第14話:仲間たちの覚悟と、ルイスの過去
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いよいよ魔王城のふもとにたどり着いたルイス一行。焚き火の温もりの中で、エリスに「どうしてそんなに冷めているのか」と問われたルイスは、ついに十度の転生の秘密と、元カノに刺されて始まった過去を語り出す――。
仲間たちの絆が少しだけ深まる、シリーズ初の少ししっとりしたエピソード、ぜひお楽しみください!
第14話:仲間たちの覚悟と、ルイスの過去
黒い岩肌が剥き出しになった魔王領のふもと。夜のとばりが降りる頃、ルイス一行は冷たい風を避けるように、巨大な岩陰に小さなテントを張っていた。
焚き火のオレンジ色の炎が、パチパチと音を立てて暗闇を照らしている。
鍋の中では、ルルアが手際よく乾燥肉と野菜を放り込んだスープを煮込んでいた。ぐつぐつと温かい匂いが漂い、荒涼とした魔王領の冷気を少しだけ和らげている。
「ふう、夜になると一段と冷えますね……。先輩、スープ温まりましたよ」
「お、助かる」
ルルアから木製のカップを受け取ると、ルイスは両手で包み込むようにしてその熱を感じ取った。一口すすると、乾燥した喉に染み渡るような優しい塩気が広がっていく。
向かい側では、エリスが愛用の剣の手入れをしながら、じっとルイスの横顔を見つめていた。
「……ねえ、ルイス」
「ん、なんだよ。味付けが薄かったか?」
「そうじゃなくてさ」
エリスは布で刀身を拭きながら、真剣なまなざしを向けた。
「ここまで一緒に旅をしてきてさ、一つだけずっと気になっていたことがあるのよ」
「……嫌な予感がする質問だな」
「失礼ね。真面目な話よ」
エリスは手を止め、焚き火の向こうのルイスをまっすぐに見据えた。
「あんたさ、戦闘の腕前は人間離れしてるし、どんな窮地に陥っても全然動じないし、変なところでめちゃくちゃ物知りだし……なのに、どこかずっと世界を諦めているような、ものすごく遠くを見ているような目をしている。……一体、何があったの?」
その言葉に、ルルアも動きを止め、不安そうな顔でルイスに視線を向けた。
――やっぱり、突っ込まれてしまったか。
ルイスはカップを地面に置き、やれやれと頭をかいた。十回の人生の記憶なんて、普通の人間に説明したところで「頭がおかしくなったのか」と思われるのがオチだ。だが、ここまで行動を共にしてきた仲間たちに、嘘をつき続けるのも少しだけ気恥ずかしかった。
「……信じないかもしれないけどさ」
ルイスは小さく息を吐き、夜空の彼方に浮かぶ不気味な紫色の月を仰ぎ見た。
「俺には、この人生の前に……十回の別の人生があったんだよ」
「……は? 十回?」
エリスが目を丸くする。ルルアは「じゅ、十回ですか……?」と小首をかしげた。
「ああ。最初の人生は十六歳のとき、クリスマス・イヴの夜だったな。嫉妬に狂った元カノに、背中をナイフでグサリと刺されてあっけなく死んだ」
「待って、最初のワードから情報量が多すぎて処理しきれないんだけど!?」
「で、死んだら神様が出てきて、『現世に戻るか転生するか』って聞かれたんだ。暇つぶしに悪戯してたらキレられて、結局『特別な力』をもらって別の世界に放り出された。……でも、その世界には変な絶対ルールがあってさ。面倒くさかったからそれを全部無視して破りまくったら、世界の神にめちゃくちゃ怒られて、また別の世界に追放された」
淡々と、しかしどこか自嘲気味に語るルイスの声音には、嘘偽りのない重みがあった。
「それを……十回繰り返した」
ルルアが息を呑む。
