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「姉ちゃん、ちょっといいかな?」
「ん? おっけぇ~。入ってきな~」
家に帰り着いたあと、水沢さんと翔くんのお互いの気持ちになって、少し考えてみようと思い立った。
とはいえ、僕は女の子とつき合ったこともないため、いくら考えてもよくわからなかった。
詩織ちゃんにも訊いてみたものの、彼女もつき合った経験はなく、やっぱりよくわからないとの答えが返ってくるだけだった。
そこで、歳の功(というほど上ではないけど)ということで、姉ちゃんに訊いてみようという考えに至ったのだ。
ガチャッ!
ドアを開けて中に入……ろうとして僕は、バッ、とすぐにドアを閉めた。
「な……っ!? 姉ちゃん、なんて格好してんだよ!!」
「ん? ああ~……、なにあんた、恥ずかしがってんのぉ~?」
姉ちゃんは心底面白がっているようなニヤニヤ顔を浮かべ、からかいの言葉をかけてくる。
「ね……姉ちゃんは、そんな下着姿で、恥ずかしくないのかよ!?」
「ん~~。まぁ、弟だしねぇ……。ちょうどお風呂上がりで夜風に当たって涼んでたとこだったし。ま、いいわ。ちょっと待ってて。なにか羽織るから」
――あ~、びっくりした……。
どうでもいいけど、姉ちゃんにとって弟っていうのは、男の範疇には入っていないんだな。
もちろん僕だって、姉ちゃんを女性として意識しているわけではないけど。
意識してはいなくても、さすがに下着姿を見せられたら、健全な男子中学生ならドキッとしてしまうってもので。
そんな様子を、姿を消した詩織ちゃんは、黙って見ているだけのようだったけど。
ただ、なんとなく若干怒っているような気配を感じたのは、僕の気のせいだろうか?
「……それで、なんなの?」
僕を再び部屋に招き入れると、上着を羽織った姉ちゃんは率直に訊いてきた。
「ん……あのね……」
僕は水沢さんと翔くんのことを素直に話した。
とくに内緒にする必要があるわけでもないし、どちらにしても高校生である姉ちゃんにだったら、喋ってもさしたる問題はないだろう。
姉ちゃんは僕が話しているあいだ、なんの口出しもせず黙って聞いていた。
そして、ひととおり話を聞き終えたあと、ゆっくりと口を開いた。
「ふ~ん、なるほどね……」
「姉ちゃん、なにかわかる?」
少し考え込む姉ちゃん。
「ん~、そぉねぇ……。そのふたりは中1なんだよね?」
「うん、そうだよ」
「ふむ……。だったら、翔くん、恥ずかしがってるだけなんじゃないかなぁ? なんか、相手を突然異性として意識し始めちゃって、話すだけでも真っ赤になる、みたいな。思春期ってヤツね♪」
姉ちゃんはニヤニヤしながら、楽しそうにそう言った。
「ん~……、でも、なんか他の女の人と会ってる……みたいな話だったし……」
「そっかぁ。まぁ、そのあたりは詳しく調べてみるしかないでしょうね」
「そうだね……。うん、ありがと、姉ちゃん」
「いえいえ」
僕は姉ちゃんの部屋を立ち去る間際に、もうひとつだけ訊いてみた。
「……そういえば姉ちゃんって、つき合ってたこととか、あったんだっけ?」
「ないよ♪」
即答だし……。
いや、でも、そうだよね。
考えてみたら、
「姉ちゃんの性格で彼氏ができるわけないよね……」
ボソッ、と思わず口に出して言ってしまった。
ゲシッ!
……ドガッ!
次の瞬間、姉ちゃんの鋭い蹴りによって僕の体は部屋の外までふっ飛び、廊下の壁に思いっきり頭から激突していた。
☆☆☆☆☆
「痛てててて……」
僕は自分の部屋に戻ってベッドに入っていた。
まだ、さっきぶつけた頭の痛みが残っている。
「姉ちゃんを相談役にした僕がマヌケだったか……。とりあえず、寝よう」
その言葉のすぐあとには、僕は一瞬にして眠りに就いていた。
瞬間睡眠……僕の得意技だ。
「……こら、起きなさい……」
――う……ん……? ……女性の声……?
