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元カノに刺されて始まった十度の転生:やる気ゼロのグダグダ旅なのに、なぜか世界を救ってしまう件  作者: 凪塩 未来


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第4話:一撃で終わるはずの戦闘が、なぜか長引く理由

第4話をご覧いただきありがとうございます!


東の森から帰ってきたと思いきや、町の入り口でさっそく新たなトラブルに巻き込まれるルイスとエリス。

「めんどくさいことに関わるな」といつも通り逃げ腰のルイスですが、正義感の強いエリスが飛び出したことで、またしても規格外の力をうっかり発揮してしまうことに……?

静かに暮らしたい男のドタバタ(?)日常劇をお楽しみください!

東の森からの帰り道、ルイスとエリスの足取りには明確な温度差があった。

「待ってよルイス! 足速すぎ! ……じゃなくて、さっきの何なのよ!」

エリスは銀の鎧をガシャガシャ言わせながら、ルイスの背中を必死に追いかけている。

「早く帰らないと、宿のシチューが冷めちまうだろ。冷えたシチューほど絶望的なものはないぞ」

「シチューの話なんてしてないの! 魔王軍の尖兵を、目つきとため息だけで消し炭にしたんでしょ!? 普通、そこはもっとこう……『ふん、雑魚めが』とか言って剣をスタイリッシュに納刀するところじゃないの!?」

「そんな中二病みたいな真似できるか。恥ずかしくて夜しか眠れなくなるわ」

「十分寝てるでしょ、あんた毎朝昼まで寝てるじゃない!」

エリスの真っ当なツッコミを、ルイスは華麗に右から左へ聞き流しながら宿への道を急いだ。


だが、運命というものは、ルイスの「のんびりシチューを食べたい」というささやかな願いを容易には許してくれないらしい。

町の門をくぐろうとしたその時、背後から荒々しい馬のひづめの音が響いた。

「どけっ! どけっ! 道をあけろ!」

怒声とともに、商人の馬車が暴走するように駆けてくる。その牽引馬の足元が突然ぐらりと崩れた。街道の石畳にぽっかりと開いた大穴に、馬の前脚が綺麗にハマってしまったのだ。


ガシャーーーン! と、荷台に積んであった木箱が派手にひっくり返り、中から大量の丸ごとチーズやリンゴが四方八方に転がり出る。

「うわぁっ! 積荷がぁ!」

御者の初老の男性がひっくり返った座席から転げ落ち、頭を抱えて泣き叫んだ。

周囲の通行人たちが足を止め、遠巻きにそれを眺めるだけで誰も助けようとはしない。穴にハマった馬はパニックを起こし、さらに暴れようと暴威を振るっている。

「大変……! 御者のおじいさん、馬の暴れっぷりじゃ踏み潰されちゃう!」

正義感の強いエリスは、叫ぶが早いか、すぐに抜剣して走り出そうとした。

「あー、待て待て」

ルイスは伸びをしたついでに、エリスの襟首を後ろからグイと掴んで引き留めた。

「ちょっ、何すのよ! 助けないと大変でしょ!」

「お前が突撃しなくても、あの親父さんは馬の足の隙間に転がってるから物理的に安全だ。それに、あんな暴れ馬に近づいたら危ないだろ。めんどくさいことに関わるな」

「見捨てる気!? それで本当に勇者なの!?」

「勇者って呼ぶな、俺はただの帰宅途中のおっさんだ。精神年齢的に」

二人がそんな押し問答をしている間に、暴れていた馬がますます激昂し、御者に蹄を振り下ろそうとした――その瞬間だった。


「――っ、危ない!」

エリスがルイスの手を振り払い、一気に距離を詰めて馬の前に飛び出した。

見習い騎士とはいえ、彼女の剣術の腕は確かなものだった。華麗な身のこなしで馬の前に回り込み、懐から取り出した鎮静用の魔道具を掲げようとする。

だが、その時。暴れる馬の尻尾のあたりから、黒くうねる不気味な瘴気が吹き出した。

「え……?」

エリスの動きがピタリと止まる。瘴気はただの野生の暴走ではない。先ほど森で消し去ったはずの、魔王軍の残党が残した呪いの残りカスだった。それが馬に憑依し、凶暴な魔獣へと変貌させようとしている。

「小娘、退けぇッ!」

黒い瘴気が巨大な獣の影をかたどり、エリスに向かって牙を剥いた。

「っ……!?」

体が追いつかない。エリスが目を見張り、剣を構え直したその時――。


ぽん、と。

彼女の肩に、だるそうな手が置かれた。

「だから、めんどくさいから関わるなって言ったろ」

いつの間にかエリスの隣に立っていたルイスが、ため息をつきながら一歩前に出た。

その目は半開きで、まるで今から残業を言い渡された社畜のような絶望の色に染まっている。

「ルイス……?」

「ちょっとおとなしくしてろ。秒で終わらせるから、シチューが冷める前に帰るぞ」

ルイスは右手の指先を、暴走する馬――正確にはそれに憑りついている黒い瘴気に向けて、めんどくさそうにピッと突き出した。


――バチリ、と微弱な静電気が走るような音がした。


それだけ。呪いの瘴気も、暴れ狂っていた馬のパニックも、すべてが一瞬にして霧散した。

馬はキョトンとした顔で「ヒヒーン」と鳴き、何事もなかったかのように大人しく座り込む。積荷のリンゴやチーズも、ルイスの無自覚な空間修正の力によって、勝手にピタリと元の木箱へと綺麗に収まっていった。

「「…………は?」」

御者のおじいさんとエリスが、完全に思考を停止させた顔でルイスを見上げる。

街道の通行人たちも、何が起きたのか理解できず、ただ口を開けて固まっていた。

「よし、解決だな」

ルイスは満足そうにうなずくと、エリスの袖を引っ張った。

「ほら、突っ立ってないで帰るぞ。夕暮れ時は冷えるんだからな」

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよルイス=クラウド!! 今のは一体……! 呪いの瘴気を、指先一つで消し去った上に、散らばった荷物まで一瞬で片付けたわよ! あんた、本当に人間なの!? もしかして今の、古代魔法の極致『全物質再構築』の応用!? ねえ、聞いてるの!?」

「うるさいなぁ、お腹空いたんだってば。あー、早くシチュー食べたい」


夕日に染まる町の入り口で、エリスの必死の問い詰めと、それを全力で無視して早足で歩くルイスのコントのようなやり取りが、しばらく響き渡り続けた。

一撃で終わるはずの戦闘(もどき)は秒で終わったが、その後の説教は、どうやら夜遅くまで続きそうだった。

第4話「一撃で終わるはずの戦闘が、なぜか長引く理由」をお読みいただきありがとうございました!


馬の暴走からの呪いの瘴気という、いかにもファンタジーなピンチも、ルイスの手にかかれば指先一つ(しかも「めんどくさい」という理由)で秒速解決です。おまけに散らばったチーズやリンゴまで自動で片付けられてしまい、御者のおじいさんもエリスもポカンとするしかなかったですね。

戦いは一瞬で終わるものの、エリスの「ねえ、今の魔法って何!?」という終わらない問い詰めと説教のほうが、ルイスにとっては一番の強敵かもしれません。


さて、すんなり宿に帰って温かいシチューにありつけるのか? 次回もお楽しみに!

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