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「ふん」
彼は不満そうに鼻を鳴らし、粘土細工がいくらかを聞いた。
――なあ、あれは売り物か?
――いや、ただのおまけだよ。子供がいた時にやってるのさ。
――あれが欲しい。売るならいくらだ?
――青銅貨3枚だな。
――銅貨1枚で2つくれ。釣りはいらん。
――ああ、毎度。
粘土屋は30代の厳めしいあごひげを生やした男だ。元は白い服だったのだろうが、服にこびり付いた粘土の粉が彼の服の色を鼠色に染めていた。髭もまた服と同様で粘土がくっついている。僕はそれを見て、髭で作った粘土が合わないからあんなに不機嫌そうな顔をしているのかもしれないと下らないことを思った。それくらい、顔は厳つさとは程遠い、柔和な印象を与える顔だった。
彼は粘土屋から粘土で作った妙な形――4つ足の何かと切れ目のある円盤状の何か――を2つ持ってきた。
「どっちが欲しい」
彼女は控えめに彼の手の平にある2つのそれを見比べて、4つ足の何かを取った。
「……ありがとう、ございます」
「おう」
ただ、それだけで会話を済ませて、関所へと向かって帰ることにした。
「今日は疲れたね」
――夜。僕らは寮の暖炉でクッキーを食べていた。帰る途中に彼がいくつか買ったのだ。この寮は都市の外から来た客人や留学生の為に用意されたもので、外は見た目のいいレンガ、中は落ち着いた色の樫の木で建てられていて住み心地はそこら辺の宿屋よりはいい。一応使用人もちゃんと学業を修めていれば雇ってもらえる。もちろん、それなりにしか修めていない僕らには無縁の話だ。
「まあ、その分楽しかったがな」
彼の機嫌は言葉通り、いつもより楽しげなものだ。ただ、お嬢様の機嫌が気になるのだろう。帰ってきたあとに幾度か彼女の方を見ては何かを思案していた。
「それで、どうするの?」
「どうしたものかな。一番いいのはいつも通りだろう」
だが、と彼は続ける。
「それじゃあ、つまらん。明日話しかける」
「ああ」
やっぱり、とは言わずにホットミルクを啜る。このクッキーはミルクと良く合うからこの方が好きだ。
「そういう訳だ。それじゃあ、俺は寝るぞ」
彼はミルクを飲み干して寝室へと戻って行った。
「ああ、お休み」
僕はそう言って、ミルクを啜りながら今日の事を思い返す。いつもどおりの日常に近かったとは思う。ただ、彼女が1人いるだけで予想以上に色々あった。本当の所は、特に何もすることなく帰るものだと思っていたから、この変化は割と驚いている。
何よりもお嬢様が怒ったことが一番の驚きだけれど。一番嬉しかったのは、彼女の怒った表情も可愛らしかったことだ。本人には言えないけれど、それが一番の収穫だったと思う。




