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「そうか。ならいいそれにしても」
そう言って、彼は鉄の大剣を見て両目を細めた。欲しい、と言うよりは物を品定めするような目だ。
「なかなか見栄えのいい剣だな。あれで切れ味が良いのなら小隊長への褒美になるくらいだ」
小隊長というと、エリートにとっては最初の配属先で、それ以外にとっては小さいながらにも土地が手に入る最初の階級だ。僕の故郷では庶民が特権階級――つまりは土地持ち――を目指すのに1番早い方法でもある。とは言っても、昇級試験か多大な功績を重ねに重ねる必要があり、最年少でも35歳だ。更に言うのなら、傭兵の平均寿命は30歳。つまり、余程早く特権階級になったとしても、気付いた時には既に同期が全員死んでいた、と言うことも珍しくない。そういう階級だ。
それほどの死に物狂いの努力があの剣1つで済まされる。恐らく嘘ではないのだろう。与えられる土地の中には開墾すらされていないものがあり、領主から与えられても農民や使用人を雇う金が必要になるし、土地が痩せていると、その出費が報われる頃には既に新でいる可能性もある。そして、傭兵の中には子に恵まれないものも多く、それらは一時的に領主の所有物となり、新たな小隊長の私物として与えられる――。そんな、虚しい苦労をするくらいなら、立派な剣の1本で済ますのもありかもしれない。
そんな風に考えていると、いつもの様に彼が力強く肩を叩いた。
「何まじめに考えてるんだよ。ほら、行くぞ」
その声ははつらつとしていて、さっき自分の言った事を気にするつもりは微塵にも感じられない。彼は悩んだことがないのか。知ろうとしたことがないのか。少しだけ、不安になった。
「……怖いですね」
彼がいるのだから当然だ。僕の隣にいる彼女がそう呟いた。少なくとも、彼女は僕の知っているこのことを知らないだろう。彼女が暗い気持ちのままだと募ってしまう罪悪感を振り切るために声をかけた。
「大丈夫ですよ。あれは僕たちの生活を守るための剣です。それにほら、クッキーを買いましたので、街を散策しながら食べましょう」
そう言って、クッキーを1袋ずつ――ついでに財布も――渡した。若様は財布をポケットへ適当に入れるとクッキーを1つ2つ3つとどんどん噛み砕いていく。お嬢様は1つ取ってはしげしげと眺めた後に申し訳なさそうに食べていく。2人の行動は全くの逆だった。こうしてみると、彼女だけでなく、彼もまた極端な環境のなかで育ったのだと感じた。




