5-3.王女とお茶
5-3.王女とお茶
さて、王女はにっこり笑って言った。
「お茶にしましょう。良い茶葉を持って来ましたの。畏まってると話しにくいでしょう?」
女性の金髪の護衛騎士が村長夫人に茶葉を渡した。村長夫人は、紅茶の準備をするために一旦炊事場に下がった。
一同は食堂に移動した。王女は隊長のロナウドを右隣に呼び、さも当たり前というように自然に左隣にサミュエルを置いた。俊太郎はロビーと共に対面側に着座した。格から言えば、本来的にはロナウド、ロビー、サミュエルという順になるべきなのだが、負傷し、それには何か伝えるべき理由がある、ということを察知したのか、エレナはロビーではなくサミュエルを自らの隣に配置した。自分は差別をしないという意味も込めたのかもしれないし、負傷者への配慮かもしれない。
それぞれ着席すると村長夫人が紅茶を淹れ始めた。エレナは隣接のロナウドとサミュエルに、ハイポーションを静かにすっと差し出した。
「これくらいしかしてあげられなくてごめんなさいね。治りが早くなるといいけど。私、少し魔力があって、祈っておいたのです。ちょっと効果が上がってると良いのですが…。」
それぞれの目を見ながら言った。
「ありがとうございます!」
サミュエルは、もしここが酒場なら踊り出しそうな勢いで喜んだ。
「それで・・・今回、何か私にお伝えになりたいことがあるのですよね?」
エレナがロナウドに水を向けた。
「はい、時系列ならサミュエルから申し上げるべきでしょう。」
とロナウドに言われて、サミュエルが負傷したくだりから冒険譚が始まった。
「はい。精霊って言うのははっきり見えることはあまりなく、とても稀なんです。後から分かったことではありますが、隊員のみんなも、『俺も見た気がする』と口々に言うのですが、みんな『気がする』止まりなんです。そして、私も戦闘の最中にチラリと、精霊を『見たような気がしたんです』。ええ、ほんの一瞬のことでした。あっという間でした。しかし、魅了かどうかは分かりませんが、その一瞬、戦闘の手が止まってしまったのです。 そこで私はゴブリンに足首を咬まれてしまいました。面目ないことです。」
サミュエルがうなだれた。
「精霊?ですの?」
エレナは低い声で尋ねた。
「はい・・・。」
そして、ロナウドは自分が負傷した際に精霊がはっきり見えたこと、『いい男♥』と語りかけられて一瞬動きが止まり、その際に負傷してしまったことなど一連のことについて詳細に語ったのであった。
「それと…。もう一つ、お人払いの後にお話したいことが…。」
ロナウドは、サミュエルや俊太郎の扱いを見た上で、エレナなら話して良さそうと判断し、俊太郎に目配せした。俊太郎も頷いた。
話が一度途切れたので、「あなた方にも」、と言って、王女はロビーと俊太郎にもハイポーションを渡した。目線を合わせて丁寧に渡した。
そして、軽く手を挙げると今度は男性の騎士が村長にポーションの箱を下賜した。騎士も丁寧に目録を渡した。村長は恭しく受け取ると下男がハイポーションを確認して下がった。
お茶会の後、ロナウドと俊太郎は客間に呼ばれた。先ほどと同じく男女二人の騎士は護衛している。
高位貴族でもない彼らに護衛を間引いたのは、これでも踏み込んだ判断なのだろう。ロナウドと俊太郎は着席を促された。
「この者達は、私に命懸けで仕えており、信用出来ます。ゲルトとアビーです。挨拶なさい。」
二人は礼儀正しく挨拶をした。しかし、アビーの方は、警戒を解いていない感じだった。ロナウドはこの二人だけに護衛を減らしたことが王女なりの深い配慮と理解した。
ーー事態は、それほど単純ではないかもしれません。ロナウドはゆっくりと口を開いた。
ロナウドは、しっかり見えたのは一回だが、精霊は何となくというレベルなら複数人が複数回証言していること、精霊が穴に関与している可能性を語り始めた。
エレナの顔が温和な姫から、責任ある為政者のそれに変わっていく。
「そして、魔族のことなんですが…。ここからは里見に話してもらいます。」
「副長代行、里見俊太郎と申します。先ほどは私にまでポーションをありがとうございました。」
エレナは外交辞令とは言え、自分と同じくらいの男の子が物おじもせず、御礼もさらっと言えるのに少し驚いたようだ。
「少し長くなりますがよろしいですか?」
俊太郎は前置きした。エレナは、少し息を飲んだが、軽く頷いて促した。




