第5話:街道の宿場町にて、神様の視線を感じる
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宿でのんびり温かいシチューを味わっていたルイスですが、平和な時間は長く続きません。ついに空の上から、激怒した神様が直接お叱り(光の柱つき)にやってきます。神様の理不尽な要求をのらりくらりとスルーするルイスですが、エリスの前でついに十度の人生の秘密を語るフラグが……!?
シュールで少しだけシリアスな第5話、ぜひお楽しみください!
夜。宿の食堂は、暖炉のパチパチとはぜる音と、温かなシチューの香りに包まれていた。
「ふぅ……生き返る……」
ルイスは木製のスプーンで濃厚なクリームシチューをすくい、至福の表情でそれを口に運んだ。
ジャガイモはホクホクに煮込まれ、ゴロゴロと入った鶏肉は柔らかい。冷え切った体に温かさが染みわたる。これぞ人間の尊厳を取り戻す瞬間だった。
「ちょっとルイス、さっきの話の続き聞いてる?」
対面に座るエリスは、シチューに手をつけず、両肘をテーブルについてじっとルイスを睨みつけている。その目は「絶対に誤魔化させない」という強い意志に満ちていた。
「聞いてる聞いてる。シチューが美味いって話だろ」
「全然違うでしょ! 街道でのあれよ! 御者のおじいさんも『神の奇跡だ』って泣いて感謝してたのに、当事者のあんたは馬のようにお代わりを頼んで……!」
「だって美味いんだもん、この店のシチュー。特製ハーブが効いててさ」
「そういう問題じゃないの!」
エリスが頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
ルイスはそんな相棒の様子を横目で見つつ、内心で小さく息をつく。――やれやれ、これでも目立たないように「指先をちょっと動かしただけ」の省エネ仕様でやったつもりなのだが、どうやら一般人の基準からは大きく外れていたらしい。
十回の人生で培ったチートの暴発は、加減が難しいのだ。
その時だった。
ぱち、と食堂の天井に備え付けられた魔導ランプの明かりが、一瞬だけ不気味に明滅した。
「ん……?」
ルイスの手が止まる。
外の風が急にピタリと止み、店内の空気がわずかに重くなった。ただの気圧の変化ではない。それは、魂の底を冷たい指先で撫でられるような、得体の知れない悪寒だった。
(この感覚……まさか)
ルイスが眉間にしわを寄せた瞬間、食堂の窓ガラスがガタガタと震えだした。
遠くの夜空から、ごうっ、と低い地鳴りのような音が響いてくる。
次の瞬間、町の上空の雲が綺麗に丸く晴れ上がり、そこから一本の眩い光の柱が、ピンポイントでこの宿の屋根めがけて降り注いだ。
「きゃっ!? なになに、地震!?」
エリスが驚いて椅子から飛び上がり、周囲の客たちも「なんだ、神罰か!?」とパニックを起こしてテーブルの下に身を隠す。
光の柱は宿の天井をすり抜け、ルイスの目の前の空間にパズルのピースがはまるようにして、きらびやかな神聖文字の立体映像を投影した。
――『磯崎 駆! 貴様、また余計なところで派手に神の定めに干渉したな!!』
脳内に直接響く、盛大にキレた神様の美声。
あまりの威厳と怒気に満ちた声に、食堂の空気がビリビリと震える。
「……うるさいな。飯の邪魔をするなよ、神様」
ルイスは面倒くさそうにぼそっと呟きながら、シチューの入った皿をスプーンですくい続けた。
周囲の人間には神の声は聞こえていないようだが、天井から光を放つ立体映像の文字だけははっきりと見えているらしく、客たちは「ひっ……! 勇者様が神様に怒られてるぞ……!」と青ざめてさらに身を縮こまらせている。
――『いいかげんにしろ! 十一度目の世界だぞ! そろそろ大人しく、ドラマチックに魔王を討伐して、私の描いた美しいシナリオ通りに世界を救ってみせろ! さもないと、次の転生ではもっと面倒な呪いを――』
「脅すなよ。そもそも俺をこんなめんどくさい世界に勝手に放り込んだのはそっちだろ。文句があるなら直接降りてきて説教でも何でもしろよ。あ、でも降りてこられたらそれはそれでめんどくさいからやっぱ来ないで」
ルイスがやれやれと片手で手をヒラヒラと振ると、空中投影されていた神聖文字の映像は「くっ……この傲慢な魂めが……!」という捨て台詞を残して、プツリと途切れた。
――フッ、と部屋の明かりが元に戻る。
外の静けさも嘘のように消え去り、遠くから野犬の遠吠えが聞こえてきた。
「…………いまの、何……?」
テーブルの下から、顔を真っ青にしたエリスが恐る恐る這い出してきた。震える指でルイスを指さす。
「ルイス、あんた……今、空の上の神さまと直接会話してなかった!?」
「気のせいだろ。空耳、空耳」
「絶対空耳じゃないわよ! めちゃくちゃ怒られてたじゃない! 『シナリオ通りに魔王を討伐しろ』って……!」
「あー、うん、まあ、ちょっとした個人的な悪縁みたいなもんだ。気にすんな」
ルイスは最後の一口のシチューを飲み干し、ふぅ、と大きく息をついた。
神様が直接お叱りに来るということは、世界を救うタイムリミットが少しずつ近づいている証拠でもある。めんどくさい、実にめんどくさい。
「ねえ、ルイス……あんた、いったい何を隠してるの? 十一度目の世界って、さっきも言ってたし……」
エリスの真剣な瞳が、ルイスを射抜くように見つめている。隠し通すのはそろそろ限界かもしれない。
ルイスはため息をつき、ポケットからくすんだ銀のリングをいじりながら、ぽつりと呟いた。
「……少し長い話をしてもいいか? まあ、全部本当の、どうしようもない作り話みたいな実話なんだけどさ」
宿の食堂の温かな灯りの下で、やる気ゼロの主人公が語る、十度の人生の記憶。
十一回目の世界の夜は、静かに、しかし確実に、面倒くさい方向へと動き出していたのだった。
第5話「街道の宿場町にて、神様の視線を感じる」をお読みいただきありがとうございました!
美味しいシチューの最中に神様から直接怒怒のクレームが入るという、なんともルイス不遇(?)な展開でした。神様側の「美しくドラマチックに魔王を討伐しろ!」という理想と、ルイス側の「めんどくさいから早く寝かせてくれ」という温度差が最高潮に達していますね。
周囲の人たちが青ざめる中、マイペースにスープを飲み続けるルイスの肝の座り方はさすが十度転生者といったところでしょうか。
さて、いよいよエリスに過去の十度の人生について語り始めるルイスですが、彼女はこのぶっ飛んだ真実をどう受け止めるのか? 次回もお楽しみに!




