◇28 夢と妖精とエルフ。
ゆさゆさと揺さぶられる。
「エコーキャットちゃん!」
クロードお兄ちゃんの声だ。
「んー、お兄ちゃん。……今起きた」
「大丈夫? なんか寝苦しそうだったよ?」
「んー……妖精さん達にもみくちゃにされる夢を見たから」
「どんな夢!?」
目を擦りながら、のっそりと起き上がる。
「おはようございます。エコーキャット様」
「おはようございます、レイチェルさん」
クロードお兄ちゃんの後ろに、レイチェルさんが立っていて、お辞儀をして挨拶。
「それでは、坊ちゃま。エコーキャット様が身支度なさるので、退室してください」
「なんであなたに急かされなくちゃいけなんだ!? エコーちゃんんん!!」
冷めた目で追い払おうとするレイチェルさんをギッと睨み、お兄ちゃんは日課の朝のハグをしてきた。
「じゃあ、庭で待ってる!」
「はーい」
手を振って見送る。
ランニングする支度をしよう。
「……本当に毎朝、起こしに来るのですね。エコーキャット様のお兄さんは」
「はい。自分で寝過ごしても、朝の挨拶とともに抱きつかないと気が済まないそうです」
二回、寝過ごしたお兄ちゃんに、謝罪されながら突進のハグをされたけど、それに対しての謝罪をしてほしかった。
「……レイチェルさんも、毎朝手伝いに来なくてもいいんですよ?」
「いえ。護衛メイドとして、お世話をさせてください」
「毎朝断っているのに……」
「気が変わるかもしれませんので」
自分で支度は出来ると断っているのに、こうしてやってきてしまうレイチェルさん。新たな日課になってしまった。
お世話を諦めないレイチェルさんは、脱いだ寝間着をせっせと畳んでは、ベッドの上を整える。
「エコーキャット様は、よく夢を見られるのですか?」
「……ええ、まあ。そうですね」
誰かが自分を呼ぶ声がする夢を見続けて。
それから、前世の前世の記憶を夢として取り戻して。
夢の中で、かつての友人であり、ご先祖様であり、神様と会っている。
よく夢を見るレベルは、超えていると思う。
「妖精達にもみくちゃになる夢だなんて……なんだか愉快そうですね」
「そうですね。可愛らしい妖精ばかりだったので、愉快ですよ。レイチェルさんは、妖精に会ったことはありますか?」
うん、可愛い妖精ばかりだった。ちょっと笑って見せれば、安心したような微笑みを返すレイチェルさん。
「ありませんね。逆に、私が妖精だと認識されてしまいます。エルフの起源が妖精ですので、仕方ありませんが」
「そうですが、今や別種族ですから、混合するのはどうなんでしょうか?」
さっきの記憶でも、エルフの話がチラッと出た。
「どうでしょう……私としてはさして気にする点ではないと思います」
「そうなのですね。個人で考え方は違うとは思いますが……私としては、混合することなく、はっきりと正しい認識をしてほしいです。もやっとします。間違ったことを口にされると、修正したくなります……」
「それは……どんな時に経験をなさったのですか?」
露骨に顔に出でしまったのか、レイチェルさんは話を聞こうとしてくれる。
「お母さんのお茶会で知り合った女の子達が……まぁ、あれこれと間違って覚えたことを繰り返し話していて……ずっともやもやしました」
「間違いを正してはあげなかったのですか?」
「一回だけ……二回目は、流石に鬱陶しがられるので」
そうして、私は間違ったことを延々と聞いて、もやもやを抱えてお茶を啜った。
「頭脳明晰なエコーキャット様だと、同年代の子どもと話すのは……なんだか苦労しそうですね。それでお茶会は、好まないのですか?」
なんか……流れるように自然な動作でブラシを奪って、私の髪を梳かし始めてしまったレイチェルさん。
……これは、私を知ろうとしてくれているのか。それとも、お父さんに頼まれて、探っているのだろうか。私の本当の心情について。
「レイチェルさん。初めて会った際の会話を覚えていますか?」
「初めて会った際の……?」
向き合っていた鏡の中で、レイチェルさんが首を傾げた。
そんなレイチェルさんと鏡の中で目が合ったので、口元を指でくいっと上げておく。
レイチェルさんは愛想がよくなく、表情が変わりにくい。だから、その点は気にしなくていいと言われた。
なので、私も無理に笑うのは顔が疲れるから、自然体でいようと提案したのだ。
「ああ。そうでしたか」
あの時のように、レイチェルさんはフッと綺麗に微笑む。
そうそう。顔が疲れるので、あまり行かないのである。
「両親には内緒ですよ? お母さんに無理してお茶会に参加しているとは思われてくないです。行く時は、気晴らしのためについていってますので」
念のために、釘を刺しておく。
今後、お母さんがお茶会に同行するために気にしたら嫌だ。
「わかりました」と躊躇なく、レイチェルさんは頷いた。
キュッと、後ろ髪をポニーテールにして、リボンを結んでくれた。
「ありがとうございます、レイチェルさん」
「……エコーキャット様。レイとお呼びください。そして、私に敬語は不要だと再三言いましたので、そろそろお願いいたします」
「私も、様付けはやめてくださいと言ったじゃないですか。ちゃん付けだったのに……」
「すみません。正直、ちゃん付けは、しっくりこなかったのです……。今は、エコーキャット様の護衛メイドですので、様付けは当然。むしろ、様付けはしっくりくるのです」
今日もやるのね、このやり取り。
レイチェルさんは譲らんと言わんばかりのキリッとした顔で言い退ける。
あれやこれやと理由を言い合って、自分が望む呼び方と話し方を推し合った。
……まだまだこのやり取りは、平行線となりそうである。
結局、何故キャットリーナは、あんなに妖精に好かれていたのだろうか。
元々は妖精だったエルフ族のレイチェルさんを見たけど、何も尋ねることなく、ランニングをしに向かった。
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2026/07/24




