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青柳の過去カット分とあれやこれ

この話は本編「それを、華に例えた」で、カットした青柳の過去になります。


注意!!:本編より更にエグいです。その上ネタバレがあります(本編の展開に関わるものでなく、○○が実は××だったと言うネタバレです)大丈夫な方だけご覧下さい。

前半は本編と重複しています。


下の方に裏話や、私の考えをちょろっと載せています。また『ふーん。あっそ』くらいの気分で読んで下さい。

 

 先帝の御代には、今以上に身分差による差別が激しかった。

 皇族・貴族は、下の身分の者を嘲り侮蔑していたのだ。

 ……自分は、平民より更に下の身分である下民(げみん)と呼ばれる身分で生まれた。

 身分は生まれて死ぬまで変わる事はない。下民は生涯虐げられる存在だった。

 災害や戦があれば真っ先に犠牲となり、時には人権を無視した事をされたりもした。

 ある年に農作物が不作で、大多数の人間が餓死した事があった。……その犠牲者の殆どが下民だったのだ。只でさえ痩せた土地で作物が育ち難いと言うのに、不作が重なったあの年は、本当に微々たる収穫量だった。その僅かな実りでさえも貴族連中に搾取されてしまう。食べ物に困った人たちは、土壁の中にある藁や木の皮や根を食べて飢えを凌ぐのだ。更に食糧難が続いた地域では、食い扶持を減らす為に力の弱い老人や子どもを間引いたり、挙げ句の果てには餓死した遺体を食らうまでに堕ちた人間もいた。


 しかし、それだけではなかった。

 下民が最も恐れ、憎悪したのは、先帝と一部の上位貴族による“人狩り”である。

 文字通り、逃げ惑う人間を如何に素早く惨たらしく殺すかを競い合う、畜生にも劣る外道の遊戯(あそび)だった。

 奴等は狩る人間は決まって下民だった。しかも、抵抗出来ない弱々しい者から選んでいた。

 自分が住んでいた地域は、皆が皆、そんな大人しい人間ばかりだった為、奴等に目をつけられたのだ。

 穏やかで争いを嫌う父に、か弱い母、そして幼い妹。餓えて痩せ衰えた自分も、その標的だった。


 ある日突然住んでいた村に火を放たれ、慌てて逃げ惑う自分達をあいつらは嬉々として馬で追い回し、疲れ果てて倒れた所を、銃や槍や刀で殺して行った。

 目の前で、近所の爺婆が、幼馴染みが、両親が、惨たらしく殺されて行った。

 そして小さな妹は、一際立派な馬に乗り豪奢な衣服に身を包んだ男に、無惨に切り裂かれて殺された。

 人一倍寂しがり屋で泣き虫の妹が、虚ろな目をして倒れるのを、喉が裂けるぐらいの声を上げながら見てるしかなかった。

 地に伏した両親を、身形だけは立派な外道共が踏み潰す。

 畜生、畜生、殺してやる、殺してやる!!

 そう叫ぶだけで、自分は無様に逃げる事しか出来なかった。



 何処をどうやって逃げて来たか解らない。

 己の無力に対する憤りと、家族や仲間を殺された憎悪と哀しみが、ずっと嵐のように心の中を荒れ狂っていた。

 そして気付いたら、同じように外道から逃げ延びた奴等と復讐として、貴族連中を片っ端から惨殺していた。


 虫けらより価値のない連中を殺していく内、あの日妹を殺した男が糸敷侯爵である事を知った。―――妹の死から数年後の事だった。

 ずっと侯爵をあの時の貴族連中を殺す事を願っていた。侯爵の屋敷に忍び込み、奴の家族ごと皆殺しにしてやろうと思った。

 その思いだけで、遠く離れた所にある帝都へ向けて単身旅立った。


 地方では餓死者が出るくらいの飢饉が起きているのに、帝都はそんな事は知らんとばかりに繁栄していた。

 華美を好むあの外道らしい、派手な外観の屋敷はパーティーでも開かれているのか、沢山の照明が灯されて昼のように明るくした庭園で、華やかな装いの男女がテーブルに溢れんばかりの料理を並べ、酒を呑み躍りに興じていた。村が一月食い繋げるくらいの食糧を、贅沢に食い散らかす連中に怒りが込み上げる。

