5-5.責任者会議
5-5.責任者会議
「シュン、下がって良いぜ。」
ロナウドが指示した。俊太郎はまだ慣れぬ騎士の礼をぎこちなくすると、おずおずと下がった。寡黙にしていた村長とロナウドが目配せをし合った。
「改めまして、村長のアルフレッドでございます。ここからは、エレナ様だからと信じてお話申し上げます。」
エレナは静かに頷いた。
「お聞きの通り、私どもは穴の向こうが魔族の伯爵領だなんて、全く存じませんでした。しかも、問答無用で斬り掛かられたとはいえ、当主の伯爵を討ってしまった…。ああ、なんてことを。村の者は日々恐れおののいて暮らしております。駆除隊がいらぬことをしたと言うものさえおります。それもわかります。でもどうしたら良いというのでしょう。伯爵を討ってしまった…が…、魔族伯爵領からは、軍隊どころか斥候すら来ておりません…。どうしたことじゃろうか?私のような田舎者には、全く分からないのです。」
アルフレッドは首を振った。
「今の所敵討ちに来ているのはミレナ嬢という小さなご令嬢だけ。伯爵の跡取りが、成人なのか、息子なのか弟なのか、はてまた従兄弟なのか…?また、魔王は伯爵の死を知っているのか?知らぬのか?激怒しているのか?していないのか?明日にも魔界から大侵攻を指示するかと村の者どもは日々震えて暮らしているのです。」
エレナは血の気が引くのを感じた。
「確かに…。その可能性は否定できません。」
「里見と儂の首を持参して謝罪しようかとも思ったのですが…。そこに居るロビーに事故なんだし、村長の権限で決められることではないと諭されました。儂らの田舎者が判断して、王家の方や大臣にご迷惑を掛けられません。ですので、手前どもの判断では動きようがございませんのじゃ。また、高度な魔法が使えるアサシンがやって来たり、伯爵軍や魔王軍が侵攻してきた場合、ゴブリン20匹とは訳が違います。私どもは戦士のみならず女子供までもが、1日もしないうちに、全て虐殺されてしまうかもしれません。儂は老いぼれ。儂の首で済むならいつでも差し出しますが…。魔族とはかなり文化も違います。年寄りの首なんぞいらぬと言われるかもしれません。」
「里見は…最初に穴が開いた日に、父親をゴブリンにかみ殺されているのです。」
ロナウドがフォローを入れると、エレナは両手を口に当てて息をのんだ。サッとアビーが背中に手を当て、コップの水を手渡した。エレナは、水を飲んで落ち着こうとした。顔が青い。アルフレッドが続けた。
「里見は…それから修行を積んで、大事な駆除隊の副長代行になっております。魔族の気持ちも分からんでもないですが、儂らは里見を魔族に売って生き延びたくもないのです。しかし、私達だけで伯爵軍にはかないません。王女様、お願いでございます。せめて騎士団を置いて頂いたり、外交の方を置いて頂いたり出来ないもんでしょうか?」
村長は絞り出すように切々といった。
エレナは目を閉じていたが…。
「私も王族。不問にするといったらします。ということは、魔族を食い止め、里見代行を始め村を守る責任があると思います。ゲルト…。護衛騎士として意見を求めます。」
「はっ。騎士団を常駐させましょう。アビーはエレナ様付きですから、私が指揮を執れば、弱き者達を逃がすまでくらいは持ちます。」
「全滅しないで…。」
「私が負傷した時は、フランツか、彼と同等の者が指揮すべきですね。以上であります。」
「分かりました。あなたかフランツ、承知しました。」
「はっ。」
「この件は、陛下や丞相、御前会議にて決めることになるでしょう。出来るだけ速やかに、騎士団を派遣することを、エレナの名にかけてお約束致しましょう。」
――御前会議・・・。名にかけて約束したけれど、反対派貴族をまとめられるかしら…。
気丈に言ってみたものの、エレナの背中はびっしょりと汗をかいていたのだった。胃がキリリとねじれた。




