第11話:追放されたエルフの森で、ぐうたらスローライフを企む
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王宮のめんどくささから逃げ出したルイス一行がたどり着いたのは、外界を寄せ付けない厳格なエルフの聖域。そこで静かなスローライフを企むルイスですが、もちろん一筋縄でいくはずもなく――?
突如として現れた魔王軍の魔導士たちに対し、ルイスの「面倒くさいオーラ」が炸裂する第11話、ぜひお楽しみください!
第11話:追放されたエルフの森で、ぐうたらスローライフを企む
王宮での前代未聞の居眠り事件から数日。
ルイス、エリス、そしてルルアの三人旅は、王都の喧騒を遠く離れ、鬱蒼と茂る巨大な樹海――通称「精霊の森」のふたばに差し掛かっていた。
元々この森は、外界の人間を一切寄せ付けない厳格なエルフたちの聖域であり、許可なく立ち入れば文字通り蜂の巣にされる危険地帯として知られている。
しかし、今のルイスたちにとってそんなことはどうでもよかった。
「はぁ……静かで、空気が美味い。王宮の変にきらびやかな大理石の床より、こういう湿った土の匂いの方がよっぽど安眠できるわ」
ルイスは木にもたれかかり、大きなあくびを噛み殺しながらそう呟いた。
「ちょっとルイス、ここはエルフの聖域よ! 下手に魔力を使ったり失礼な態度をとったら、すぐにでも矢が飛んでくるんだからね!」
エリスは剣の柄に手をかけたまま、周囲の暗い森の奥を警戒してキョロキョロと落ち着かない様子で言った。
「エリスさんの言う通りですぅ……。あそこの木の上の影、絶対こちらを狙ってますよぅ……!」
ルルアが震えながら杖を握りしめる。
二人の言う通り、木々の間からは無数の鋭い視線が注がれていた。エルフの尖兵たちが、侵入者である三人を取り囲むように潜んでいるのだ。
ザッ、と草木を踏む音がして、数人のエルフの戦士たちが姿を現した。
全員が美しい銀の髪と整った顔立ちを持ち、手には精巧な魔力弓を構えている。その先頭に立つ、長老の風格を漂わせた女性エルフ――シフィリアが、冷ややかな瞳でルイスたちを睨みつけた。
「人間どもよ。我が聖域に足を踏み入れた罪は重い。今すぐ立ち去るか、ここでその命を散らすか、選ぶがいい」
凛とした、拒絶の意思に満ちた声が森に響く。
普通ならここで平身低頭に謝罪し、命乞いをするところだが――。
「おっ、ちょうどいいや」
ルイスは面倒くさそうに目を細めると、シフィリアに向かってまっすぐ歩み出た。
「なっ、貴様、命知らずめ……!」
「いや、そうじゃなくてさ。ここ、人間社会から完全に離れてて、誰も来ないだろ? だからさ、俺たちにこの森の隅っこでいいから、ぐうたらなスローライフを送るための空き家か何かを提供してくれないか? 家賃は払えんが、代わりに魔王軍の雑魚が来たら追い払っとくからさ」
「……は?」
シフィリアの美しい眉が、きれいに跳ね上がった。怒りを超えて、あまりのバカバカしさに思考が停止したような顔である。
「何を言っているんだ、この人間は。ここは貴様らのような汚らわしい俗世の者が足を踏み入れていい場所ではない! すぐに叩き出せ――!」
「あー、待て待て。話を聞かないと、めんどくさいことになっ……」
その時だった。
森の空気が急激に歪み、禍々しい紫色の黒煙が突如として空間を引き裂いた。
「――ククク、エルフの聖域と聞いてやってきたが、随分と賑やかなようだな」
地を這うような低く気味の悪い声と共に、地面から無数の黒い影が這い出してきた。
現れたのは、魔王軍の中級幹部である「骸骨魔導士」の群れと、その従僕である下級魔獣たちだった。以前、ルイスが秒殺したザルヴァの部隊の残党らしい。エルフの結界の隙間を縫って、この聖域の奥深くまで侵入してきたのだ。
「なっ、魔王軍の魔導士だと!? なぜこの結界の中に……!」
シフィリアたちエルフの戦士が動揺の色を隠せない。聖域の守りが破られたのは何百年ぶりかのことだった。
「ふはは! この森に隠された『精霊の宝玉』を渡してもらおうか! さもなくば、この美しい森ごとすべてを灰にしてくれる!」
