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虹色の光をまとう転生少女は、神に生き様を見守られている。  作者: 三月べに


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◇26 森の精霊と妖精。





 不思議と、神聖さを感じる森の中。

 きっと澄んだ空気に満ちた美しさがあるからだろう。

 狭まった視界でやっと、湖が見えた。


「おーい! アスタリークア! いるかー!?」


 声を上げて、ワンナは呼ぶ。

 そうすれば、ほんのりとライトグリーンに色付いた光りが集まり出す。それは、あっという間に人型となり、浮遊する男性の姿となった。

 右目が隠れて、腰よりも長く伸びたライトグリーンの髪とともに、ふわふわと漂う男性は、胡座をかいて、仏頂面で頬杖をつく。


「今日はなんの騒ぎを起こしに来たのだ、ワンナ……って! どうした!? 少女が妖精達にもみくちゃにされているではないか!!」

「ああ、うん……なんか、歩いて来たら、キャットに引っ付いて離れなくなった。どうなってんの? これ?」

「ワシが知りたいが!?」


 視界が狭まっているのは、妖精と呼ばれる種族に群がられているからだ。

 ワンナも戸惑うが、精霊アスタリークアもわからないと声を上げる。


「最初は、興味を示したキャットが、妖精に近付いて観察していたんだが……触る許可をもらってから、妖精の一人をこねくり回すように触っていたら、いつの間にかこぞって妖精達が、キャットをこねくり回すようにじゃれてきて、この有様だ」

「いや、助けてやれよ、ヴァンファルガー」


 アスタリークアの言う通り、このもみくちゃ状態をどうにかしてもらいたかった。


「何を言っているんだ。オレやガシュナナルゼだと、脆い妖精が傷付く。ワンナが一人一人剥がしたが、キリがないと諦めた」

「それもそうか。……で? キャットというその少女は、何者だ? ワンナと仲良く手を繋いで……結婚報告か?」

「あ、そういう類の話はやめてくれ、アスタ。キャットが嫌がるから。これは念のためと、目の前がよく見えないキャットのために、手を引いてやってるんだ」


 あまりの多さにあっさりと諦めたワンナが、手を引いて歩き続けて、現在に至るのだ。


「嫌ですわ。どうして男女が揃っているだけで、すぐにそういう仲だと勘違いなさるのですか? 手を繋いでいるせいなのはわかりますが、不快ですわ」

「不快ってまで言う? 酷くね? 傷付いたわー」

「わたくしの人生計画に、結婚は予定に組み込まれていないので、不快なのです。結婚報告など、冗談でも不快なのです」

「二度言った……不快感強し」


 ワンナがげんなりした顔が、チラリと見えた。

 心情を、正直に話したまでだ。


「それに精霊様。少女だなんて、失礼ですわ。もう18歳でして、人間として立派な大人ですの。長寿な精霊様にとったら、赤子同然かと思いますが…………あら、嫌だわ。精霊様のお歳を知りもしないのに、勝手な決め付けで言ってしまいました。わたくしも、失礼いたしましたわ」

「ワンナの連れなのに、礼儀が正しいな……!? 驚きだ! すまなかったな、子ども呼ばわりして。何、気にするな。事実、18歳など赤子に思えるほど、長生きしてきた」

「今日はすげー無礼って言われるんだけど……なんで?」


 それはワンナが正真正銘、無礼者だからでしょう。

 アスタリークアも、すんなりと謝ってくれた。


「なんでまた、妖精にもみくちゃにされておるんだ、お主」

「ああ、挨拶が遅れましたわ。わたくしは、キャットリーナ・イターリーと申します」


 妖精達に引っ付かれながらも、お辞儀をして挨拶をする。


「ワシは、この果てしない森の中の湖から誕生した精霊のアスタリークアだ。……イターリーは、王国の名前だが、よもや国民が貧困に喘ぐ王国にしている王族と関係が?」

「はい。元凶の国王の一人娘ですわ」

「そうか。どんな経緯で、龍と鬼を引き連れてきたのやら……。まぁ、大方、ワンナが巻き込んだのだろう? 一国の姫を、何故こんなところに……」


 あまり大袈裟に驚くことなく、アスタリークアは、呆れた眼差しをワンナに注ぐ。

 ワンナは、巻き込みクセでもあるのかしら……。


「いや、ヴァンファが最後の裏切り者に戦争吹っかけられたって聞いたから、手助けするために来てもらったんだ」

「意味がわからんな」

「まぁまぁ、とりあえず見てくれよ。って、先ずは妖精を引き剥がさないとな。剥がしても剥がしても、また引っ付くんだよ」


 早速【ギアヴァンド】を見せようとしたけれど、引っ付いている脆い妖精に、どんな影響を与えてしまうかわからない。


「妖精をこねくり回した報復には見えんな……。そもそも、何故こねくり回した? キャットリーナ姫よ」

「それは、妖精には初めてお会いしましたし、魔法生物とカテゴリーされた生き物は、身体の構造は解明されていないので……気になって、観察していたのですわ。モチモチな頬と手足や脇とお腹に触らせてもらっていたら、キャッキャと笑っていたと思いきや、他の妖精が引っ付いてきて……気付けば、もうもみくちゃ状態にされておりました」

「遊び相手と認識されたのか……? いや、その好かれようは異常に思えてならんな。妖精は見た目の通り、永遠の子どもとも呼ばれておる。自由気ままで無邪気な種族だ。お主が傷付けなければ、害はない」


