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 さて、「もういいかい」に「もういいよ」と返ってきたからには、鬼として隠れた子どもを探さなければならない。

 だが、それ以前の問題がある。

「ななな何!? 子どもの声が、たくさん……」

「まあまあ、メアリー、落ち着けって」

 怖がりの芽亜里は存分に恐怖していた。それもそうだろう。知らない子どもの声が増えていたのだから。一度目は亜都の声しか聞こえなかったというのに。

 だが、冷静に考えれば、十年以上前の姿に戻っているこの空間から異常現象なのである。知らない子どもが敷地内に増えていても今更という話だ。

 それに亜都は櫻子たち三人と亜都を含み、七人いると言っていた。知らない複数人の声が聞こえるのは、その言葉が嘘ではない証だ。まあ、一斉に放たれた声から何人いるか推測するのは難しいが、亜都を含め、三人以上はいるだろう。亜都の言葉が本当なら、何も不可解なところはない。

「とはいえ、名前も知らない相手を探すなんてな……」

 亜都以外の三人には櫻子たちは会っていないのだ。見も知らぬ人間をどうやって探し当てろというのか。

 芽亜里が付け加える。

「それに、あたしたち、勝手に鬼にされちゃったし……」

「普通かくれんぼは鬼が一人だろうし、全員でじゃんけんとかで決めるもんだろ」

 諦の言う通りである。全員の姿形も把握していないのに、鬼役を割り振られるなど、理不尽きわまりない。

 だが、櫻子は考えた。

「鬼が三人なのは、誰が隠れているかわからない私たちへのハンデじゃないか? おそらく、隠れている側は私たちのことを知っているんだろう。何もわからない私たちが突然かくれんぼの鬼をやらされるなんて、かくれんぼ以前のルール違反だ。だが、それは一人で探すなら、の場合の話になる。三人で探せば一人で探すより効率がいい」

 それはそうだが、なんとなく納得のいかない芽亜里と諦に、櫻子はこう続けた。

「隠れ場所が無限ではなく、この公園に限定されているからな。だから、公園に『招かれた』んだ」

 芽亜里と諦がぽん、と手を叩く。言われてみれば、その通りだ。

 櫻子がこの公園を選んだ理由は不明だが、その謎に気づいた直後に亜都が現れた。偶然にしてはできすぎている。亜都が何かは知らないが、「招かれた」という表現はとてもしっくりきた。

 つまり、会うのはこの公園である必要があったのだ。それならば、かくれんぼの範囲も公園の中であると考えられる。範囲が指定されていれば、探すのは容易い。それに、子どもがのびのびと遊べる公園とはいえ、高校生になった三人からすれば、隅々まで歩き回っても体力は充分に保つ。三人で分担するなら尚更だ。

「で、どこから探す?」

「まあ、順当にでこぼこ山だろうな」

 でこぼこ山は穴の空いた中が空洞の遊具である。隠れるのにこれほど最適な場所もないだろう。穴は子どもなら悠に通り抜けられるサイズだ。「もういいよ」の声からして、隠れているのは亜都と同じ年頃──幼稚園児くらいの子どもだろう。となれば、でこぼこ山に隠れるやつがいてもおかしくない。

 ただ、一つ懸念があるとすれば、夏のでこぼこ山は暑い。通気性が悪いのだ。熱中症が出たという話は櫻子たちも聞いたことはある。

 だからこそ、隠れているならさっさと見つけてやりたいところだ。

 三人はでこぼこ山に向かう。各々、頭を穴の中に突っ込んだ。

 が、すぐに顔を出して噎せる。ものすごい刺激臭がしたのだ。酸っぱい臭い。腐ったみかんのような臭い。

「げほげほ、なんだこの臭い。とても目を開けちゃいられねえ」

「うえーん」

 目に刺さるほどの臭いは涙腺から存分に水分を分泌させ、たった一瞬のことであったにも拘らず、芽亜里と諦の二人を涙でぐしょぐしょにした。

「こんなところに人が隠れてるわけねえよ……次行こうぜ、次」

「そ、そうだね」

 芽亜里と諦は目に見える範囲、隠れられそうなところの探索をした。ブランコとジャングルジムは無視だ。隠れるところがない。他にはベンチの陰や公衆トイレの周辺も探した。手がかり一つ見つからない。

