◇27 魂にある力。
「……これまた……奇怪な、能力を……」
ぱちくり。
あんぐりと口を開いて、目を瞬かせたアスタリークア。
「すげーだろ? キャットと初めて会って、握手したら出てきたんだ。オレが【ギア】を発動している間に、キャットに触れてると発動するもんでな。【ギア】と同じく魔法の威力を上げるんだよ。……さっき、地獄の炎のような火の魔法が出たぜ」
「なんだ? その遠い目は……」
「三十ほどの数の下級鬼を、骨も残さず燃やし尽くしたのだ。二日続いた戦争が、その一撃で終わった」
「……どんな威力だ」
ワンナの遠い目の理由を、ヴァンファルガーが説明すれば、アスタリークアは想像出来たようで、顔をしかめた。
「ワンナの【ギア】と呼ぶ特殊能力は、瞳が虹色になって、身体能力も魔法威力も向上するが……同じ虹色が周囲に漂うのはどういうことだ? これは無害か?」
「ああ、それは、まだよくわかんねーけど……とりあえず、防御壁になるんだ。絶対にキャットを守るんだぜ」
「ほーう?」
恐る恐るとアスタリークアは指先を伸ばして、虹色のガラスを小突く。
「アスタリークア様が、ワンナ様の【ギア】は魔力とはまた違う特殊な力が、血にあると調べてくださったと聞きました。私の場合は、どうでしょうか? 魔法が使えない者が【ギア】を持つワンナ様に触れることで、この現象が起きるのかという説も立てているのですが……」
「ワンナの特殊な力と、今まで見た魔法が使えない人間に似たところなどなかったが……とにかく、調べてみよう」
他と違う点は、そこしか思いつかないので、そんな説を立てたけれど、アスタリークアはそうは思わないようだ。
手を差し伸べてくる。
「あ。【ギアヴァンド】……この状態のことだけど、一回止めとく?」
「いや、お主の【ギア】の力も、発動中でしかわからん。そのままでいい。危害は加えんから、手を」
「はい」
ワンナの念のための確認に、アスタリークアはそう答えたので、私は手を伸ばしてひんやりした手に重ねた。
「……ん? ワンナとは、全く違うぞ? 血にも、別の力などないな」
あら?
ワンナと全く違うなんて……。どういうことなのかしら。
「一体どういうことか……。周りの光りは、ワンナの力と共通しているが……キャットリーナ姫の中に、それはない」
難しそうに顔をしかめるアスタリークアは、虹色の光りと私とワンナを順番に眺めた。
「不可解ですわね。私にこの現象を誘発する何かがあるはずです……お付き合いできるなら、少し試させてもらってもいいでしょうか? 通常時と発動時の違いを」
「構わんぞ」
「ありがとうございます。ワンナ様」
「おうよ」
アスタリークアに許可を得たので、ワンナとは一度手を離す。
虹色の光りが、キラリと輝いては散って消えていく。
「んん?」
「もう、何か気付かれました?」
「いや……確かめさせてくれ。もう一度、発動を」
身を乗り出したアスタリークアの言われた通り、ワンナと手を重ねれば、また鐘の音が響いて虹色の光りが周りを取り囲む。
「むむ? 離せ」
「おう」
「んん? 発動」
「ん? おう」
「むむ? 離せ」
「お、おう」
「んん? 発動」
「ええっ。何度やるんだよー……オレ、ちょっと疲れてきたんだけど」
「なんだ、疲れを覚えるのか?」
「うん、オレだけ気力が減るんだよ。調子に乗るとな。今のは、やけに疲れを感じた」
ゴーンゴーンッと鳴り続いた鐘。不思議と耳は痛くない音だ。
ワンナは弱ったように肩を落とすけれど、私はなんともないので、首を傾げてしまう。
「それで? 何かわかったのか?」
ヴァンファルガーが、急かす。
「ああ。ワンナと同じ力を感じる虹色の光りだが、発動時にキャットリーナ姫から出ているように見えた。そして消える時も、光りが消えたあとにキャットリーナ姫の中へ力が戻っていったのだ」
「わたくしの中を……あの光が出入りしているのですか?」
「そうだ。悪いが、胸の中心に手を当てても?」
「はい、どうぞ」
虹色の光りが、私の中にあるのなら、手を当てて確認するのも当然だろう。
