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二日目 休み時間1


 いや、恋に落ちちゃいかん!


 とルネ(途緒)は自制した。


 だいたい自分に恋するなんて馬鹿にもほどがある。


 とりあえずは、このゲームの世界から脱出しなければならない。

 現実世界での時間は進まないというのが過去の経験から得た救いの情報だが、それにしても丸一年近くもゲームで過ごすことになるのだ。たった一度のクリアのために。


 できれば最短で、つまりは一周でクリアしたい。最速でメイン攻略対象ヒロインとエンディングを迎えたい。

 それ以降、もし他の攻略対象ヒロインに魅力を感じたり、心残りがあるようであれば、もう一度ゲームトリップすればいい。


 すべてはクリアしてからのことだ。


 自分自身の美しさ、愛くるしさと元の世界へと戻るための方法を考えているうちにいつの間にか授業が終わっていた。


 ルネはモードを切り替える。

 ゲーマーとして(ゲームなんてやったこともないが)、ゲームに愛されたゲームの申し子として。


 秘密シークレット手段リゾートで得られた情報も無駄にはできない。ネタバレフィルターが掛かっているとはいえ、攻略対象ヒロインの名簿が手に入っているのだ。


 残りの攻略対象ヒロインに出くわさなければならない。それも早い段階で。


「どうした? ルネ? 便所か?」


 教室を出ていくルネにかけられたタニヤーマかタニグーチからのどちらかからの声を無視してルネは下級生の校舎へと向かった。


 すべてはエンカウントのためだ。出会うために。


 未だ見ぬ攻略対象ヒロインは、4人。

 そのうちの、フーナというアホの娘に関しては空から降ってくるらしいので、今の段階で考慮するのはどうやら無駄っぽい。



 残るは三人。

 運よくそれは、同属性で固まっている。

 すなわち下級生。ルネの後輩にあたる。

 シャーサ・ネティバルスとサーシャ・ネティバルスは、絶対ヒロインであるベルの妹であるためにそこからアプローチすることもできるだろう。

 もう一人の、シフィア・ハウスターは謎多き少女だ。

 説明ではクールとある。


 クール上等。


 ルネの速度が上がる。

 校舎内にある曲がり角に向けて。


 急いで走るのだ。


 わき目もふらず。できるだけ不注意で。


 そして角を曲がる。何かが起きる予感がする。


「…………」


 案の定、誰かとぶつかった。


「ごめん、よそ見をしてて、急いでいて、それからちょっと考え事をしてて」


 思いつくありとあらゆる言い訳をルネは、口走った。


「ああ、こっちこそ、よそ見もしてたし急いでたし、考え事もしてたし、幽体も離脱しかかってたから……」


 聞こえてきたのは野太い声だった。しかも思いつく限りの言い訳で上を行かれていた。

「僕は、エット。えっと、先輩ですか?」


 攻略対象ヒロインでもなんでもないごく普通の下級生の男子生徒がルネに絡んできた。

 いや、絡んできたというのは言い過ぎだろう。

 ルネは明らかに誰かとぶつかるつもりで角を猛スピードで曲がったのだから。

 それで、確かに誰かとぶつかったのだから目的の一部は達成したし、その責任の所在はルネにあるのだから。

 唯一の誤算はそこで攻略対象ヒロインと出会わせてくれるような甘いゲームではなかったということだ。

 今後出番があるのかないのかすらわからない、モブなのかサブキャラなのかわからない表情でエットは言う。


「えっと……、先輩。何か御用ですか?」


 その声には卑屈な響きが込められていた。

 なんだったら舎弟になりますよ? 的な。


「いや、急いでるから……」


 ルネはエットを置き去りにしてまた走りだす。


 そう、曲がり角はもうひとつあるのだった。

 そっちの角も、容赦なく全力で曲がることだろう。

 次こそは攻略対象ヒロインの誰かとぶつかり、出会うことを目指して。

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