「そもそもさ」

 水道で水分補給を済ませた二人は、ブランコに腰掛けて話をする。

「どういう子が隠れてるんだろうね? やっぱりその情報がないと厳しくない?」

「まあ、そうだな。亜都以外わからないし……」

「ここ、現実じゃないとしても暑いから心配だな……すごく暑いし、熱中症とかなってないといいけど」

「メアリーはやっぱ、普通の子どもが隠れてると思うか?」

「うーん、かくれんぼ名人ではあるかな」

 数時間は探した。体感だが。公園の隅から隅まで探したのだ。あと探していないとすればトイレくらいなものである。

 トイレは見た目が薄汚く、臭いので、正直あまり近づきたくない。それに、当然ながら男女に分かれている。幸い、諦は男、芽亜里は女で一人ずつで探せるが、芽亜里は一人になることを怖がった。とはいえ、諦が芽亜里と女子トイレに突入することは憚られたし、逆も然りだ。

「トイレ探すしかないな。ここ探していなかったらお手上げだ。降参しようぜ」

「うん、そうだね。でも……」

 芽亜里は改めてトイレを見る。明るすぎる日射しの下、仄暗さすら醸し出している公衆トイレはやはり……

「不気味だよ~、一人は怖いよ~」

「泣き言言うな。女は度胸だろ」

「アキラくんは男でしょ!」

「そうだけどそういうことじゃないだろ……」

 めそめそとし始める芽亜里を仕方なさそうに宥めながら、諦は二人で公衆トイレの前まで行く。

「くっさいな……トイレとはいえ……」

「うえーん……」

「手早くやるぞ。手早くな。オレも長居したくない」

 そういうレベルのひどい臭いである。芽亜里は変わらずめそめそとしていたが、すぐ合流できるだろう、と思うことにした。ここまで来たら、後には退けない。

 一人くらいは見つけたいものだ。

「じゃあ、あとでな」

「ま、待ってよ~」

「馬鹿、こっちは男子トイレ! オマエは女子トイレ!」

 諦に追い縋ろうとする芽亜里を諦は慌てて女子トイレに押しやった。用足し中の人物がいたら腹切りレベルの恥である。逆も然り。

 結局めそめそとしたまま、芽亜里は女子トイレに入っていった。いくら怖いからといって、そういう配慮まで欠如するほど、芽亜里も廃れていない。

 女子トイレの個室は三つある。一つだけ、扉が閉まっていた。誰かが用を足しているのだろうか。それとも誰かが隠れているのだろうか。

 確かめるべく、芽亜里はこんこん、と戸を叩いた。すると、こんこん、とノックが返ってくる。果たして、かくれんぼをしている人間がノックを返してくるだろうか、と思いながら、少し後回しにして、他の個室を調べることにした。時間が経ってからもう一度ノックをすれば、急を要すると思って、急いで出てきてくれるかもしれないし、ただの用足しなら、探索しているうちに出てくるだろう。そう考えたのだ。

 できれば後者でありますように、と願いながら、個室の一つに入った。ドアの裏側を確認する。誰もいない。その個室にはあまり清潔感のない和式便所があるだけ、と思ったが。

「きやああああああああっ!!」

 便器の中に、ずぶ濡れで、亜都が薄露と呼んでいた人形が入っていた。びっくりして声を上げたが、それだけである。

「えっ、えっ、どうしたらいいの? どうするのが正解? このままじゃトイレ使えないし、……やっぱり拾わないと駄目?」

 それはそうだろう。流れないし、むしろ詰まって状況は悪化するのみだろう。いちいち口に出さないと判断ができないのは芽亜里の臆病さ故である。

 そうっと、なるべく濡れているところに触れないように、芽亜里は人形を摘まみ上げた。

「あ、洗ってあげないと……」

 芽亜里は暑さによるものではない変な汗をかきながら、外に出た。一応公衆トイレの中に洗面台はあるのだが、この臭い空間で洗っても、綺麗になった気はしない。公園中央の蛇口で洗おう、と思った。

 しかし、外に出た瞬間、芽亜里はひっと悲鳴を上げ、人形を投げ出し、しりもちをついてしまう。

 それもそうだろう。ブランコには鎖でぐるぐる巻きになった死体があった。顔がぐちゃりと鴉に啄まれて、吊るされてゆらゆら揺れているスカートでしか女の子ということがわからない。トイレよりきつい腐乱臭が辺りを漂い、辺りはいつの間にか夕方になっていた。

 芽亜里はブランコの死体を見ないようにしながら薄露を拾い、蛇口のある方へ向かう。臭いに噎せながらも、蛇口をひねった。

 するとどぼどぼと流れてきたのは赤い色をした何か。芽亜里は慌てて避けた。鉄さびのような臭いは蛇口のものではない。水のように、あたかも当然であるかのように流れてくる液体。地面に広がり、参加して、黒っぽくなっていくそれは間違いない。血だ。

「いやあああああっ!!」

 芽亜里は一人、逃げ惑う。男子トイレの前に落ちている野球帽にも、女の子の死体が着ているワンピースと夏に似合わないストッキングにも、気づかないまま。

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