 永遠の子ども。正確に言うなら、赤子に思える姿だ。

 様々であるけれど、色とりどりの髪と肌を持ち、赤子の体型と虫の羽根や鳥の羽根を生やしては、ぷかぷかと浮いている。

 中には赤子よりもさらに小さな小さな子どもの姿もいるし、球体の光りのみの姿もいた。


「あと、身体の構造など、調べるだけ無駄だ。姿形を具現化していても、体内に内臓などはない。……間違っても、解剖などするなよ? 妖精の報復で、城が朽ちるからな」

「まあ。解剖だなんて、物騒ですわ……。こんなにも愛らしいのに。それに魔法生物としての死となると、姿を保つ魔力が散って、消えてしまいますから、現実に考えて解剖は無理でしょう? ……まさか、そんな野蛮な愚行を行った方がいたのですか?」

「ああ。あれは確か、100年ほど前だったな……この森ではないが、他の山の森で妖精を乱獲しては、傷付けた阿呆な国の辺境伯だったか? 報復により、その領地は枯れ地と化した」

「あらあら……。でも、気になりますわ。例えが悪いとは思いますが、中身は綿が詰まった人形のようなのでしょうか? ぷにぷにしますし、重みもありますし……不思議ですわ」


 一人の妖精を赤子のように抱いては、ゆさゆさと揺さぶってみる。しっかりと重さを感じた。

 キャッキャッとはしゃいだ鈴の音のような声を出しては、またもみくちゃにする勢いで引っ付いてくる妖精達。


「これまた、好奇心の強い姫だな……ワンナ」

「身体の中を真剣に知りたがられているのに、無邪気に集っている妖精達もすごいよな……」

「これほど好かれて引っ付かれた人間を見るなど、初めてだぞ。妖精が人間寄りに進化してエルフという種族となった者達なら、多少は引っ付くのだが……」


 頬杖をついて、アスタリークアは怪訝そうに、私達を眺める。

 姿が子どものためか、言葉で意思の疎通はあまり出来ない種族。精霊でも、会話は出来なく、理由は聞き出せないようだ。


「うん、そっか。とりあえず、退かして。用件が済ませられないから」

「ほれほれ! 邪魔だ、妖精達よ。散れ。むくれるな! 用があるのは、ワシだ! あとにしろ! 散れ散れ!」


 ぺいぺいっと、アスタリークアが手を振って払う。

 ブーブーと唇を尖らせる妖精達を、風を巻き起こして引き剥がす。

 解放された私は、乱された髪をせっせと直して整えた。

「ごめんなさいね」と妖精達に笑いかけると、突進するような勢いで戻ってくる。

 それをガシュナナルゼが風を巻き起こして、阻止してくれた。


「好かれているより……惚れられている域にないか?」


 ヴァンファルガーが、首を捻る。


「無能で無力な姫でも、この通り、美しい外見ですから、邪な目で見てくる貴族に言い寄られることもしばしばありますが……妖精達になら、惚れられても、嬉しいですわね」


 ふぅ、と頬に手を当てて肩を竦めるけれど、そんな貴族達と違って、妖精達なら悪くない。

 もみくちゃにされるのは、少々困るけれど。


「無能で無力な姫? そういえば、先程も似たような話を……」


 ヴァンファルガーは、覗き込むように見てきた。


「そなたのどこが、無能で無力なのだ?」

「魔法が全く使えないので、そう呼ばれていますの」

「なんだと?」


 驚いた、とルビーの瞳を見開くヴァンファルガー。


「だが、あの特殊能力は……。いや、魔法とは別物であるし、ワンナといなければ出来ないモノか」


 真っ赤な瞳は、私とワンナの繋がれた手を見つめた。


「おいおい。ワンナ。魔法が使えもしない姫を、戦場に連れて来るなど……正気の沙汰ではないぞ」

「知らなかったんだよー……直前で知ったんだよー……。オレは魔法が使えない人間がいるなんて、知らなかったんだよー」


 言い訳をして項垂れるワンナは、反省の色はあるらしい。

 しょげた顔である。


「まぁ、オレも、稀にいる程度にしか知らなかったが……どうなんだ? アスタリークア」

「何年前かは覚えていないが、ワシに魔法が使えるようにしてほしいと頼みに来た人間がいたぞ。残念だが、ワシにも無理だ。魔力はちゃんとあるのだが、魔法を使う術がない身体で生まれる者が稀にいる。本来、兼ね備えられた身体の一部分がないということだ。魔力で生まれる妖精や精霊でも、それを補うことは出来ん」


 ふんぞり返るような姿勢になるアスタリークアは、淡々と事実だけを告げた。


「やはり、そうなのですね。わたくしも文献を読み漁ってきましたので、知っておりましたわ。……使い道のない魔力に、惹かれているのでしょうか? 妖精達は」

「まぁ……その説は、あり得なくもないな。全然残念がってはいないから、魔法が使えるようになるという望みは薄いとわかっていて来たんだな?」

「あら、違いますわ。アスタリークア様。別のことを調べに来ましたの」


 もう知っていたこと。残念がりはしない。

 望みさえも抱いていなかったもの。

 魔力があっても、魔法が使えない身体。その使われていない魔力に惹かれているのだろうか。

 再び、引っ付く機会を窺っている妖精達を、首を傾げて見てみる。

 それより、用件を済ませないといけないわ。


「おう。これが用件だ。ヴァンファルガーの戦争に、キャットを連れて来た理由だぜ」


 虹色の瞳に変えて、ワンナが繋いだ手を、前に出した。


   ゴーンッ。


 鐘の音が鳴り響いて、虹色の光りが散りばめられる。

 キラキラと反射して、私とワンナの周りを浮遊したガラスのような光り。






危うく最後の更新から二年が経つところでした……!!

久しぶりです、お待たせしました!


これで『約束の広場』のお三方は出揃いましたね!

再会はいつになるのやら……!


よかったら、リアクション、ポイント、ブクマをよろしくお願いいたします!


2026/07/22

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