの四天王・ザルヴァさんが、ルイスの「あくび(のような息吹)」一つで木っ端微塵に吹き飛んでしまうという、なんとも不憫な結末でしたね。相手が悪すぎるとしか言いようがありません。
そんな修羅場を背景にしつつ、「早く宿に戻って寝たいな」とマイペースを貫くルイスと、ツッコミに忙しいエリス&ルルアの掛け合いを楽しんでいただけたでしょうか?
さて、四天王をあっさり撃破してしまったことで、魔王軍本隊もいよいよ本気を出さざるを得なくなるはず。
怒涛の展開が続く第10話もお楽しみに!




