1-11. 精霊?
1-11. 精霊?
「シュン、行くぞ。」
ロナウドに呼ばれた。サミュエルに黙礼すると俊太郎は速やかに隊列に戻った。
穴に到着すると、花びらが頬をかすめた…ような気がした。
しかし上から落ちて来たというより横に飛んで行く花びらだった。
ーーこれが、精霊なのか?!
サミュエルの示唆がなければ花びらと思ってスルーしていたであろう。
今日はコボルトが湧いていた。
コボルトは、身体が人型、頭が犬の魔物である。
野犬のように群れてねちっこく連携する。基本的に矢や槍で、リーチを生かして狩るのが良い。しかし、すばしこいため近接戦は刀剣でないと遅れてしまう。
「うふふふ。」
戦闘に似合わぬ、笑い声のようなものが聞こえた。俊太郎は戸惑った。が、サミュエルのアドバイスによって精霊を念頭におけた。俊太郎はいつもよりかなり慎重に構えていた。おかげで、動揺することなく、駆除後帰還した。
帰投すると、
「ふくろう亭でいいか?」
サミュエルは上手いと定評のある店へ案内した。
「奢ってやるから今日の様子を話せ。」
俊太郎は頷くと今日の様子を報告した。
魔物はコボルトだったこと。
穴がまた少し拡大したこと。
横に飛ぶ花びらのようなものを見た気がするが、精霊かはわからないこと。
戦闘中に女性の笑い声でうふふふ、と聞こえた気がすること。
「お前も、気がする、かぁ。」
エールを飲み干すと天を仰いでサミュエルはこぼした。
「すみません。でも、ありがとうございました。注意してくれなかったら、今日は俺が大怪我してたと思います。」
若手らしく旺盛にもも肉に齧り付きながらも、俊太郎はしっかりサミュエルに礼を言った。コボルトに噛まれてしまうと熱で寝込む人もいる。気を取られていたら、ほぼほぼ噛まれていたと俊太郎は思っている。
「サミュエルさん、隊長にはどうしますか?」
俊太郎の今日の体験は、目撃したと言い切るには不明瞭なものだった。だが、サミュエルの警告は確かに自分の命を救ったのだ。それゆえ、報告そのものはした方がいい――公表するか否かは隊長の判断になるが――
俊太郎はそう思い、サミュエルの意見を仰いだ。
「うーん……そうだなぁ。」
一瞬、考えてから、
「俺たちの胸にしまっておいて、誰か怪我したら――一生後悔するな。
言おう。」
サミュエルは、そう言った。
明日、訓示の前に、隊長に報告しよう。
訓示のおかげで、ノイズに対してより慎重になった駆除隊は、
スリーマンセルを基本とし、負傷者の少ない連携を築きつつあった。
翌朝、サミュエルと連れ立って、俊太郎は早めに隊長室を訪れた。
不明瞭ではあるが、精霊がうろついている可能性、
そして戦闘中、そうしたノイズに一瞬でも気を取られるリスクについて、サミュエルは言葉を選びながら、慎重に具申した。
ロナウドは眉間に皺を寄せて聞いていたが、やがて短く、
「分かった。」
とだけ言った。
訓示では、精霊という言葉は使わなかったものの、曖昧な形で“戦闘に無関係なノイズへの警戒”を伝達した。
すると、「俺も」「俺も」と、
精霊を見たような気がすると言い出す者たちが現れ始めた。
いずれも確証はなく、せいぜい気のせいの域を出ない。
ただ、戦闘とは無関係な何かに一瞬気を取られた、邪魔だった――という点だけは、皆が口を揃えていた。
やはり、精霊はいるのか?ただのノイズとして軽んじると大けがにつながるのではないか?
隊員一同武者震いを感じていた。




