8-5.アサシンの影
8-5.アサシンの影
俊太郎の帰宅後、エレナはアビーの報告を是とし、翌朝ヨハンが王都に使いに走った。また、ロナウドにも2日後の会談に王女がお出ましと通告された。テレサは大急ぎで、片付けを始めた。
あっという間に当日が来た。会談があるとて、魔物が湧かないわけではない。
俊太郎は、普通に朝から出撃していた。駆除が終わって、汗を流した頃、ひょっこり少女が穴から顔を出す。
「シュン、約束通りきたよ。」
ミレナがストンと降り立った。
「今日は本当に王都の菓子が出るらしいよ。」
「楽しみじゃのう。」
ミレナは機嫌が良い。
俊太郎は、アビーの警告を受けてから、後方にもより注意を向けるようにしていた。が、殺気を感じたことはない。
――俺が未熟なのか?殺気も消せる手練れなのか?
――何となく見られている気はするんだよな。
角にさしかかった時であった。
俊太郎は、神速で身を翻すと、人影の後ろに回り込んで、腕を拘束し、喉元にナイフを当てた。
「付けていたな?」
影は、細いのにまるみのある、柔らかい感触がした。俊太郎はドキリとした。
「見つかっちゃったぁ。」
カラカラと笑った。
「シュンさん、ごめんて。ねぇ、謝るからさぁ、その物騒なもの、仕舞ってくれない?」
喉笛にナイフを当てられているのに、甘えた声を出した。顔は布で隠していた。
「武器を捨てろ。」
「持ってませんって。アタシ、戦えませんもの。何なら、裸にして確かめてみます?」
「は、裸って。」
「うふふ、照れちゃって。かわいいの。」
「ね、腕も痛いから、お願いよん。離して。」
俊太郎は、アサシンの顔を暴いた。真っ白な顔に吸い込まれそうな大きな目。真っ赤な唇の美女である。俊太郎は、息を止めた。
「イリナ!」
異変に気づいたミレナが戻ってきた。
「やべ、姫様にもバレちゃった。」
「シュン、そいつは、私のメイドだ。戦いは全く出来ない。離してやってくれ。」
「お願いですよう。シュンさぁん。」
「武器は持っていないんだな?」
「ほら?内股にもないでしょ?」
イリナはゆっくりとスカートをたくし上げた。真っ白な太ももが顕わになっていく。良くある内股の仕込みナイフなどは、装具そのものからなかった。
「も、もういい、わかった。」
俊太郎は、真っ赤になりながら、ゆっくりとナイフを仕舞った。
「私、ボリス伯爵がメイド、イリナと申します。ミレナ様の担当でございます。」
艶やかにカーテシーを披露した。
「本当なんだ。イリナは私のお姉さんみたいなものだ。」
「副長代行、里見俊太郎と申します。何で尾行を?」
「あー。ミレナ様、度々こっちに来てますよね。ボリス家の大人は今、引継ぎやらで忙しくって。お嬢様はほったらかしになっているんです。ほったらかしたら、一人で敵討ちに行っちゃうし。」
「あー、最初から付けていた?」
「え、峰打ちの時も?」
ミレナは、赤面した。
「ええ。恥ずかしながら。」
「つまり、戦いには参加出来ないが回収は毎回していたと?」
「ご名答!」
「ううう。そうじゃったのか。すまぬ。」
「良いんですのよ。ミレナ様。それよりシュンさん。」
「馴れ馴れしくないですか。そんな間柄じゃないような。」
イリナは俊太郎にしなだれかかった。
「堅いこと言わないでぇ。見つかっちゃった以上、しょうがないから、アタシも連れてって?ね?お願い?」
イリナはウィンクした。思わず頷きかけた。
「イリナ、ダメ!!」
ミレナが制した。
「してませんって。素です、素。アタシだって村霧でくびちょんぱにはされたくないですから。」
「ここで、一人で帰れと言っても不用心だろう?」
「それに、アタシもツノは隠せますよ。ほら?」
解除すると、にょっきりと水牛のような角が姿を見せ、また隠れた。
「しょうがない。付いてこい。ただ、会談に入れるか決めるのは、エレナ様だ。」
「わかってますよ。ただ、アタシが給仕をお手伝いした方がスムーズだと思いますよ。」
「お前が毒を盛らない保証があるか?」
「あらら、おっかない。アタシこれでも、命は惜しいんです。そんなことしたら、お宅の騎士に真っ二つにされてしまいます。」
「…理は通る。」
「ね?ほら?大人の魔族と、お、は、な、し、したいでしょ?」
「…わかった。怪しい動きをしたら斬るからな。」
俊太郎は渋々同行を許した。
ミレナとイリナは姉妹のようにロナウド邸に歩いて行った。




