1-13. 村霧
1-13. 村霧
村霧……。
ーー振っても、よいだろうか。
シュ――。
軽く薙ぎ払うと、刃の軌跡に沿って、霧のようなミストが立ち上った。
「これは……?村雨?とも違う。」
仁兵衛は伝承にある魔剣村雨を連想した。降ると水飛沫が出ると言われるものだ。
リズが、どこか満足そうに微笑んだ。
「ミストが出るそうです。
村雨に寄せて作りたかったそうですが、鍛冶屋は、今はこれが精一杯だと申していました。
唯一無二とも言えますし、試作品とも言えます。お気に召すかは……分からなくて……。」
そう言って、リズは恥ずかしそうに目を伏せた。俊太郎は、リズの心遣いに感謝した。
「師匠」
俊太郎は、仁兵衛に村霧を試してもらうことにした。仁兵衛の太刀筋は無駄なく美しい円弧を描く。
シュパン。
爽やかな音とともに、繊細なミストが散る。立てかけてあった竹箒が、斜めに、実に綺麗に両断されていた。
「……これは、なかなかのものだ。」
仁兵衛は、わずかに目を細める。
「俊太郎。ありがたく、もらっておけ。」
布巾で刃に残った水滴を拭うと、北畠は村霧を静かに鞘へ戻した。拭うと水滴も湿り気も皆無だった。不思議なものだな、と仁兵衛は呟いた。
「リズさん、こちらこそ。本当にありがとう。
大切に使わせてもらうよ。……刀、欲しかったんだ。」
そう告げると、リズは一瞬きょとんとし、すぐに顔を真っ赤にして、はにかんだ。
「それで……もしよかったらなんだけど。」
俊太郎が言葉を続けると、リズは小動物のように、首を傾けた。
「村霧の作者、どなたかな?」
「街のドワーフ、アンドリーです。
使い勝手を報告してあげると、きっと喜ぶと思います。」
リズは、目を輝かせて答えた。
「それでは……今後とも、ローレンス家をどうぞご贔屓に。
本日は、これで失礼いたします。」
そう言って、リズは優雅にカーテシーをし、くるりと踵を返した。
馬車に乗り込んだ後も、窓からいつまでも俊太郎に手を振っていた。
俊太郎は新しい村霧の性能を魔物に試したい、と思うと、胸が高揚するのを感じた。




