4-9.ミレナ、街へ行く
4-9.ミレナ、街へ行く
「シュン、来たよ。」
詰所の面会の後、不定期に来るミレナを街へ連れて行くには不便だと考え、俊太郎はミレナに次の非番の日を教えておいた。ミレナは、ツノを隠して上品なつば広帽子をかぶっていた。その姿は、いかにも良い所のお嬢さんである。俊太郎は馬を出し、ミレナを前に乗せて街まで出ると、預かり所に馬を預けた。
――親戚の子・・・には見えないな。
俊太郎は黒髪黒目である。白い肌に、紫の髪、茶にも見えるが赤みを帯びた瞳のミレナとは、いとこと言うよりご令嬢とボディーガードである。ロナウドは、この前の面談で思う所があったらしく、
「しばらくはミレナ嬢の機嫌を取るように。」
と軍資金を渡されていた。
敵討ちをしなくなった今、文化差のあるミレナは貴重な情報源だからだ。精霊が見えているらしいことも分かってきた。まだまだ、高位魔族の情報が不足している。
資金があるので、ある程度ミレナの我が儘を聞いて、焼き菓子や昼食などを食べさせることが出来る。
「おー。クッキーの新作ではないか?」
相変わらずお菓子に目がない。小さな缶ごと買ってやった。並んだ列に、灰色のローブの男がいた。あまり焼き菓子の似合わない人物に、俊太郎は少し違和感を感じた。
ミレナは人の街の見る物全てが珍しいようである。服や靴を見て回り、ランチに加えてケーキまで食べさせた。
「ツノなしの作る食事や菓子は美味いのう。魔界の料理は遅れてる。あのシチューはウチのコックに頼んでみよう。」
鼻歌を歌いながら、ミレナは街歩きを楽しんでいる。
「あんまり、『ツノなし』とか言うなよ。」
俊太郎は気が気でない。
「これ、綺麗だな?」
露天のアクセサリーを手に取って日にかざしている。赤い物が気に入ったようだ。
「これ、下さい。」
俊太郎は軍資金から、お金を出して赤いイヤリングを買ってやった。
「買ってくれるのか?あ、ありがとう。」
実際にはちょっと足が出たが、自分の給与で穴埋めするつもりだった。ふと振り返ると、また灰色の男がこちらを見ていた。暗い目をしていた。
「なあ、そろそろ、帰らないか?」
「えー、やだ。もっと見る。」
周囲の視線の粘度が増したように感じられ、俊太郎は焦りを覚えた。何度も帰ろうと言うが、我が儘姫が聞き入れるわけがなかった。
伯爵の死を償いたい気持ちと、ミレナを懐柔しておく必要性から、俊太郎はあまり強く言えないまま、だらだらと時間が過ぎていった。




