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「おっす」
お嬢様に暫く静かにしてろよ。と言うと、番兵に近づいて挨拶をした。
番兵がこちらを向く。動きやすさを重視しているのか、関節部の隙間が多い鎧を着ており、その下にある使い古されたなめし皮が見える。日に焼けた浅黒い肌や白の混じった灰色の髭、滑らかに光を反射する槍の柄は彼が遍歴の戦士であることを物語っていた。いかめしい顔つきからは彼に嘘が通じないようにも見える。
「いつもの野暮用だ。通るぞ」
その横を彼は相変わらず気にすることなく通る様は無謀にも見えた。現に、番兵ただでさえ鋭い目つきを更に厳しいものにして口を開いた。
「その後ろにいるのは、どちらさまかな?」
背中に冷たいものが流れ、思わず唾を飲み込んだ。僕の人生で分かることの1つだが、こういうタイプは怒り出すと怖いし、長い。要するに最悪のパターンだ。
だが、主人は気にすることなく「んあ?」とぼやく。
「ほら、この前も一緒にいた下の薬屋の娘だよ。髪を切ったから雰囲気が変わったかもな」
薬屋になんの用があったのか良く分からないが、数日前に彼が妙な小瓶を持っていたのはそういうことだったのか。分からないことは多いが多少の事情は理解できた。ただ、そんな嘘で通るとは思えないのだけれど。番兵の目つきが更に厳しいものになる。
「んむ。そうであったか」
気がしたけれど、そんなことはなかったみたいだ。恐る恐る番兵の方を見るが、目つきは鋭いままだ。
「ほら、行くぞ」
確認してすぐに肩を掴まれ引っ張られた。バランスを崩しそうになりながらも付いて行き、気付いたことを聞いてみた。
「もしかしてあの番兵って、目が悪い?」
そういうと、嬉しそうにこちらを見て頷いた。
「だいたい、あの歳で門番をやっているのは領地を貰えなかった老人の小遣い稼ぎが大半だからな。この辺りの土地は鉱山で働いた方が稼ぎはいいし、戦いは傭兵の仕事だ」
確かに、彼の言うとおり魔法を主に扱っている都市国家は、魔法を使う際に必要となる魔石が多く取れやすい鉱山の近くにあり、自国で兵を保有するのは一部の軍事の都市国家か大国の貴族くらいだ。
「でも、遍歴の傭兵って可能性も……」
「まあ、な。軍事力に不安のある都市だし、最初はそう思っていたさ」
なんせ、あんだけおっかないからな。と彼は笑う。
「ただ、ある日気づいたんだよ。あの爺さん、相手の顔が良く見えてないんだ。目の前に果物を2つ落とした時に1つしか拾わないで、もう1つを踏みつぶしたんだ」
その時に、な。そう言って、彼はお嬢様に「もう喋っていいぞ」と言った。




