160 文化祭 2年、3年へのパトロール隊
文化祭。
僕は今度は栞を開いてみた。2年生は全体的に食べ物系を占めている。
「フランクフルト&唐揚げ、ドーナツ、ポップコーン&焼きそば。それぞれジュースも売ってる」
「腹減ったし買い食いしようぜ」
春斗は栞で顔を仰いでいる。
最高気温が30度まで上がるとニュースで言っていた。
2年1組から回ることにした。
「フランクフルトは2人食べる?」
「食べる! 唐揚げはいいや」
「僕は唐揚げだけで」
廊下側の窓が開いて、そこから買い物ができるようになっている。
去年の僕らと一緒だ。
「唐揚げSサイズ1つ、フランクフルト2つ」
「1000円ジャストです」
「今日は俺のおごりだ、受け取れ」
「「ありがとう、春斗」」
「1000円いただきまーす。ありがとうございましたー」
店員役からトレーに入った唐揚げとフランクフルトを買う。
僕らは春斗から頂いた。
ジュパジュパ。
陽がフランクフルトの先端を口から出したり咥えたりしている。
「んーう! 濃いよー」
「食い方! 食い方……!」
「俺のあれはもっとでかいよ」
「ンなこと聞いてねーよ!」
春斗と陽のやり取りを僕は呆れながら、横目で見ている。
「次はドーナツ、食べる?」
「「うん」」
「ドーナツの穴にそれを通すなよ。穴には棒を入れるんだとか言って」
「いやいくら変態でもそこまでは」
「本当だよね。引くわ」
陽に賛同された。
「なんで俺が変なこと考えてる図になんだよ!」
春斗は2年2組のドーナツ屋で3つ買い上げると、僕らに渡してきた。
僕はそのころには手元の食べ物がなくなっていたので、ありがたく受け取った。すぐにがっつく。
「えな君。2年3組だったんだ」
「あ。先輩方こんにちは」
「なんで、たー坊は知らねえんだよ。把握しとけよ。で、ポップコーンと焼きそばは食うのか?」
「僕はいい」
「俺も食いすぎたから」
「えな君、焼きそば1つ」
「はい、先輩、300円です」
えなはプラスティックのフードパックに入った焼きそばをどこからか出して、春斗に、3つの割りばしをつけて、お金と交換した。
「頑張れよー」
「ありがとうございましたー」
えな君は手を振った。
先頭を歩く春斗は焼きそばを抱えて、階段を上がった。3年1組に来た。
「スタンプラリー、良かったらどうぞ」
いちはメイド服を着用していた。顔が赤い。
「「「これだよ、僕(俺)の求めていたのは!」」」
「本日限りで、チェキ1枚1000円だよ」
「「「お願いします」」」
スチャッと僕らは紙幣をあるだけ渡した。
「有り金全部か?」
1組の純が聞いてくる。
「うん」
「山賊のようだな……」
「一気に一文無しだよ」
僕、春斗、陽は一斉に話す。
「オーケー、じゃあちょっと来て。結―! お客さん。たいが7枚、陽が6枚、春斗が5枚」
「粘膜つける以外のポーズな。おい、いち、スマイルな?」
「何でうちがこんな目に……」
「ネットにあげんなよ。後で痛い目見たくなきゃ」
パシャパシャパシャパシャ……。
まるでメイド喫茶のようだ。
僕はいちの手でハートを作ったり、肩に手を回したり、色々撮って、大満足だった。
いちは手を振り払わず、されるがままだった。春斗にバックハグされていて恥ずかしそうだった。
「7枚、6枚、5枚、はい毎度あり。さ、さっさと行った行った」
「あの、葉阿戸は?」
「葉阿戸さんは別件で今いないよ」
「チェキ撮ってるの?」
「その通りだけど。今、視聴覚室にいる」
「いつ帰ってくる?」
「モン君とじゃい君がいるから心配すんな」
「いつ帰ってくる?」
「15分は見といたほうがいい」
純に頷き、僕は振り返った。
「僕、行かなきゃ」
「行かなくても大丈夫だよ。2組まだ見てないだろ。モンにどやされるからパトロール行こうぜ」
「嫌な予感がする」
「行かせてやろうよ。俺ら2人で2組行こう」
「陽、ありがとう、行ってくるね」
僕は春斗の声を背に早歩きで視聴覚室に急いだ。中に入ると、葉阿戸は端っこの机に突っ伏していた。よく見ると、葉阿戸は幼児服にうさぎのカチューシャにおしゃぶりを咥えている。他の2組の人は大勢の学校中の生徒に囲まれていた。
「葉阿戸、何してんの?」
「モン君がこのおしゃぶりか、モン君のおしゃぶりしか咥えるなって言うから。それで今、チェキ撮り終えたところ……」
葉阿戸は顔を上げたが、緊張の糸が切れたように再び突っ伏した。
「暑! 熱中症じゃないのか」
僕は葉阿戸のおでこを触り、熱があるのを確認した。そのままお姫様抱っこして葉阿戸を抱きかかえた。
(軽いなぁ、肉食ってるのか?)
