5-12.三人目の負傷者
5-12.三人目の負傷者
「つっ!!!」
ゲルトが脚を噛まれた。一瞬動きが止まったのだ。
「ちっ。邪魔だ。」
ゲルトは眼鏡を懐にしまうと、剣をヒラリと回してゴブリンを斬り捨てて行く。アビーも眼鏡を一旦しまい、撃退に専念した。精霊を見えなくしたら、圧倒的にスピードアップした。
「終わりました。」
淡々とロナウドが言う。
「消毒しないと。ゴブリンの咬み傷は膿むことがあります。強い酒で消毒しましょう。」
「すまん。」
ゲルトは、一足早く王都で治療することになった。
「ゲルトさんが負傷?なぜ?」
騎士達は首をかしげた。
もっと調査もしたかったが、精霊の関与など、出来るだけ早く報告し、王宮の指示も欲しい。エレナは長逗留せず、ゲルトの帰還と共に発つことを決めた。
――早い方が良いわ。
アビーが案じた。
「今から帰ると夜中になりますよ。」
「ごめんなさい、それでも帰った方が良いわ。」
エレナは命じた。
「かしこまりました。」
アビーもそれ以上言わずに部下達に撤収の指示を出した。エレナは準備の間、ロナウドらを呼び手短に告げた。
「ゲルトが負傷したので切り上げて私たちは帰ります。村への騎士団の派遣はお約束します。ゲルトが負傷しましたからフランツか、それなりの者をお送りします。申し送りは必ずアビーとしておきます。
それと、精霊透視の眼鏡をかけたのですが。穴の周りは精霊だらけでした。これも他言してはなりません。国家機密です。漏らしたら、首を刎ねますから。あなた方と村長は当事者なので言いましたがまだ広めてはなりません。良いですね。ゲルトを病院へ送り、陛下の方針が決まったらまた参ります。騎士団は出来るだけ早く送るので持ち堪えてくださいますか?」
村長以下、圧倒されてうなずいた。
ゲルトは…アビーから処置を受けていた。ゴブリンの咬傷をナイフで抉り、ウォッカを掛けて消毒するのだ。苦痛に顔を歪めているが、声を出さない。
「ーーっ。すみません。自分は大丈夫だと思っていました。」
ゲルトはみんなに頭を下げた。
「仕方ないさ。」
ロナウドが応じた。
「あんなものが見えたら、気を取られる。正直、私も危なかったよ。」
アビーはそう言いながら、機械的に包帯を巻いていく。止血が終わり、包帯を巻き終わると、王女がそこにハイポーションとヒールを重ねがけした。
何とか杖をついて立つと、ふと、ゲルトが懐から眼鏡を取り出し、俊太郎に渡した。
「これを。」
俊太郎は、息をのんだが黙って受け取った。処置が終わると、エレナは馬車の出立を命じた。先ぶれの馬は、王女が決断をした時に、既に王城へ先行していた。
去る馬車に深々と礼を終えるとロナウドはみんなに言った。
「早く寝ておけ。明日はアビー達はいない。騎士団が派遣されて来るのも数日後だ。俺とサミュエルが復帰したからといって、今日ほど楽にはならん。しっかり休もう。」
みんなは酒場に繰り出すこともなく、三々五々に帰宅した。
――明日、サミュエルさんに相談してみよう。その夜、俊太郎はゲルトの置いていった例の眼鏡を弄びながら、いつしか眠りに落ちた。