「十の世界で、十人の魔王と出会って、めんどくさいなぁと思いながら適当に戦ったら、なぜか全部勝手に倒れちゃってさ。世界が救われるたびに神様が激怒して、また別の世界に放り出される。その繰り返しだ」
ルイスは腰のベルトに引っ掛けられた、あの神話級の魔剣を指先でトントンと軽く叩いた。
「だから、俺はこの世界でも、英雄になりたいわけじゃない。誰かを救いたいわけでもない。ただ、ぐっすり寝て、美味いものを食べて、面倒なことから全力で逃げ出したいだけなんだよ。……なのに、なぜかお前たちが勝手についてきて、魔王を倒さなきゃいけない空気を作る。本当に、いい加減にしてほしいって思ってるさ」
ルイスの言葉には、棘もなければ悪意もなかった。ただ、途方もない疲労感と、諦めが混じった本音だけがそこにあった。
しばし、テントの周囲に静寂が訪れた。
パチパチと薪が爆ぜる音だけが響く。エリスは言葉を失い、ルルアは少しだけ切なそうな顔でルイスを見つめていた。
やがて、エリスはふっと息を漏らし、クスリと笑った。
「なんだ……そんなこと」
「は? そんなこと、っておい」
「だってさ、それが本当なら……あんた、一人で十回も世界を救ってきたってことじゃない。誰にも感謝されず、神様に怒られながら、ずっと一人で背負ってきたんでしょ?」
エリスは立ち上がり、ルイスの隣に歩み寄ると、その肩にぽんと手を置いた。
「私はね、英雄になりたいなんて思ってないわ。ただ、理不尽に村を焼かれたから仇を討ちたいだけ。でも、ここまで一緒に歩いてくれたあんたが、そんなボロボロの事情を抱えてるならさ……」
彼女はフッと力強く微笑んだ。
「十一回目の今回は、少しだけ私たちが手伝ってあげる。面倒なことは二人で半分こ、いや、私たちが押し付ける側になってあげるわよ」
「先輩、そうですぅ!」
ルルアも元気よくスープの鍋から立ち上がり、ルイスに駆け寄る。
「何回生まれ変わろうが、今の先輩は私たちの『先輩』です! 魔王なんてやっつけて、そのあとは美味しいご飯を作って、思いっきり寝かせてあげますから!」
二人の真っ直ぐな瞳を見つめ返し、ルイスは思わず言葉を失った。
――十度の人生で、こんなふうに自分の事情を受け止められたことなんて一度もなかった。いつも、神様に押し付けられ、周囲に祭り上げられ、ただ流されるだけの人生だった。
「……お前らなぁ」
ルイスは照れくさそうに頭をかき、ふっと息を抜くように笑った。
「ほんと、調子が狂うぜ。……まあいいさ。どうせ逃げられないなら、最後の最後くらい、お前らの言うことに付き合ってやるよ」
冷たい魔王領の夜風の中に、不思議と温かな空気が満ちていく。
十度の死と絶望を越えてきた男の背中に、初めて「一人ではない」という確かな温もりが寄り添っていた。
いよいよ明日は、最後の魔王城へ。
ルイス・クラウドの、十一回目の、そして少しだけ前を向いた旅の夜が、静かに更けていくのだった。
第14話「仲間たちの覚悟と、ルイスの過去」をお読みいただきありがとうございました!
いつものグダグダな掛け合いから一転、ルイスが自分の過去(十回の人生と、元カノのトラウマ)をポツリポツリと明かす回となりました。ギャグ強めでありながら、主人公の抱える根本的な「気だるさの理由」がしっかり描かれることで、エリスやルルアとの絆がより引き立つ形になったかなと思います。
「面倒なことは半分こ」と言ってくれる仲間たちの優しさに、ルイスが少しだけ見せた笑顔が印象的ですね。
さて、心の準備も整った(?)ところで、次回はいよいよ魔王城への突入! ルイスの「あ、すいません通りますよ」的シュールな攻略劇をお楽しみに!




