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元カノに刺されて始まった十度の転生:やる気ゼロのグダグダ旅なのに、なぜか世界を救ってしまう件  作者: 凪塩 未来


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外伝 第1話:元カノの独白――クリスマスイヴのナイフと、十度の後悔

外伝第1話をご覧いただきありがとうございます!


本編では語られなかった、すべての始まりである「クリスマス・イヴの夜」の裏側。駆を刺した元カノ・真琴の視点から描く、切なくも救いのない後悔と狂気の物語をお楽しみください。

雪が舞い散るクリスマスイヴの夜。

街中が甘いイルミネーションの光と、カップルたちの浮かれた笑い声に満ち溢れていた。誰もが明日への期待に胸を膨らませ、幸せな時間を分かち合っている。

そんな賑やかな大通りから少し外れた、人通りの少ない冷たい夜道で、十六歳の少女――立花真琴は、自身の震える手をコートのポケットに突っ込んでいた。

ポケットの中で握りしめられているのは、冷たく鈍い光を放つ一本のナイフだった。


(……どうして、こうなっちゃったんだろうね)


真琴の脳裏に過るのは、ほんの数日前までの記憶だった。

優しくて、どこか気だるげで、でも自分だけに向けられる(と信じ込んでいた)磯崎駆の笑顔。彼はいつも「めんどくせぇ」が口癖で、部活の帰り道も重い荷物をボソボソ文句を言いながら持ってくれた。真琴にとって、駆は世界の中心であり、何よりも大切な存在だった。


だが、その信頼は、一通の匿名のメッセージによって音を立てて崩れ去った。


――『あなたの彼氏、最近別のクラスの女子と放課後中庭でこっそり会ってるよ。親しげに話してた』


その文字を見た瞬間、真琴の胸の奥で、ドス黒い炎が激しく燃え上がった。

信じたくなかった。だけど、一度疑念を持ってしまうと、駆の何気ない言動のすべてが怪しく見えてきた。最近LINEの返事が遅かったこと。スマホを裏返して置くようになったこと。休日に「ちょっと用事がある」と言って出かけたこと。

――全部、浮気の証拠に思えた。私以外の女の影に、怯え、嫉妬し、狂いそうになった。


(私あんなに尽くしたのに。私のこと、もうどうでもよくなったの? 私を裏切って、別の女のところに行くつもりなの……?)


胸が締め付けられるような痛みが、怒りと混ざり合って理性を焼き尽くしていく。

確かめなければならなかった。もし本当に裏切っているなら、こんな世界も、駆のことも、全部終わらせてしまえばいい。そんな歪んだ衝動に突き動かされるまま、真琴はクリスマスイヴの夜、駆を人気のいない場所へと呼び出したのだ。


「――ねえ、駆」

名前を呼ぶ自分の声が、自分でも驚くほど冷たく響いた。

並んで歩いていた駆が、不思議そうに振り返る。その無防備な顔を見た瞬間、真琴の中で何かが完全にブチ切れた。


背後から迫り、迷うことなくナイフを突き立てる。

――熱い感触。そして、酷く冷たい現実。

駆の体から力が抜け、視界がぐらりと傾いて崩れ落ちる。その瞬間、真琴の目に映ったのは、恐怖でも憎悪でもなく、ただ「え?」と信じられないものを見たような、呆然とした駆の瞳だった。


「……浮気、してたよね」

絞り出すように言ったその言葉に、駆は何も返せなかった。

いや、返す間もなく、彼の呼吸は止まった。


それから、どれくらいの時間が経っただろうか。

駆が突然「行方不明」になって警察が大騒動になり、真琴の周りからも人がいなくなった。彼女自身は、あの夜の犯人としてすぐに捕まることはなかった。証拠隠滅の工作をしたわけでもないのに、なぜか警察の捜査の手は真琴のところへ遅々としか伸びてこず、その間に彼女の心だけがすり減っていった。


裁判になり、精神鑑定が行われ、真琴は少年院へと送られることになった。

だが、世間の目よりも何よりも、彼女を苦しめたのは「後悔」だった。


事件から半年ほど経ったある日、警察から返却された駆の私物の中に、一冊の古いノートがあった。それは、駆が隠れて書いていた日記のようなものだった。

震える手でそのページをめくった真琴は、絶句した。


『今日の放課後、真琴の誕生日のサプライズプレゼントを買いに行くために、内緒で雑貨屋を回った。バレないように隠すのが面倒くさい』

『真琴が最近不安そうだから、何か安心させられるような甘いものでも買って帰ろうか。あいつ、チョコが好きだからな』

『クリスマスイヴは、どこを歩こうか。真琴が喜ぶイルミネーションの綺麗な場所を、友達に聞き込みした。照れくさいけど、あいつの笑顔が見られるならまあ、悪くないか』


ページに落ちたインクの滲みは、真琴の流した涙だった。

浮気なんて、最初からどこにもなかった。すべては真琴の勝手な勘違いと、嫉妬心が生み出した妄想だったのだ。駆はただ、彼女を喜ばせようと必死にサプライズの準備をしてくれていただけだった。


「あ……あぁ……、嘘、嘘だよ……っ!」


少年院の冷たい独房の中で、真琴は自分の頭を抱え、声を殺して泣き叫んだ。

取り返しのつかないことをした。世界で一番愛していた人を、自分の手で、最低最悪の誤解で殺してしまった。

ナイフを突き立てたときの、あの冷たい感触が、毎夜のように夢に出てくる。駆の「どうして」と言いたげな瞳が、彼女の心を永遠に締め付け続ける。


――もし、もう一度やり直せるなら。

――あの夜に戻れるなら。

――あの馬鹿げたメッセージなんて無視して、ただまっすぐに彼の手を握りしめていればよかった。


真琴は、冷たい鉄格子の向こうの夜空を見上げながら、二度と戻らない時間を呪い、そして自分の犯した罪の重さに耐えかねて、静かに狂っていく。

それが、磯崎駆の最初の人生を終わらせた少女の、救いのない罰であった。

外伝第1話「元カノの独白――クリスマスイヴのナイフと、十度の後悔」をお読みいただきありがとうございました!


すれ違いと激しい嫉妬から最悪の選択をしてしまった真琴の視点、いかがでしたでしょうか。本編のルイス(駆)の気だるげでシュールな姿の裏には、こんな重くて切ない過去の呪縛があったのですね。

さて、外伝第2話では、ルイスが転生した世界の一つで出会う「ちょっと変わった人物」の視点をお届けします! お楽しみに!

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