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翌日の朝、僕は登校中の道のりで夕時と話している。
いつもならば時間的にギリギリになるため走っていくところだけど、今日はゆっくりと話しながら行けるように、少し早めに家を出てきていた。
なんと奇跡的な出来事だろうか。
「なるほど。今日の放課後か……」
「うん。このこと、水沢さんに話しておいたほうがいいかなぁ?」
「う~ん……。とりあえず黙っておいて、あとで結果報告すればいいんじゃないか?」
「ふむ、そうだね」
すっごく汚い新川という川に架かる橋を渡り、土手沿いの道に入る。
毎度毎度思っていることだけど、この川、見た目にも汚いし、ニオイも非常に気になる。
行政の力でどうにかならないものなのだろうか……。
「それじゃあ、今日は俺も調査に同行するか」
夕時が突然、思いもよらなかった言葉を口にする。
「ををっ!? 珍しい! どうしたんだよ、夕時!?」
「……そんなに驚くことでもないだろ? まぁ、今日の調査は重要になりそうだし、人手があったほうがいいかもしれないからな」
夕時にしては珍しく、ちゃんと考えていたのか。感心感心。
そんなことを話しながら、僕たちは土手沿いの道から下り、再び住宅街の中へと入っていく。
それにしても、ゆっくり歩いて登校できるって、なんて清々しい気分なのだろう。
もっとも、今日のこの晴れやかな天気も影響しているとは思うけど。
ちなみに今も、僕のすぐ背後には、詩織ちゃんの気配がしっかりと感じられる。
一歩下がってついてくる、慎ましやかな幽霊だ。
と、その気配が、不意に変わった。
(あ……水沢さん……)
耳もとで小さな声が響く。
「あっ、おはようございます」
詩織ちゃんの声がした直後に、すぐそばの曲がり角から水沢さんが現れた。
「おはよ~。水沢さんって、いつもこんなに早く登校してるの?」
「うん。あまり余裕がないのって嫌いなんで……」
「お前も見習えよ、零樹!」
「夕時もだろ!!」
すかさず、ツッコミを入れる。
夕時のボケに対するツッコミ対応レベルは確実にアップしていると思われる。
……いや、そんなのレベルアップしても、べつに嬉しくはないけど……。
「ふふっ。ほんと、仲がいいんですね」
「腐れ縁だけどね」
「おいおい、そりゃないだろ? 腐りきった縁だ」
「ちょ……っ!? もっとひどくなってるよ!? 納豆以上のネバネバ感がありそうだよ!?」
「男同士でネバネバって、なんだかちょっとイヤな響きだな」
「そ……そうだね……」
朝の爽やかな雰囲気には相応しくない話題でもあった。
そんな僕たちの様子を、水沢さんは朝露のようなキラキラした笑顔で見つめている。
「ふふふっ。……あっ、そうだ。今日の分のお弁当、渡しておきますね」
そこで思い出したのだろう、僕たちふたり分のお弁当をカバンから取り出す。
お弁当は、綺麗な水色の布で包んであった。
おっと、そうだった。ここで受け取っておかないと、わざわざ教室まで持ってきてもらうことになる。
そうなったら、クラスメイトに見つかって、いろいろと騒がれる結果となってしまうだろう。
初日は無理だったけど、調査二日目となった昨日、水沢さんは早速お弁当を作ってきてくれた。
僕たちはそれをありがたくいただいて食べたわけだけど、本当に料理が上手なようで、すごく美味しいかった。
見た目も可愛らしくまとめられていて、素直にいいお弁当と賞賛の拍手を送りたいくらいの出来栄えだった。
……母さんや姉ちゃんにも、ちょっとは見習ってもらいたいものだ。
なお、昨日はお昼休みにお弁当を手渡してもらったため、クラスメイトからの冷やかしの声が凄まじかったというのも追記しておこう。
「おっ、サンキュ!」
「ありがとう。ほんと、水沢さんのお弁当って、すごく美味しいよね」
がっつくように素早くつかみ取った夕時とは対照的に、僕は素直に感想を述べながら落ち着いた動作でお弁当を受け取る。
「え……あ、ありがとうございます。私の取り得ってこれくらいだから……。人に食べてもらう為にお弁当を作るって、なんだか楽しくていいなぁって思ってきてるんです」
「へ~。……そういえば、翔くんに作ってあげたことはないの?」
「はい、ないです。なんか、図々しいかなぁ、って思うし……。ピクニックに行ったとき、翔の分も含めて、みんなで私の作ったお弁当を食べたことはあるんですけど」
なんというか、料理の話をしていると、すごく楽しそうに見えるなぁ、水沢さん。
「そのとき、翔くんの様子は、どうだったの?」
「はい、美味しく食べてくれてたみたいでした。直接私にそう言ってくれたわけじゃないけど……」
「こんなに上手なんだから、お弁当を作ってあげたら、翔くんも喜ぶと思うんだけどなぁ」
そう言うと、水沢さんの顔がちょっと寂しげな表情に変わる。
「でも……、私なんかより、何度も会ってるっていう年上の人に作ってもらったほうがいいのかも……」
「こらこら! またそういうふうに考える! 笑顔笑顔! ね?」
「……はい、そうですよね。ありがとうございます」
にこっと、まだ少し不安さが残っているようではあったものの、自然な笑顔を見せてくれた。
とにかく、どうにかしてあげないと。
僕はそう決意を固めながら、通学路を歩いていった。
いつもと違ってかなり余裕のある時間に正門前を通り抜け、教室へと入る。
正門付近に遅刻の見張り役として立っている教育指導の先生やクラスの友人からは、お前らがこんなに早く来るなんて! と驚きの声を浴びせられてしまったけど。




