♯TWO「招待と怪しげな雰囲気」
しばらくついて行くと、ロアは見たことのない場所へと辿り着いた。
目の前には、まるで異世界に存在するかのような、壮麗な城がそびえ立っている。
(こんな家の近くに、こんなお城が……?)
ロアは、家の周辺のことは大体把握しているつもりだった。
――もっとも、極度の方向音痴であるため、見落としている可能性は十分にあったが。
正面から入るのかと思いきや、案内役のメイドは城をぐるりと回り、裏口へと向かった。
使用人用の出入口なのだろう。理由はよく分からないが、不思議と納得してしまう自分がいた。
中へ入ると、別のメイドに案内される。
荷物を持たれたり、お菓子を勧められたりと、至れり尽くせりの対応にロアは戸惑うばかりだった。
(この人、いい人そう……)
気づけばドレスに着替えさせられ、豪華な扉の前へと連れて来られる。
そして、その扉がゆっくりと開かれた瞬間――ロアは再び立ち尽くした。
(なんか……お偉いさんっぽい人がいる……!)
そこにいたのは、まるで物語に出てくる王のような人物。
しかし、身につけているのは上質なスーツ。左腕には金色に輝く高級そうな腕時計が光っている。
整えられた髪、手入れの行き届いた指先、そして堂々とした姿勢。
完璧――その言葉がよく似合う男だった。
ロアは思わず体を強張らせる。
その男が口を開いた。
「お前で最後だな。座ってくれ」
(え、誰に……?)
そう思った瞬間、男と目が合った。
――自分だと気づき、慌てて目の前の椅子に腰を下ろす。
(“最後”…って言った?)
ふと右隣から椅子を引く音がした。
視線を向けると、女性が三人。
左を見ると、同じく三人。
つまり――自分を含めて七人。
年齢も雰囲気もバラバラで、本来なら関わることのなさそうな人たちばかりだ。
……いや、“変人”と決めつけるのは早いかもしれない。見た目だけで判断するべきではない。
そんな中、一人の女性が声を荒げた。
「な、なによ! あいつ……っ! 六人も……!?
私の知らないうちに付き合って、知らないうちにいなくなるなんて……!
ほんと、何を考えてるのよ!!」
隣の女性が背中をさすり、必死に慰めている。
ロアは完全に混乱していた。
話の内容はほとんど頭に入ってこない。
再び、男が口を開く。
「これで全員だな。よく来てくれた。
混乱しているだろう。まずは、ここに招いた理由から話そう」
そして、泣いている女性へと視線を向けた。
「……私の息子が、いなくなった」
思わずロアの口から声が漏れる。
「はっ?」
一斉に視線が突き刺さる。
しまった、と気づいた時には遅かった。
ロアは慌てて言葉を繋ぐ。
「す、すみません! あの……私はあなたのことを知りませんし、
どうしてここに呼ばれたのかも分かりません。
息子さんがいなくなったって……それが私とどう関係あるんですか?」
男は表情を変えずに答えた。
「そうだな……まず名乗るべきだった。
私の名はヴェイン。ここに集めた理由はただ一つ――
息子を探してもらうためだ」
一瞬の間を置き、続ける。
「我が家には、代々語り継がれてきた話がある。
――“パートナーは重要人物である”というものだ」
「息子にもパートナーがいた。調べた結果、その数は七人。
……それが、君たちだ」
ざわめきが広がる中、ロアは思わず口を開いた。
「え、ちょっ……私、彼氏いたことないですけど!?」
再び全員の視線が集まる。
ヴェインはわずかに言葉を詰まらせた。
「……そ、そうだな。例外もある。
お前だけ、何か特別な事情があるのだろう」
どこか強引な説明だった。
「記憶が欠けている可能性がある。過去の記録にも似た例がある」
(いや、この人もよく分かってないよね……?)
ロアは心の中でツッコミを入れる。
だが、ここまで来た以上、無視することもできない。
しばらくは流れに身を任せるしかないと判断した。
そんな中、別の女性が冷静に口を開いた。
「すみません。私は仕事があります。
突然連れて来られて、こんな話をされても困ります。
それに……私たちに探す義務はありませんよね?
警察に頼むべきでは?」
もっともな意見だった。
ロアも同意する。
なぜ警察ではなく、一般人である自分たちなのか。
(……警察に知られたくないこと?)
嫌な予感がよぎる。
ヴェインは静かに答えた。
「家族や職場には事情を説明済みだ。
ここまで来た以上、ただで帰すわけにはいかない」
空気が一変する。
「警察にも話したが、まともに取り合ってはくれなかった。
息子を最も知るのは、お前たちだ。
だから頼む」
そして、低く続ける。
「どんな小さな手がかりでもいい。
協力してくれれば、それ相応の報酬を約束しよう。
……見つけ出した暁には、“望むものを何でも与える”」
再びざわめきが起こる。
ロアは腕を組み、考え込んだ。
(うーん……うますぎる話なんだよなぁ……)
(これ絶対、何か裏がある気がする……)
――でも。
(人気のバスタブ……欲しいんだよなぁぁぁ……)




