外伝 第2話:元魔王の隠居生活――ブラック労働からの解放と、だらしない英雄
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本編でルイスに秒殺されたはずの元魔王・ザクス視点から描く、平和な隠居生活のエピソードです。かつての恐怖の君主が、今やすっかりスローライフを満喫しているギャップとおっさん感をお楽しみください!
「……はぁ。今日も世界は平和だな」
深い森の奥、ひっそりと佇む小さなログハウスのベランダで、元魔王ザクスは淹れたてのハーブティーを一口すすり、盛大にため息をついた。
かつて世界を恐怖のどん底に叩き入れ、魔王軍の頂点に君臨していた男の姿はそこにはない。今あるのは、エプロンをつけ、庭で育てたトマトの収穫にいそしむ、ただの「隠居したおじさん」の姿だった。
あの、神様によって無理やり暴走させられた最終決戦の日から、どれくらいの月日が流ただろうか。
ルイスという名の「理外のバケモノ」に一刀両断され、神の立体映像ごとすべてを粉々に粉砕されて以来、ザクスの人生(魔王生?)は一変した。
世界が救われた(正確にはルイスが勝手に終わらせた)後、魔王軍は綺麗に解散した。残された四天王たちは「やったー! 定年だー!」と歓声を上げてそれぞれの故郷へ帰っていき、巨大だった魔王城の跡地は、今ではすっかり自然に還って観光名所になっている。
ザクス自身も、最初は「これからどうやって生きていけばいいんだ……」と途方に暮れていた。なにせ、前職は魔王である。履歴書に書けるようなまともな職歴などない。
しかし、いざ人間社会に溶け込んでみると、これが案外悪くなかった。誰も自分を「魔王様」と畏怖せず、ただの怪力の変わり者として扱ってくれる。近所の村人たちと野菜の物々交換をしたり、朝の散歩をしたりする日々は、かつての終わらない書類仕事と、神界からの理不尽なプレッシャーに満ちたブラック労働に比べれば、天国のように快適だった。
「……あの野郎、今頃どうしてるかねぇ」
ふと、ザクスは遠い空を見上げて呟いた。
十一度目の世界で自分をボコボコにし、同時にブラックな魔王人生から救い出してくれた、あの気だるげな黒髪の少年――ルイス・クラウドのことだ。
あの日、神様をぶちのめした後、ルイス一行は王国の表彰式から盛大に夜逃げするように姿を消した。その後も「どこかの港町で昼まで寝ているらしい」とか「また次の面倒な世界に引っ張られたらしい」という噂だけが、風の便りにチラホラと聞こえてくる。
「英雄になる気なんてない、とか言いながら、結局困ってる奴を見捨てられないんだからな。お人好しめ」
ザクスは苦笑いを浮かべ、マグカップに残っていたハーブティーを飲み干した。
思い返せば、あんなに強烈な「やる気ゼロのオーラ」を放ちながら、なぜあそこまで圧倒的な強さを誇っていたのか。十回分の転生、十回の死、そして十度のどうしようもない救済――ルイスが背負っているものの重さを想像すると、元魔王であるザクスですら少し背筋が寒くなる思いがする。
自分はたった一度の人生(しかも途中でルイスに強制終了してもらった)でこれだけ気楽な隠居生活を手に入れているというのに、あの少年は今もどこかの世界で、神様に文句を言いながら剣を振るっているのだろう。
「――おや、ザクスさん! またトマトがこんなに赤くなってるよ!」
庭の向こうから、近くの村に住む少女の元気な声が飛んできた。
「おっと、本当だな。よし、今日の夕食は採れたてトマトのパスタにするか」
「やったあ! 私、お手伝いする!」
少女の笑顔を見て、ザクスは穏やかに目を細めた。
世界を滅ぼそうとした男が、今や村の子供たちと笑顔で野菜を育てている。なんてことのない日常。平和の尊さ。それを教えてくれたのは、あの面倒くさがりな一人の少年だった。
「……まあ、せいぜい頑張るんだな、ルイス」
ザクスは小さく呟くと、エプロンのポケットに手を突っ込み、再びのんびりとした足取りで畑の中へと歩き出すのだった。
どこかの空の向こうで、今日もまた神様に怒られながらため息をついているであろう「かつての敵」に思いを馳せながら。
外伝第2話「元魔王の隠居生活――ブラック労働からの解放と、だらしない英雄」をお読みいただきありがとうございました!
魔王を辞めてすっかり田舎暮らしに馴染んでいるザクスの姿、いかがでしたでしょうか。ルイスの巻き起こした「どうしようもない救済」は、敵だったはずの魔王の人生までも救っていた――という温かい(?)裏側をお届けしました。
さて、次回はどのキャラクターの視点が描かれるのか……? どうぞお楽しみに!