アスタリークアが、ふんわりと近付いて、私の胸の中心に手を当てた。
やはり、ひんやりした手だ。
「ワンナ。もう一度、発動を」
「はいよ」
もう一度、【ギア】中のワンナと手を重ねた。
また鳴り響く鐘の音。
アスタリークアを避けて、虹色の光りは漂う。
「なるほど……興味深いな」
「なんでしょうか?」
「虹色の光りの力は、お主の胸の中。いや、魂にあるのだ。こうして発動している最中なら、魂に力があるとわかるぞ。発動の瞬間も、魂を覆うような虹色が光りを放って、これらが現れたのだ。ワンナは、血。キャットリーナ姫は、魂。魔力とは、また違う力がそこにある」
驚いてしまった。
「まぁ……魂だなんて……また不思議ですわね。精霊様も、魂がわかるのですね?」
「わかることはわかるぞ。伊達に、800年も生きておらん」
アスタリークアの手が離れた胸に自分の手を当てて、私は自分ではわからない魂について考える。
虹色の光りが、私の魂にあるなんて……。
「はははっ! 流石、年寄りだな」
「年寄り言うな。侮辱にしか聞こえん」
「事実だろう? 人間には、遥か上の年寄りだ」
「いや、貴様に言われとうないわ。最初の鬼め」
「バカを言うな、オレはまだ500年も生きていないぞ」
「誤差じゃないか!」
「誤差というのは、数年のことを言う。百年単位では誤差の内に入らないぞ」
「喧しいな!?」
ワンナが笑い退けると、気にしたアスタリークアに、ヴァンファルガーがしれっとした顔で言い放つ。
アスタリークアは、毛を逆立てた猫のように長い髪を揺らして声を上げる。
「アスタリークア様が約800歳で、ヴァンファルガー様が約500歳で……ガシュナナルゼ様は、おいくつですか?」
「我は150歳だ」
「ふふっ。失礼だとは思いますが、お二方に比べたら、若いですわね」
「……事実、若い」
「そうですわね。けれど、人間からすれば、150歳だって、十分に年上過ぎますわ」
まだ年齢を聞いていなかったと、ガシュナナルゼに微笑んで尋ねてみた。
ガシュナナルゼは、微動だにしない無表情で、静かに答えてくれる。
うん。とても年上である。
そうすると、肩にするりと腕が回ってきた。
「オレとキャットから見れば、お前ら三人揃って、とんでもない年寄り~」
「……気安すぎますわ、ワンナ様」
「えっ。ごめんなさい? そんなドン引きした顔する?」
ワンナが肩に腕を回してきたから、身を引く。
気安いにもほどがある。呆れを通り越して、怖いわ。
「人間でなくても、今のは気安いと思うぞ……姫相手以前に、女性相手だぞ?」
「お前の無礼さに顔色が悪くなっているじゃないか。離れてやれ」
「ワンナ……」
アスタリークアはワンナにしっしっと手を振り、ヴァンファルガーは私を手招く。
そして、ガシュナナルゼはワンナの肩を、そっと押し退ける。
「ガシュナまで!? なんなの!? オレが間違っているの!?」
「「「「……」」」」
「無言の肯定!?」
ワンナから少し離れると、好機だと思ったのか、待機していた妖精達の突撃を受けてしまった。
倒れてしまう前に、サッと四人の腕が伸びてきて、支えられる。
「ありがとうございます……。なんだか……その……妖精の数が多くなってませんか?」
「鐘の音が響く度に、集まって来たぞ?」
この声は、ヴァンファルガーか。
もう何も見えないほど、妖精に群がられていている。重い。
「特殊能力の影響ですか?」
「いや、それはないな。よく見ろ。ワンナには、せいぜい一人しか引っ付かん」
「もうまともに見えませんが……確かにそうでしたわね。あらあらー? どうしてですかー? 妖精さん達」
頬擦りをされているような、頭突きをされているような。もみくちゃ状態。
キャッキャッとはしゃぐ妖精達に尋ねても、返事らしい声はない。
もみもみ。ぷにぷに。ぐりぐり。
草や花、土や水。自然の香りが、仄かにする。
もみもみ。ぷにぷに。ぐりぐり――――。
妖精さんのもみくちゃを味わいたい方、リアクションをください!
2026/07/23