今度は逆方向の保健室に葉阿戸を運んだ。
「これ、10万円くらいで売れそうだな」
「がっはっはあ! チェキと言いつつ遠くから撮ってたしな!」
「でも、本当に可愛いな。彼氏にしてもらいたい」
「それがさ、付き合ってるらしいぜ、くそ蟻音と。むかつくよな」
保健室には、南波と取り巻きが騒いでいた。
僕は構わず入っていった。
「ベッドを使わせてくれ。さもなくば、また石化しないといけなくなる」
「は、はい。いいっすよ、どうぞ」
南波達は身を小さくして出ていった。
僕のことは陰では恨んでいるらしいことが分かった。
「盟津君、いる?」
『なんだ?』
「あいつらの持ってるチェキと盗撮写真、燃やしてほしいんだけど」
『それ、ボクも欲しいな。こうなったら、あいつらから奪ってくるよ』
何もないところからシャツワンピース姿の盟津が出てきた。
今日も可愛い。
「奪ってきたよ」
盟津の手にはチェキ数枚と長いレンズの一眼レフカメラがあった。
「速! あいつらは?」
「廊下でおねむさ。しばらく起きない。それじゃあな」
「待って、葉阿戸の体調直すことはできないのか?」
「無理だ。おっと、都合のいい人が来た。今度こそじゃあな」
盟津は最初からいなかったように消え去った。
「たい、葉阿戸さん、倒れたそうだけど大丈夫?」
来たのはいちだ。持っているのは3本のペットボトルの水。
「いちこそ、もういいのか?」
「もうすぐお昼だからね、え? 何でおしゃぶり咥えてるの」
「あー」
僕は葉阿戸の口からおしゃぶりを引っこ抜いた。
「葉阿戸、新しい水よー、それ」
僕は水を口に含むと、葉阿戸に口移しで飲ませた。
葉阿戸はごくんと飲み込む。
「っつ~~~~」
いちは言葉に詰まっているようだ。気まずそうにしている。
「心配してるの? 大丈夫! 僕たちの仲だもん」
「たい、後で、ぶちのめす」
「怖いこと言ってるよ! 大丈夫?」
「だ、大丈夫! まだ飲む?」
「自分で飲めるから」
葉阿戸は上半身を起き上がらせ、僕といちに注目した。
「はい、葉阿戸さん。ここでお昼食べる? 葉阿戸さんのお弁当持ってくるね」
いちは新しい水を葉阿戸に手渡す。
「たいは行かないで」
葉阿戸は水をごくごく飲んで、床に臥せる。
「葉阿戸?」
「しばらく寝てるから俺を見てて」
「うん。分かった」
僕はずっとそばで見ていた。
いちは葉阿戸のお弁当を取りに行き、戻ってきては気おくれしてるかのように、とんぼ返りしていった。
僕はケータイで勉強していた。
1時間、2時間位たったころだろうか、葉阿戸が起き上がった。
「葉阿戸、大丈夫?」
「あ、ごめん、お昼食べそこなった?」
「いや、午前中に食べ物屋回ったから、お腹はすいてないよ。葉阿戸のご飯ならいちが持ってきてくれたよ」
「ありがとう」
葉阿戸はお弁当を開けて、頬いっぱいに詰め込む。早食いしている。
「13時50分だけど、なんも予定ないの?」
「……まぁ、大丈夫だろ!」
少し間をおいて葉阿戸は答えた。
僕はポジティブな葉阿戸に(見習わないと)と思った。
そろそろ戻らないと、和矢に怒られそうだ。
「そろそろ教室行く?」
「おへもいくはらほっほまっへ」
葉阿戸は水で流し込むと、お弁当を平らげた。包んだ。重心が定まっていて、体調が良くなったようだ。
「じゃあ、行こうか」
僕らは別のクラス前で別れた。
「皆さん、気を付けて帰ってください。明日は一般公開ですが、今朝言ったように羽目を外して無茶しないように。それでは」
和矢は手短に言うと、足の拘束を外していなくなった。
「おい、たい、お前、葉阿戸と何してたんだよ」
「なんで茂丸が知ってるんだよ」
「お姫様抱っこでいなくなったのを目撃している人がいるんだぞ」
茂丸の言葉に僕は息を吸い込む。
「一緒にいたよ、熱中症っぽかったから看病してただけ」
「俺も呼べよ」
そういう茂丸を僕は無視して帰っていった




