1-4. 月日
1-4. 月日
「うむ。出来る。」
――あ…。俊太郎は、いつの間にか北畠に飲まれていた。
威圧されていないのに、納得するしかなかった。
――怖くないのに、おじさんの方が上だとわかる。
俊太郎は、分からないなりに、北畠が格上と感じた。北畠はやがて柔和な笑みを浮かべると、
「今はわからなくとも良い。刀など、龍の前ではナイフ同然だ。」
と、ゆっくり諭した。
北畠は静かに言った。
「ただしーー、儂が教えるのは『抜かずの剣』だ。まだ分からないと思うが、分からなくても短気を起こさず、付いてくるか?」
「お願い致します。」
俊太郎は思わず正座の礼を取っていた。
それからーー
5年の歳月が経った。俊太郎は背の高い好青年に成長していた。北畠は今日も鶏に負けたとニコニコしている。未だに「抜かずの剣」も、鶏との睨めっこもまるで分からない。
背丈だけは師匠を超え、筋力も素速さもあがった。それでも、一本も取れない。
先日、初段を許され、二段になるべく、日々研鑽中である。
父への想いもある。駆除隊で魔物を狩りたい。家計も助かる。
「そろそろ…駆除隊に入れるやもしれぬ。」
仁兵衛が言い出した。
「本当ですか?」
俊太郎が身を乗り出した。全身が震えるのが分かった。父の死、うなされた日々が、一瞬で蘇った。拳を握りしめていた。
「初段半、と言った所だろう。舐めてかかると痛い目に遭うが…油断しなければ、ゴブリンごときには遅れをとるまい。隊長のロナウドは古馴染みだ。推薦状を書いてやろう。」
北畠は、筆を取るとサラサラとロナウドへの手紙をしたためた。俊太郎は、自分が唾を飲む音が妙に大きく感じた。
かつて遠足に赴いた泉のほとりに、駆除隊の詰所が建てられていた。穴出現以前は、観光客の休憩所だった。
駆除は朝が多く、午後はロナウドも時間が取れる。俊太郎は昼下がりにやって来た。
ーー父さん
俊太郎は、穴に向かって一礼した。
息を深く吸うと、詰所のドアをノックした。
「おう。来たか。」
扉を開けてくれた男は、真っ黒な肌だった。俊太郎は一瞬、身を固くした。
――魔物は…全部、退治しました。
俊太郎はサミュエルを二度見した。
「サミュエルだ。若手の案内役をしている。」
かすれていない明るい声で言うと、ニカっと白い歯を見せた。握手をすると、皮膚は硬いのに、握りは包むような温かさだった。
「里見俊太郎と申します。北畠仁兵衛の紹介で参りました。」
両手でサミュエルに書状を差し出した。
「入んな。隊長は奥にいる。」
手振りを交えて、サミュエルが案内した。ととん、と軽やかなステップを見せた。
俊太郎は「はい」、と言い、さっと従った。
「ようこそ駆除隊へ。隊長のロナウドだ。」
ロナウドはしっかり握手をした。
「今日からお世話になります。里見俊太郎と申します。よろしくお願いいたします。」
俊太郎は礼をした。ロナウドは少し、眉間に皺を寄せた。
「おまえ…?」




