第2話:やる気ゼロのステータスと、最初の面倒事
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無事に十一回目の世界(ルイスとしての人生)をスタートさせたものの、前世から持ち越した「規格外すぎるチートステータス」と「絶対やりたくない怠惰なメンタル」のギャップに早くも頭を抱えるルイスくん。
そして、そんな彼の事情など露知らず、やる気満々でグイグイ引っ張っていく見習い騎士・エリス。この凸凹コンビの温度差が、この先の旅をどう転がしていくのか……? ぜひのんびりとお楽しみください!
石造りの天井に描かれた、天使だか悪魔だか分からない剥げかけたフレスコ画を眺めながら、ルイス・クラウドは深く、それはもう深くため息をついた。
「……なんで俺、またベッドの上で天井数えているんだろうな」
つぶやいた声は、古びた宿屋の部屋に虚しく吸い込まれていく。
ここは十一回目の世界。窓の外からは、石畳の道を馬車が通り過ぎる音や、朝市のにぎやかな声が聞こえてくる。平和な田舎町の朝、というやつだ。
だが、ルイスの精神年齢はすでに十回分の人生の加算により、見た目の十六歳とは裏腹に、酸いも甘いも噛み分けたおっさんのそれだった。
いや、おっさんを通り越して、すでに隠居した仙人の境地に達していると言っていい。
「ルイス! いつまでゴロゴロしてるの! 朝食のスープが冷めちゃうでしょ!」
階下から、先ほど布団を剥ぎ取った見習い騎士――名をエリスという――の怒声が飛んできた。
乱暴に開け放たれたままのドアの隙間から、香ばしいパンとハーブのスープの匂いが鼻腔をくすぐる。腹は減る。人間としての生理現象だけは、十回の人生を経てもしっかりと機能しているのが何とも憎らしい。
「はぁ……。飯のために生きるゾンビか、俺は」
仕方なく巨体を(いや、十六歳のスマートな体躯だが気分的には巨体だ)起こし、ルイスはボサボサの黒髪を掻きむしりながらベッドから這い出した。
宿の食堂の木製テーブルに座り、ルイスは無言でスープにスプーンを沈めた。
向かいの席では、エリスがすでにガツガツと硬い黒パンを頬張っている。騎士見習いらしく、食べる動作一つとっても無駄に血気盛んだ。
「ねえ、ルイス。聞いてる?」
「聞いてない。スープが美味いってことくらいだ」
「聞いてよ! 今日向かう東の森の奥にはね、十一度目の世界に現れた魔王軍の尖兵、『骸骨騎士団』の残党が潜んでるんだって。村の人が怯えてるの。あたしたちがそれをサクッと討伐して、最初の実績を作るのよ!」
エリスは目を輝かせながら拳を握りしめている。
ルイスはその横顔を生暖かい目で見つめながら、心の中で盛大に頭を抱えた。
――骸骨騎士団? 尖兵?
前々回くらいのワールドで、その手の連中はすでに数千体ほど更地に変えてきた記憶がある。わざわざ十六歳の小娘と一緒に出向いて、剣をガチャガチャ合わせる理由がどこにあるというのか。
「なぁ、エリス。平和に畑でも耕さないか? この町、土が肥えてそうだしさ。農業スローライフ、悪くないぞ」
「なに寝ぼけたこと言っての! あんた、昨日神殿の神父様になんて言われたと思ってり?」
「『汝、神の定めに背くことなかれ』とか何とか。お経みたいなありがたいお言葉だった気がする」
「『この世界に降り立った選ばれし勇者よ、闇を払え』でしょ! 神父様、泣きそうになりながらあんたの手を握ってたじゃない!」
そう、思い出したくもない。
この世界に転生した直後、ルイスは手違い(というか神の嫌がらせ)で聖都の真ん中に放り出され、わけもわからず「勇者様!」と祭り上げられたのだ。おまけに、前世までの十回で蓄積されたバグレベルの「チートステータス」と「自動反撃スキル」が、なぜかそのまま引き継がれてしまっている。
どれくらいチートかというと、今のルイスがうっかり道端の石につまづいて転びそうになっただけでも、世界の法則が勝手に発動して周囲半径一キロメートルの魔物を分子レベルに分解してしまうほどの過剰防衛仕様だった。
ルイスはふと、自分の右手の人差し指に嵌められた、くすんだ銀のリングに目をやった。
これは第七回目の世界で、気まぐれに拾った封印の指輪だ。外そうとすると世界が滅びかける仕様のため、外すに外せずそのまま指に居座っている。
「ステータス確認、っと……見るだけでも気が滅入るな」
心の中で念じると、脳裏に青白い文字の羅列が浮かび上がった。
【名前】ルイス・クラウド
【年齢】16(十度の人生の記憶)
【称号】世界を間違えて壊す者、神々の頭痛の種、怠惰の勇者
【レベル】999(上限突破エラー)
【ユニークスキル】
・『めんどくせぇから消えてくれ』(自動発動:視界内の敵対意図を消去・消滅)
・『不本意な無敵』(物理・魔法・神罰完全無効)
・『十度目のため息』(周囲の士気を強制的に奈落の底へ叩き落とす)
「……ふっ」
ルイスは思わず乾いた笑いを漏らした。
こんなのを持っていて、どうやって一般人ぶれと言うのか。魔王どころか、神様ご本人ですら一息で吹き飛ばせるスペックである。だからこそ、十回の人生でうっかり魔王を消し飛ばし、神にキレられて強制送還されてきたわけだ。
「おい、ルイス! ぼーっとしてないの! ほら、出発するよ!」
エリスがガタッと椅子を引いて立ち上がり、ルイスの腕をグイグイと引っ張る。
「いてて、引っ張るなよ。腕がもげる。……分かったよ、行くよ。行けばいいんだろ、東の森へさ」
「よし! さすが私の選んだ相棒!」
「いつの間に相棒になったんだ……」
文句を垂れ流しながらも、ルイスは腰のベルトに、これまた前世から持ち越してしまった呪いの魔剣を引っ掛けた。
宿の外に出ると、冬の冷たい朝の空気が頬を撫でる。
――十一回目の世界。
やる気ゼロの主人公と、勝手に燃え盛る見習い騎士の、どうしようもない道中が今、重い足取りで幕を開けたのだった。
第2話「やる気ゼロのステータスと、最初の面倒事」をお読みいただきありがとうございました!
ルイスくんの頭の中に浮かぶステータス、いかがでしたでしょうか。称号の胡散臭さと、「めんどくせぇから消えてくれ」という名前のせいで威厳のかけらもないユニークスキルが、彼のこれまでの苦労(?)を物語っています。
「一般人として静かに暮らしたい」というささやかな願いとは裏腹に、なぜか世界は彼を放っておいてくれません。
さて、次回はついに東の森へ出発! 骸骨騎士団を相手に、ルイスはどんな「うっかり」をやらかしてしまうのか。第3話もお楽しみに!