 最大の目的である侯爵を探すが、中々見つからない。


 そこに、自分より年下の少年と呼べるくらいの年齢の男が、一人でフラフラと歩いていた。

 パーティーに参加している奴等は揃いも揃って華美で贅沢な洋装を身に付けているのに、少年は夜の闇に溶け込むくらいの真っ黒な和装を身に付けていた。

 周囲の喧騒に興味を示さず、フラフラと人気のない場所へ歩いて行く。

 ―――こいつから殺そう。

 パーティーの参加者であるなら、この少年は貴族に違いない。もしかしたら糸敷侯爵の血縁の者かもしれない。

 長年の経験で気配を消すのが上手くなった。それを最大限に活かして少年の背後まで迫った。


(えんじゅ)


 あと少しで握った刃が届きそうになった瞬間、少年は短く一言発した。その次には自分が地面に押さえ付けらるように拘束されていた。


「若、お怪我は」


「大事ない。……しても、暗殺者にしても隙だらけだな。お前誰の手の者だ?」


 地面に這いつくばった自分と視線を合わせるようにしゃがんだ少年は、その美しい顔を怪訝そうに歪めていた。

 その妖しいまでの美貌と、纏う空気の鋭さに息を飲む。


「若、吐かせましょうか?」


 押さえ付けている巨躯で達磨顔な男が低く告げる。その淡々とした対応に男が拷問に慣れている事が解る。

 その時になって初めて抵抗をした。だが、自己流で強くなったつもりの自分では、この達磨顔の男の拘束を解く事が出来ない。


「畜生!!離せ!!クソ共が!!」


「おーおー、口が悪いなぁ……お前、名前は何と言う?」


「クソ貴族に名乗る名などねぇよ!!」


「若に何と言う事を!!」


 後ろ手に捻られていた腕を折らんばかりに捻りながら、達磨顔の男は歯を軋ませながら怒りを露にした。


「よい、槐。そこまでにしておけ。……しかしなぁ……名前がないと不便なんだよなぁ……」


 若と呼ばれた少年は視線を彷徨わせて、ふと見事な柳の大木に目を止めた。


「よし、お前は暫定的に青柳と呼ぶ事にする」


「そんな名前じゃねぇ!!四葩(よひら)だ!!」


「そうか、四葩か。では、四葩、お前は下民出身の盗賊崩れか?」


 肯定と言わんばかりに動きを止めてしまった。確かに、仲間と共に貴族専門の盗賊紛いの事をしてきた。何故何も語ってはいないのに、この少年は見破ったのだろう。


「数年前から貴族ばかりを狙う盗賊が、地方で暴れていると聞いていたからな。数年前と言うと糸敷侯爵ら上位貴族が、大規模な人狩りをしたと聞く。此処に忍び込んでいて、貴族を蛇蝎の如く嫌っているとなると……と思って鎌を掛けたんだが、お前結構迂闊だな」


