表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
G・F ~ゴーストフレンド~  作者: 沙φ亜竜
第2章 ラブストーミーは突然に
4/13

-1-

「というわけで、この子が依頼人だ」


 あれから数日経ったある日の放課後、夕時が突然、ひとりの女の子を連れてきて、そう言い放った。


「……は?」


 僕には、いったいなんのことやら、さっぱり理解できなかった。


「あの……1年3組の水沢瞳(みずさわひとみ)です。よろしくお願いします」


 と、頭を下げる女の子。


(お……おい、夕時! どういうことだよ!?)


 僕は夕時に詰め寄り、水沢さんには聞こえないように耳もとで文句の言葉をぶつけた。


(ん? もちろん、俺たち便利屋への依頼人だよ)

(便利屋ぁ? なんだよ、それ!)


 夕時は、すぐそこの廊下の壁に貼ってある紙を指差した。


「失くし物探し、部活動の助っ人、尾行捜査などなど、なんでもOK! 便利屋への相談は、2年7組宇良原夕時まで」


 その紙には、しっかりとそう書いてあった。

 ……こいつ……いつの間に……。


(詩織ちゃんの能力を活かそうと思ってな)


 夕時はひょうひょうとそんなことを言ってのける。

 ちなみに、断花さんと僕たちは仲間ということで、名前で呼び合おうという話になっていた。


(な……っ! お前なぁ! そんなこと、勝手に……! だいたい詩織ちゃんの承諾も得ないで……)

(いや、詩織ちゃんの承諾は得てるよ。知らなかったのは、零樹だけだ)


 ……うわ、こいつは……。

 まったく、昔っからこうなんだよな……。


「あ……あの……。どうしたんですか?」


 水沢さんが不安そうに(というか、不審そうに)尋ねてくる。


「いやいや、なんでもないよ。ごめんね。それじゃあ、こっちへ来て。詳しい話を聞かせてもらうから」

「は……はい……。」


 どうにか平静を装いながら放たれた僕の言葉に、水沢さんはまだ少し不安そうな様子ながらも頷いてくれた。

 ……っていうか、僕自身も不安だらけなのだけど……。



 ☆☆☆☆☆



 そんなこんなで、僕たちは屋上へと続くドアの前に座っていた。

 このドアは普段閉まっているため、ここは人がまったく通らない場所となっているのだ。


「えっと、私には幼馴染みで……その……つき合ってる人がいるんです。その人、同じクラスの長瀬翔(ながせしょう)っていうんですけど、なんだか最近、私を避けてるみたいで……」

「ふむふむ、なるほど」


 さながら記者かなにかのように手帳にメモを取りつつ、夕時がつぶやく。


「気のせいではなく、明らかに避けているとしか思えない感じなんだな?」

「はい。少し前までは、毎週のように会って、買い物に出かけたりとか、映画を見たりとかしてたんですけど……」

「ふ~む……。なにか心当たりは? ケンカでもしたとか」


 ますます芸能記者色を強めながら、夕時は訊ねる。


「いえ、ケンカとかはとくにしてないです。でも……」


 と、今までよりさらに寂しげな表情になる水沢さん。


「どうしたの?」


 僕は夕時とは違って、努めて優しめの口調で問いかけた。


「うん……あの……、友人が言ってたんですけど……。翔ったら、その……年上の女の人とふたりで会ってるみたいなんです……」

「ふむ。つまり、浮気と」


 夕時はあっさり言ってのける。

 ……って、せめてもう少し気を遣ったほうがいいのでは……。


「あぅ……」


 その言葉で、ますます寂しげな表情へと変貌と遂げ、水沢さんは完全にうつむいてしまう。

 とはいえ、状況説明はしなければ、という思いがあったのだろう、弱々しい声ではあったものの、言葉を続けてくれた。


「……私と翔は幼馴染みで、一緒にいることが多かったんです。幼稚園の頃、私がこの町に引っ越してきて以来ずっと……。だから私のほうは、このまま恋人に、っていうつもりでいたんですけど……。翔のほうは、そう思ってなかった……ってことなのかな……」

「そ……そんな悪いほうにばっかり考えちゃダメだよ! とにかくさ、僕たちが調べてみるから、ね?」


 僕は意識的に明るく諭す。

 ううう、こういうの苦手なんだけどなぁ……。


「は……はい……。お願いします」


 僕の気持ちが通じたのか、水沢さは笑顔を見せてくれた。

 もっともそれは、無理に形作られた偽りの笑顔だったに違いないのだけど。


 ずっと一緒だった人が遠い存在になってしまいそうで、相当不安に感じているのだろう。

 悪い結果にならないといいけど……。


「で、報酬の件なんだが」


 不意に夕時が、無遠慮な言葉を投げかける。


「な……っ!? お金を取るの!?」

「ん~……。まだなにも考えてなかったんだが。……水沢さん、なにか得意なこととかって、あるかな?」

「え……っと、料理……くらいかな……? 自分のお弁当も、毎日作ってきてますし」

「おおっ、いいじゃないか! そうだな、それじゃあ、数日かけて調査することになるだろうから、そのあいだの弁当を、俺と零樹のふたり分用意してもらう、ってのでどうかな?」

「あ……はい。わかりました」


 こんな条件提示にも、水沢さんは素直に応じる。

 なんというか、おとなしい性格につけ込んでいるみたいで、少々心苦しい気分ではあったのだけど……。


「零樹、お前もそのほうが助かるだろ?」


 ニヤニヤしながら夕時がささやく。


 そうなのだ。僕の家は、母さんが料理まったくダメで、その影響なのか(はたまた性格の問題か)姉ちゃんも一切料理をしようとしない。

 そのため、家では僕が自然と料理担当になってしまっている。


 ただ、お弁当まで作ってくる余裕はないので、昼は(ものすご~く不評な)学食を利用しているのが現状だった。

 確かにお弁当を作ってもらえるなら、僕としても大助かりだけど……。


「俺も、遅い高い不味いで有名な、あの学食ばっかりだしな」


 夕時は幼稚園の頃に母親を亡くしている。

 父親はジャーナリストをしているため、世界各地を飛び回り、家にはほとんどいない。

 ひとりっ子の夕時は、きっと寂しい思いをしていたのだろう。小さい頃から、隣の家――すなわち僕の家に、よく遊びに来ていたっけ。


 そんな家庭環境だから、夕時のほうもお弁当には無縁の生活を送っている。

 僕と夕時にとっては、願ってもないチャンスだ。

 ともあれ。


「ん~……、でも、大変じゃない?」


 さすがに悪いかなと思い、僕は遠慮気味に尋ねてみたのだけど。


「ううん、そんなことないですよ。もともと自分の分は作ってるんですから、量を増やすだけだし、それほど大変じゃないと思います!」

「んじゃ、決まりだな!」


 ……そんなわけで、僕たちはお弁当を報酬として、浮気調査(?)をすることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