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「あっいえ、そういう訳ではないのですが。なんていうか、他の人たちが勉強をしているなか、私たちだけが抜け出していると悪いことをしている気分になって……」
そういって、彼女は少しだけ申し訳なさそうな顔をした。表情1つからでも可憐さが滲み出るなんて、彼女は魔法なんじゃないかと思えてくる。
「ああ、そういうことでしたか」
うん、あった。僕も最初の頃は誰が咎めるでもなしに何か悪いことをしている気分になってしまって、それとなくそわそわとしていた。そう、なっていたんだよなあ……。今はもう、そんな感覚もないのは明らかに慣れてしまったからだろう。
そう思うと急に、彼女がこの場にいることに対して罪悪感がとても出てきた。最近、僕が探しに行ってから見つけて帰ってくるまでの時間が遅くなっているために、彼女が付いてくる様になったのだから尚更だ。
ああ、これからそれとなく街をぶらつくとしても、お菓子を買ってあの場所に行くのは憚られる。ただでさえ下らないことに巻き込まれているのに、普段真面目な彼女に誤魔化してくれと頼むのは無理がある。今さらだけれど、今回は見つからなかったと言うことにして……。
「あの……、何か困ったことがあるのなら、私に言っていただいても……」
困惑した表情で彼女は聞いてきた。まあ、当たり前だ。不安を吐露した相手が状況を了解したような返事をしたあとで頭を抱えたのだから、そうなるに決まっている。失敗した。
「いえ、問題はありませんよ。ただ、従者の勘と言うやつなのですが、今日は若様を見つけられないかもなと思いまして……」
僕はできるだけ、彼女が困らないように言葉を選んで答えることにした。いくらなんでもこれから数時間、ずっと彼が見つかるかもしれないと思いながら探させるのは僕の良心が耐えられない。
「なので、今日は彼がいそうな所だけを探したら、すぐに帰りましょうか、ね?」
最初に覚悟を決めさせて少しだけ探したら学舎へ戻ることにしよう。自ら志願したとはいえ、この街のお姫様を適当に外へ歩かせたなんてお偉い先生方も内心気が気でないだろうし、その方がいいな。
「ええ、それなら……仕方ありませんね……」
どうにか説得はできたみたいだ。というより、ずっと表情が暗いのは僕としても悪い気がする。いや、悪いことをしているのだから当たり前なのだけど――。
「おーい、そこで何してんだよ」
突然、彼女の表情が明るくなる。そりゃあもう、体中から華やかさがあふれ出るくらいだ。やっぱり何かの魔法でも使っているんじゃないのかと、そう羨んでしまうが納得もする。当たり前だ。なんせ、今、僕らに話しかけたのは他でもない僕の主人なのだから。