母さん……? いや、違うな……。
姉ちゃん……だったら呼びかける前に叩き起こすよな……。
詩織ちゃん……の感じでもないな……。
ボーッとした頭で考えた末、
……結論。起きればわかる!
がばっ!!
僕は飛び起きてみた。
「やっと起きたのね。こんばんは」
目の前に立っていたのは、怪しい紫のローブを身にまとった女性で……。
「って、なんで小島先輩が!?」
「ふふっ……ちょっと用があってね」
先輩の髪の毛が、ゆらりと揺れる。
ふと見ると、窓が開いて風が吹き込んでいた。どうやら、ここから入ってきたようだ。
「あの、これって不法侵入じゃ……」
「細かいこと、気にしないの!」
「細かくないです!!」
まったく……頭がおかしくなりそうだ……。
「しーっ! 詩織さんが起きちゃうでしょ?」
不意に小声になる小島先輩。今さらという気がしなくもないけど。
それはともかく。
「え? ……幽霊でも、寝たりするんですか……?」
「ええ、寝るわよ。私たちの睡眠とは微妙に違うかもしれないけどね」
怪しげな色をした薬かなにかのビンのフタを閉めながら、小島先輩はくすりと笑う。
「……それはなんです?」
「ふふ……ヒ・ミ・ツ☆」
先輩はウィンクひとつ。
この人の場合、☆マークがついていても、なんだかとっても怖い……。
「……それで? 用事があったんじゃないんですか?」
「大丈夫、もう終わったわ。お邪魔してごめんなさいね」
と言うが早いか、小島先輩は紫ローブをひるがえし、窓からひょいっと飛び出していった。
「あっ、ちょっと先輩!」
すぐに窓に乗り出し、外を見渡してみたものの、すでに先輩の姿はなかった。
――ふぅ、まったく。なんだったんだ?
窓を閉めた僕は、ふと、あることに気づいた。
――あれ? 僕、寝る前にちゃんと戸締り確認したはずだよね……?
そうすると、小島先輩はどうやって……。
よくよく調べてみても、ガラスの一部を割ってカギを開けたような形跡はない。
ということは、やっぱり、外からカギを……?
う~む……。
あの人なら、それくらいできそうな気はするけど……。
小島先輩はつくづく人間離れした人のようだ。改めて僕はそう認識するのだった。
☆☆☆☆☆
次の日の放課後となり、昨日尾行に失敗した件について夕時にボロクソに言われたあと。
僕と詩織ちゃんは、再び翔くんをマークしていた。
昨日と同様、薄暗くなった帰り道で、詩織ちゃんとふたり、少しだけ翔くんから離れた場所を歩いていた。
……今日はしっかり、尾行に集中しないと。
そんな思いを胸に、こそこそとあとをつける。
と、そのとき。
翔くんの携帯電話が鳴った。
僕はとっさに近くの電柱の陰に隠れる。
「詩織ちゃんお願い」
「おっけー」
僕の言葉に従い、詩織ちゃんは姿を消したまま、スゥーッ、っと移動した(みたいだ)。
あまり僕から離れられないようだけど、ここからだったら、翔くんの電話の声が聞こえるくらいの位置までは行けるだろう。
しばらく様子をうかがう。
やがて翔くんは電話を終え、すたすたと歩き出した。
と同時に、詩織ちゃんが戻ってきた(ようだ)。
最近、なんとなくだけど気配でわかるようになってきていた。
「どうだった?」
「うん……。電話の相手は清美さんって人で、明日の放課後、会うみたいだよ」
「ふむ。明日は土曜だし、時間もあるってことか」
……これは、やっぱり……デート、ってことなのかな……?
「まだ尾行を続けるの?」
「いや、今の電話の相手がおそらく、水沢さんが心配している年上の女性だと思う。だから、今日はもういいでしょ」
「それじゃあ、明日が勝負……ってわけね?」
「そうなるかな。詩織ちゃんにもまた頑張ってもらうことになると思うけど、よろしくね」
「うん、任せて!」
こうして僕たちは、家に帰った。
とにかく今日はゆっくりと休んで、さらに明日の午前中の授業時間もしっかりと寝て、放課後の決戦に備えないと!




