2-9.道場
2-9.道場
「この、ヒト殺し!!」
目の大きな少女の憤怒は、俊太郎の脳裏に焼き付き、何度も夢で俊太郎を責めた。何度もうなされて起きた。
「眠れなかったのかよ。隈があるぜ。」
最近は、サミュエルが朝食も誘ってくれる。
「ええ。うなされるんです。例の少女が何度も夢に出て・・・。」
「今日はどうすんだ?」
「ちょっと師匠の所へ行こうかと。」
今日は非番だったので、久しぶりに北畠の元に行ってみたくなった。抜かずの剣、の意味は未だ分からないが、仁兵衛は数多の修羅場をくぐり抜けた猛者である。何か考えがあって、そういう境地にあるはずだ。
イヴァンが剣を抜かなければ・・・。彼の剣筋がよみがえり、今でものけぞりそうになる。
抜かずの剣とは何だろう。
村外れに着いた。普段なら、挨拶して道場に入っていくのだが・・・。俊太郎は思いついて、鶏小屋を見てみることにした。
師匠の真似をして雄鶏の前に陣取ってみたが、雄鶏はにらめっこすらせず、「生意気だ」と言わんばかりに突っかかってきた。
「ちぇっ。木鶏どころか、闘鶏ですらないのか。」
俊太郎は肩をすくめると、正面玄関に周り、来訪を告げた。
「・・・そうか。」
俊太郎は、イヴァンとの顛末を一通り話した。声は震えたが、隊長に報告した時ほどは詰まらなかった。北畠は、瞑目しながら聞いていたが、やがて立ち上がると俊太郎を誘った。
「久しぶりに、稽古を付けてやろう。竹刀を持て。」
「お願いします!」
「今日は、ちょっと、いじめてやろう。ボリス伯爵だと思って、真剣に打ってこい。死ぬ気でやらないと大けがさせるぞ。」
飄々と告げた。
お互い一礼すると、仁兵衛は、すさまじい踏み込みで来た。あっという間に面を取られた。防具が割れたかと言うくらい痛かった。
「もう一本」
2,3合は受けても、その後にどうしてもやっつけられてしまう。師匠は、弱そうなおじさんではなかった。
打たれ、打たれ、守って、打たれ。ひたすら竹刀を交えた。
師匠の剣は、鋭いが、殺意がない。気配が予測できないのだ。自分は、呼吸もステップも感情が表に出すぎている。俊太郎は、ボリスの真剣だと思って必死に打ち込んだ。
――俺はイヴァンの霊に叱って欲しいのかーー?
刀を振るうと、一つの命だけでなく、家族や周りを変えることがある。打たれながら、その意味を肉体に刻み込んだ。
10本が終わろうという頃、胸のつかえは節々の痛みに変わっていた。