「うるせぇ!!クソ貴族クソ貴族クソ貴族がぁっ!!」


「若……この者はその人狩りの犠牲者の遺族って事でしょうか?」


「そうだろうな。聞くだけでも胸糞悪ぃのに、実際被害に逢ったんだから、殺してぇって思うのも仕方ねぇよなぁ」


 そう言った少年は、難しい顔をして唸り出した。自分だけでなく、達磨顔の男も怪訝そうに見つめる。

 そして、いきなり膝を叩いてとんでもない事を口にした。


「よし!!槐、こいつを三年以内に使えるように教育しろ」


「なっ、何でてめぇの言いなりにならねぇといけねぇんだよ!!」


 “使える”と言う言葉に、酷く嫌悪感が沸き上がる。それを意味する事はいくら学のない自分でも理解できた。……この貴族の少年に仕えると言う事だ。


「お前が俺の狗になるなら、腐った貴族連中をブチ殺す機会をくれてやる。……大義名分の元に正々堂々とブチ殺す権利をやるっていってんだ。どうするよ、四葩」


 形良い長い指が顎を捉え、強引に上向かせる。首を引っ張られる痛みと屈辱で、涙が滲む。


「本、当、だな?……絶対俺にあの外道を殺させてくれるんだな?」


「ああ、約束してやる。俺の命を賭けよう」


「若っ!?」


「あいつを殺せるなら、犬でも豚でもなってやる!!」


 その言葉に、少年の唇は満足そうに弧を描いた。


「槐、離してやれ。これからはお前の教え子だ」


 顎から手を離した少年の命令に、渋々と拘束を解く達磨顔の男。痺れた手を突いて起き上がろうとした時、首筋の―――頸動脈のすぐ

 横の地面に、拘束された時に奪われた刃が突き立てられた。

 その一連の動作を、顔色も変えずにやってのけた少年に、背筋が冷える。


「立て。今この瞬間、四葩と言う人間は死んだ。そして、この瞬間に青柳と言う狗が生まれ落ちた」


 月明かりに照らされた美貌を艶然と笑ました少年は、刻み込むように言った。


「青柳、只の犬ではない。神の狗だ。これから神を引き摺り落とす為の俺の狗だ」









 ……と、まぁこんな感じだったのですが、皆様が感じてる事をあてましょうか?

 はい、せーの!!



 お前、まるで主人公じゃねーか!!!!



 ……主人公ですよ? 間違っていません。

 実は一章を書いてる時に、同時に考えていたんですよ。青柳と神皇(牡丹の君)のダブル主人公……もしくはどちらか一方が主人公のスピンオフ。『愛憎の華(笑)』の前日譚として『孤高の華』と言うめっちゃ安直なタイトルで。その話の冒頭辺りになるのが↑と言う訳なんです。

 神皇が如何にして先帝を弑逆したか、何故牡丹の君がしなければならなかったのか……てな感じで、愛憎~とは全く違うドが付くくらいのシリアス展開な話だったんですが……↑を読んで思いませんでしたか?


 何か……神皇と青柳がBとLな感じになりかけてない?


 き、却下、却下却下却下ァ!!!!!!はい、ボツ!!

 スピンオフにはちゃんとヒロインちゃんも居たんです。だけど、梅子と違い、デモデモダッテちゃんな挙げ句、守ってくれなきゃ死んじゃうゾ☆的な儚げ美少女設定だったので、多分皆様イラッッッとするだろうし、神皇の性格上、そんな女に恋しないだろうなと思い……ヒロイン消滅……益々BLじゃん!!となった為、ボツにして、必要な所だけ愛憎~に組み込む事にしました。


 本編で過去をカットした理由は、エグいってのもあるんですが、主人公でもないのに長々と過去【しかもエグい】を 書くのもなぁ~と思いまして、必要最低限の描写に留めました。

 あの話のメインは、二章初めで何故青柳が梅子に突っ掛かるようになったかの種明かしで、青柳の過去を書いても正直私しか楽しくないと思いましたので。

 しかも、プロットの段階だと更にエグかった(笑)元々スピンオフはムーンライトさんに投稿しようとしてたので、愛憎~より残酷描写がキツかったんです。青少年の健やかな育成を妨げまくりでした(笑)


 多分本編も此処も読んでも、青柳を理解できない人はいると思うんですよね。特に梅子を好いてくださってる方々は、どうあっても相容れないと思います。

 私が何故、青柳の過去を書いたかと言うと、彼が必要以上に梅子に冷たい、貴族嫌いの癖に貴族の家で執事を何故しているのかが、生い立ちにあるからです。

 青柳は表面上は取り繕っていますが、実は花園家の人間は全て嫌いです。特別梅子を嫌っていたのは、与えられないものばかりねだって、見向きもしない物が実はすごく恵まれている事に気付かずに無駄にしていたからです。……これはもう価値観の違いですよね。フーキが親の愛情は大事だと言ってますが、青柳は常に餓え苦しんでいたので、衣食住>>>親の愛情となってしまったんです。そんな考えになるくらいの極限状態を、梅子は勿論フーキも体験した事がないから、青柳が“情のない冷たい人間”だと思うんです。

 フーキにアドバイス的な事を言われた以降の突っ掛かりは、反応を監察していただけなんです。これは嫌な奴です。執事の職務を逸脱し過ぎですね。

 ……私としては青柳には梅子の真価を見極めてもらって、何らかの答えを出してもらいたいなと思っているので、そんな感じに書き進めるつもりですが……、青柳嫌いの方を納得させられる自信がないですね(笑)


誰得な過去話(笑)私は楽しかった。


因みに私はBL嫌いじゃないですよ。ただ、『愛憎の華(笑)』にはBLを入れたくないし、きっと誰も期待してないので却下したんですよ。

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