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「それにしても困ったな……」
結局、子供にクッキーを配っただけで何も分からなかったし、このままだと不安だし。かと言って、彼がすぐに見つけるのもなんだか申し訳ない気がしてくる。近くにいないかそれとなく見渡していれば……。
「あ」
良く見ると、遠くからこそこそとこちらを見ているお嬢様と目があった。子供にクッキーを配った甲斐があったのかもしれない。さっと道の脇に入っていく彼女を追いかけないと――。
「もっとおかし!」
と思った矢先、子供の壁が行く手を阻む。思ったよりも動きにくい。
「ちょっとどいてくれるかな。今忙しくってさ……」
「ひとりじめはいけないんだよー」
後から来た子供たちに袖を掴まれる。このままだと追いかけられないし結構危険だ。
「なら競争だ。さっきあっちに言った女の子を捕まえたらその袋を全部やろう」
突然、後ろから子供のものではない声が聞こえた。瞬間、子供たちの何人かが「あっちに行ったぞ!」と行ってお嬢様を追いかけていく。知ってるじゃん!内心もやもやしながら後ろを振り向くと僕の主人がいた。当たり前か、あれだけ子供たちと話していたんだから。
「まあ、これで大丈夫だろ。あとは追いかけていけばいい」
「まあ……そうだけど……」
僕のクッキーはなくなるようだ。いつも食べているからいいけど、少し残念な気持ちになった。
それから、ほどなくして、か細い悲鳴と子供たちの歓喜に沸いた声が聞こえた。その時の彼の横顔はいたずらが成功した子供を邪悪にしたような意地の悪い笑みをしていた。
「ほら、食え」
そう言って、袋を子供達に向かって放り投げる。なんとかキャッチできた子供たちを中心に阿鼻叫喚の嵐が巻き上がった。その勢いに思わず苦笑いが漏れる。
「ははっ、子供は元気だな……」
「それよりもだ。行くぞ」
子供の安否はどうだっていいらしく、彼は呆然とするお嬢様を見下ろしてそういった。普段大人しいお嬢様には子供たちのあの勢いは堪えかねたのだろう。手を掴んで脇道から出てきた所で元気なさげに呟いた。
「あんまりです……」
確かにあんまりだ。
「まあ、な」
そう答えると、ただ無言で広場へと向かっていく。その途中、お嬢様は顔を上げた。その視線の先には粘土屋があり、紛れで作った人形が並べられている。
あれが、と僕が言いかけたところで彼の声が遮った。
「欲しいのか?」
僕より先に気付いたみたいだ。彼女の方を見てないのにどうやって気付いたのだろう。
ただ、その答えはでないまま、彼女はまた俯いた。




