↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

第四話 判定

「さあ、いよいよね!」


 百合は、玄関で靴を履いている優二に声をかけた。


「はい!」


「今まで、休みの日も一生懸命特訓してきたわね。苦手だった数学も英語も、もう十分に実力がついているわ」


「はい!」


「度胸だってついたでしょう?」


「……ジェットコースターのおかげですか?」


「そうよ! あんな怖い思いをしたんだから、模試くらいで緊張することないでしょう?」


 百合は得意げに胸を張った。


 あの遊園地で、どちらが大きな悲鳴を上げていたかは、もちろん口にしない。


「ふふっ。もう、やれることは全部やったわ。あとは自分を信じるだけよ!」


 そう言うと、百合は優二をぎゅっと抱きしめた。


「大丈夫! 今のあなたなら、きっとできるわ!」


「……はい!」


 ふわりと漂う優しい香り。


 百合のぬくもりに包まれながら、優二は力強くうなずいた。


「じゃあ、行ってきます!」


「行ってらっしゃい! 落ち着いて頑張るのよ!」


 優二は大きく手を振ると、玄関を飛び出していった。


 その足取りには、今までにない自信が感じられた。


 * * *


 それから数週間が過ぎた。


 その日、百合は予備校での仕事を終えると、いつもより少し早く帰宅した。


 今日は、優二が受けた全国模試の結果が返ってくる日である。


 前回までの成績はB判定。


 決して悪い結果ではない。しかし、普段の特訓で見せる優二の実力なら、もう一段上を狙えるはずだった。


「……どうだったかしらねえ」


 百合は小さくつぶやいた。


 キッチンでは、夕食の準備が進んでいた。


 百合は時折時計に目をやりながら、優二の帰りを待った。


 そのときだった。


 ガチャッ!


「姉さん! ただいま!」


 玄関の扉が勢いよく開いた。


「あら、お帰りなさい! どうだった? 模試の結果!」


「それが……」


 優二は鞄から一通の封筒を取り出した。


「……まだ、見てないんです」


「あら、どうして?」


「姉さんと一緒に見たくて……」


「まあ……」


 百合は少し驚いたが、すぐに微笑んだ。


「そう。じゃあ、一緒に見ましょうか!」


 優二は居間のテーブルに向かい、椅子に腰を下ろした。


 封筒には「全国総合模試 個人成績表」と印刷されている。


 優二はそれを両手で持つと、大きく息を吸い込み、目を閉じた。


 今回の模試では、すべての問題に解答した。


 苦手だった数学も英語も、最後まで落ち着いて取り組めた。


 全力は尽くした。


 あとは、結果を待つだけだ。


「……優二くん?」


「は、はい!」


「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。たとえ結果が悪くたって、また頑張ればいいんだから」


「……はい」


「さあ、開けましょう!」


 優二はうなずくと、ゆっくり封筒を開いた。


 手に汗がにじんでいる。


 中から折りたたまれた成績表を取り出した。


 百合も隣からのぞき込む。


 二人は、ほとんど同時に志望校の判定欄へ目を走らせた。


 第一志望:国立房総大学 法学部


 総合偏差値:64.0


 合格判定:A


「やったあああっ!」


 パチン!


 二人のハイタッチの音が、部屋いっぱいに響いた。


「ありがとうございました。すべて、姉さんのおかげです……それで、その……」


 百合は優二の顔を見て、いたずらっぽく微笑んだ。


「ふふっ。わかっているわよ。でも、まずはご飯を食べてからよ!」


 にっこり笑う百合の手には、しゃもじが握られていた。


 * * *


 その夜。


 優二はベッドに横になり、A判定を取った喜びをかみしめていた。


 コンコン。


「優二くん、まだ起きてる?」


「はい!」


 寝間着姿の百合が入ってきた。


「ねえ、また後ろのホックをお願いできる?」


「えっ? は、はい……」


 優二は緊張しながら百合の背中に手を伸ばした。


「……あれ?」


「ふふっ。今日はもう外してあるのよ♡」


「ええっ!?」


 百合は楽しそうに笑った。


 そして、ベッドに腰を下ろすと、するりと布団に潜り込んできた。


「えっ!? お、お姉さん!?」


「よく頑張ったわね。今日は特別よ。私が抱き枕になってあげる♡」


「ええっ!?」


「ふふっ。遠慮しなくていいのよ」


 優二はおそるおそる腕を伸ばした。


 だが、百合に触れる寸前で、その手が止まった。


 あとほんの少し。


 それなのに、そのわずかな距離が、ひどく遠く感じられた。


「……どうしたの?」


 百合が優しく微笑んだ。


 優二は小さく息をのみ、そっと百合を抱きしめた。


 ふわりと優しい香りに包まれ、薄い寝間着越しに、百合の体温と柔らかなぬくもりが伝わってきた。


「姉さん……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。