1-10. 影
1-10. 影
駆除隊の訓示の席に、療養中のサミュエルが松葉杖で現れた。
「シュン…ちょっと、良いか?」
訓示後の準備時間にサミュエルが話しかけた。
「何でしょう?」
「俺の視力が駆除隊でも抜群なのは知ってるよな?」
「ええ。もちろん。」
「素早い俺が、なんで負傷したか。まだ話してなかったな。」
「ええ。」
俊太郎は、サミュエルが2秒ほど固まったのを覚えている。なぜかはずっと疑問だった。
「確信できなかったから、黙ってたんだけどよ。」
サミュエルは、声を落とした。
「お前、戦闘がごちゃごちゃしても、なんだかんだ言って無傷で帰ってくるだろ?」
「たまたまですよ。怖がりですし。」
「今はそこはいい。俺がどうして負傷したか、気にしていただろう?」
「ええ。サミュエルさんにしては珍しいかと。一瞬固まったように見えました。」
「そうなんだ。」
サミュエルは静かに頷いた。
「俺がゴブリンにやられる前だ。精霊が……見えた気がしたんだ。」
「精霊、ですか?」
「分かんねぇ。見間違いかもしれねぇ。」
彼は一度、周囲を見回した。
「だから、まだ隊長には言ってない。けどよ……。」
「お前も、もし見たなら。俺とお前、二人なら信用してもらえるかもしれない。」
「なるほど。」
「それで、俺は療養中考えた。もし、俺が見たものが精霊だったとしよう。そうすると、穴が広がってる原因は、むしろ、精霊かもしれん。ゴブリンやコボルトが湧くから、魔族が原因だと思い込んでいた。だが、その仮説は根本から間違ってるかもしれねぇんだ。」
「なっ?!」
「精霊が関与していると考える方が合理的じゃないか?魔界大侵攻なら、5年の内に魔王軍がきてるはずだ。」
「確かに…。」
「だから、今日の駆除、精霊には気をつけろ。精霊が見えると魅了かわからないが一瞬動けなくなるんだ。」
俊太郎は、かねて疑問に思っていたサミュエル負傷の理由にようやく納得がいった。
「田舎のばあちゃんが言ってた。『精霊は気まぐれだ。多分、敵でも味方でもない。』と。
奴らは戦いもゴブリンもお構いなしだ。ただ、自分達の都合でそこにいる。
たとえば闘技場に猫が迷い込むみたいなもんだ。命のやり取りをしてる俺らにとっては、すこぶる厄介だがな。」
「それ、ロナウドさんに言わなくて良いんですか?」
サミュエルはうなだれて首を振った。
「言っただろ。確信がねぇ。俺も定かじゃないんだ。俺の動体視力自慢はお前も知ってるだろ?でも……見えた気がするだけなんだ。だからこそ慎重に行け。
無事に帰ったら、精霊がいなくてもいい。様子を聞かせろ。
俺も一人だし、飯くらい食わせてやる。
今回の湧き方……普通じゃない。何か『俺たちに見えてないもの』が介在してはいないだろうか?」
「『俺たちに見えぬもの』ですか?」
俊太郎は寒気を覚えた。




