1-9. ローレンス
1-9. ローレンス
後ろにのけぞった瞬間、ゴブリンの胸から槍が貫通した。
「危なかったな。」
ロナウドの笑顔が覗いた。
「ありがとう…ございます。」
俊太郎は声も膝もブルブル震えた。ロナウドが遅ければ、自分が死んでいた。
「ほらよ。」
ロナウドは腰の剣を寄越した。俊太郎は、自分の頬を叩いて震えを止め、もう一度参戦した。
ロビーが最後のゴブリンをひと突きした。
ーー勝った。
その瞬間、俊太郎は四つん這いになってしまった。
幸い誰も負傷しなかった。
「御礼の言葉もございません。」
ハンカチで汗を拭いながら、栗毛の中年紳士が頭を下げた。
「ご無事で何よりです。」
ロナウドは爽やかに応じた。
「もう、泉のそばは通られない方が良いでしょう。特に朝は。」
ロナウドが注意喚起した。
「不用意でした。面目次第もございません。」
ローレンスは腰を低くして手を揉んだ。
「御礼もさせて頂きたいのですが、王都に商用がございまして。帰りにもう一度、寄らせて頂きます。ええ、もちろん泉は迂回して。」
何度もお辞儀をするローレンスの後ろに、若い娘が降りて来た。ローレンスと同じ栗毛である。
「リズと申します。命を救ってくださいまして、本当にありがとうございました。」
ゆっくりとカーテシーを披露した。
「ああ、どうも…」
ロナウドは頭を掻いた。
「ところで、私の馬車の前で、私を守り切って下さった方は…?」
リズは俊太郎を探した。
「おい。行けよ。」
「え、ええ。」
ロビーが俊太郎の背中を押した。俊太郎は、返事はしたが、力が入らず立ち上がれなかった。
俊太郎を見つけると、華やかな笑顔になってリズが駆け寄って来た。
「ありがとうございました!」
「どう、いたしまして。」
尻餅をついて膝を曲げたままである。動きたくても動けないのだ。
リズは察した。
「そのままで構いませんわ。何かお礼をさせて頂きたいのですけど。」
「剣が、折れちゃいました。」
俊太郎は、思わずそう答えた。
「はい。必ず…。御礼に参ります。」
リズは俊太郎の両手を手に取った。なぜかぎゅっとしたまま離さなかった。