魔導士が不気味な笑い声を上げ、杖の先端に強大な黒い炎の塊を収束させ始めた。
エルフの戦士たちが一斉に弓を構えるが、敵の数があまりにも多すぎる。このままでは、聖域が蹂虉されるのは時間の問題だった。
「くっ……! 全員、迎撃の構え!」
シフィリアが歯噛みしながら叫ぶ。しかし、その顔には明らかな焦りと絶望の色が滲んでいた。
そんな緊迫した空気の中、一人だけ全く別の世界にいる男がいた。
「……はぁ。せっかく静かにスローライフを送ろうと思ったのに、初日からこれかよ。どんだけ俺を働かせたいんだよ、この世界の神様は」
ルイスは頭を抱え、深いため息をついた。
十回の人生の記憶が、面倒くさいスイッチを容赦なく押していく。
「おい、人間! 何をブツブツと……! 今すぐ加勢しないなら、お前たちを先に処刑するぞ!」
シフィリアが鋭く声を飛ばすが、ルイスはめんどくさそうに片手をひらひらと振っただけで、前へと一歩踏み出した。
「うるさいなぁ。静かに寝たいだけなのに、なんでこう、邪魔しか入んないかな」
ルイスがぼそりと呟き、あくびを噛み殺しながら、目の前に迫る魔王軍の群れを一瞥した。
――次の瞬間。
ルイスの身体の奥底に眠る、十回分の転生で培われた「理外の理」が、自動的に解放された。それは攻撃の意思ですらない。ただ、「視界から今すぐ消えてほしい」という、純粋な怠惰の具現化だった。
ズウン……と、世界が静止したような重低音が森を揺らした。
ルイスを中心に、見えない衝撃波が全方位へと爆発的に広がる。魔導士たちが放とうとしていた黒い炎の塊は、発射される寸前にまるで霧のように掻き消え、彼らの足元から崩れ去っていく。
「なっ……なんだ、今の魔力は……!? 体が、動か……ぬ……!?」
魔導士のリーダーが恐怖に歪んだ声を上げたが、それも束の間。
ただの「ルイスの歩く足音」や「軽く振った手刀の軌跡」に巻き込まれるだけで、数千体の魔獣と数十人の魔導士の群れは、音もなく、一筋の血潮すら流さずに、文字通り「存在ごと」綺麗に消し飛んでしまった。
――シーン……と、森の音が再び戻ってくる。
あとに残ったのは、綺麗に更地になった(しかしなぜかエルフの木々は一本も傷ついていない)広場と、ポツンと立つルイスの姿だけだった。
「…………え?」
シフィリアは、手元の弓を取り落としそうになりながら、ぽかんと口を開けたまま固まっていた。
エルフの戦士たちも、誰一人として声を出すことができない。大陸を脅かす魔王軍の精鋭部隊が、一瞬にして、文字通りの意味で「消滅」したのだから無理もない。
「ふあぁ……疲れた。おい、エルフのお姉さん。話の続きだけどさ、この森のどこかに、日当たりが良くて静かな空き家、ない?」
ルイスはそんな周囲の圧倒的な絶句など全く気にせず、首をポリポリとかきながらシフィリアに振り返った。
伝説の英雄、あるいは厄災の化身か。そんなものとはかけ離れた、ただの「労働を拒絶する男」の姿がそこにあった。
シフィリアは震える足で一歩前に出ると、複雑な表情を浮かべながら、ぽつりと呟いた。
「……あなたはいったい、何者なのだ……?」
「ただの、ぐうたらな旅人だよ。じゃ、家を探すから、邪魔しないでくれよ」
ルイスはトボトボと歩き出し、エリスとルルアも「また始まったよ……」と呆れたような、しかしどこか諦めたような顔でその後を追うのだった。
こうして、追放されたはずのエルフの森で、ルイスの「不本意なスローライフ計画」が、盛大な誤解と驚愕を伴いながら無理やり幕を開けたのであった。
第11話「追放されたエルフの森で、ぐうたらスローライフを企む」をお読みいただきありがとうございました!
エルフの戦士たちが緊張走らせる中、相変わらず「日当たりのいい空き家」を探すことしか頭にないルイスのマイペースっぷりはいかがでしたでしょうか。魔王軍の精鋭部隊が、ルイスの「早く寝たい」という無自覚な気だるさに巻き込まれて存在ごと綺麗に消し飛んでしまうという、シュールすぎる無双劇でしたね。
圧倒的な実力を目の当たりにしてポカンと口を開けるシフィリアたちのリアクションも、見どころの一つです。
果たして、エルフの森でのスローライフは本当に平和に過ごせるのか? 次回もお楽しみに!




