2-6.剣戟
2-6.剣戟
イヴァンは焦っていた。ミレナが穴の向こうに落ちたら、間違いなく討たれる。人族どもは、「駆除」などというひどい言葉を用いている。何千何万という、「領民」を殺害されてきた。それには人族領の言い分もあり、甘んじて忍んだ。が、愛娘だけは・・・。
「ミレナ!」
なんと、人族の男はミレナを蹴り飛ばしたではないか。返す刀で、領民のゴブリンを、一瞬のためらいもなく首を跳ねた。
ーー殺人鬼ではないか。
イヴァンは、娘を守るべく抜刀した。そして、その男がゴブリンを斬り殺したように、何も言わずに、その首めがけて真一文字に剣を振るった。
ガキイイン。
若い男は反射神経でそれを防いだ。
「ちょ、ちょっと待って。」
俊太郎は、話をしたかった。
「ボリス家当主、イヴァン・フォン・ボリス。婦女暴行と殺人を確認。魔界法によって、処刑する。」
ーー殺人だって?
俊太郎としては、ヨダレを垂らして女の子に覆い被さったゴブリンから、女の子を助けたはずだった。
「待っーー」
すさまじい剣戟が二太刀、三太刀と襲ってくる。北畠は強いが、いなされるばかりで攻撃してくることはあまりなかった。かろうじて受けているが、イヴァンとは技量が違いすぎた。
――このままだと、死ぬ。
喋った瞬間首が飛ぶ。俊太郎は、死なないために全力で応じた。首に、篭手に、胴に、と殺意に溢れる剣である。
――真っ直ぐで美しい剣だ。
2秒後に殺されかねないのに、俊太郎はイヴァンの太刀筋の美しさに魅入っていた。
――押し返して距離取らないと本当に殺されてしまう。
俊太郎が、思い切って上段から振り下ろした時だった。
「ハナシヲキイテヤレヨ」
何かが喋った。
イヴァンが、宙を見て、一瞬固まった。
――村霧は、ミストと共に、イヴァンの首から胸を切り下ろした。
「あっ・・・。」
格上ならこれを受けて来るから、距離を取れる。そう計算したはずだった。
しかし、イヴァンは固まり、防御の剣を出さなかった。
頸動脈から、勢いよく鮮血が噴いた。
「精霊・・・。ミレナ・・・。」




