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お嬢様がウブ過ぎる気がする
「あ……はい!」
どの位の声を出せばいいのか分かり兼ねたのか、お嬢様は突然大声で返事をした。彼の後ろ――つまりはお嬢様のすぐ近くにいた僕は思わず体を竦ませた。
その様子の何かが気に入ったのか、僕の主人は元気そうで何よりだ、と楽しげに笑う。
「そのくらい元気なら今日はたっぷり遊べるな」
僕たちの反応で分かったのだろう。お嬢様は耳まで真っ赤に染め上がり、また大きな声で弁明を始めた。
「そうじゃないんですっ」
主人のニヤケ顔を見てぁうっとどもると、今度は下を見ながら早口で話し始めた。
「堀の外にはお父様と一緒にしか出たことがなくって緊張しているんです」
さっきよりも声は小さいけれど、トーンが高くて聞き取りやすい。ただ、耳まで赤く染めながら、俯いて上目遣いに話されるとなんだかいけないことを強要しているような気がして嗜虐心がそそられた。
「お前、可愛いな」
僕の主人もそうだったのだろう。思ったことをそのまま口に出すことの多い彼は――羨ましいことに――お嬢様の頭を軽く撫でる。瞬間、彼女の大きな目の瞳孔が一瞬で縮小する様がよく見えた。
「ぇっと……」
引きつった笑みに涙を潤ませて、透き通るように白かった顔は首まで真っ赤。その状態で上目遣いに活動を停止。本当に嬉しすぎて反応に困った人間を初めて見たきがする。大抵の場合は大げさでも鳴き真似をしながら口を覆い隠してるのがやっとだ。そう考えると、彼女は本当に主人の事が好きに違いない。
そう思うと自然に、口から言葉が溢れてきた。
「そうだ。先に行って適当な食べ物を買ってくるよ」
いつもそうだけど、そう感じた時はどうしたらいいのか良く分からなくなる。あの2人の間に僕はいなくても良いと心の何処かで理解する。ただ、このまま何処かに行くようなことはないし、結局はこのままだ。知らず知らずの内に居場所がなくなったのかような錯覚に陥る。
「おう、ほら」
腰巾着から財布を取り出すと、躊躇いもなく僕へ渡した。屈託のない偉そうな笑だ。その表情が更に僕の何かを困惑させた。
「……じゃ」
曖昧な、歯切れの悪い返事をして、僕は先に街へと駆けていった。別に、彼らがそう言っているわけではない。それでも、どのくらい親密になっていいのか聞きたくなる。
息が切れない程度に走り、周りに人の気配のない所で歩いた。
「都市によっては親しすぎるくらいなんだよなあ。少なくとも、まだ僕たちは子供だからいいってだけで、その内ただの使用人になるんだ」
それは分かっている。だから、その内もっと離れればいい。




