第五話 たこ焼き美学
朝日が窓から部屋に差し込む。今日もいい朝だ。
何の変哲もない金曜日である。何の変哲もない。
いつも通り、朝食に食パンを食べ、歯を磨き、服を着替える。そして、ソファに寝ころび朝の自由時間を満喫する。
うん、これでこそ普通の日常だ。ただ一つ、今日は夕方にイベントがあることを除いては。
昨日の夕方のことである。学校帰りにスーパーへ寄ったら、そこでばったり芳野に出会った。そして買い物を終え、芳野と別れた直後——白石さんと出くわした。そしてそこで、俺は一つの約束を交わしたのである。
学校は何事もなく終わった。学校についたら、いつも通り悠次や芳野と話して、授業を受けて、飯を食って、また授業を受ける。
誰がどう見たって普通の高校生の一日だ。友達の少ないね。そこに不満などはない。俺は満足している——はずだ。
ちなみに、約束をした例の白石さんは、まったくといっていいほど何の反応も示さない。俺だけが変に意識しているのだろうか。
終礼の後、
「なあ秋人、何か悩み事でもあるのか?もしそうなら僕にも相談しろよな。友達なんだからさ」
「え?ああ、えっと......どうしたんだ?急に」
「おいおい、自覚なかったのか?朝からずっとどこか落ち着かない感じだぞ?」
まじか。自分ではまったく気づかなかった。悠次にいらぬ心配をかけてしまっていたようだ。
「それはすまなかったな。大丈夫だ」
「ほんとかなぁ。お前さ、そうやってすぐはぐらかすからな」
「そんなつもりもないんだけどな」
まいったなと、頭を掻く。はぐらかしているのは、ほぼ無意識といってもいいだろう。面倒ごととかを避けたいがために、自然とそうなってしまう癖があるからな。
少々申し訳の立たない気持ちでいると。
「とりあえずさ、何か困ってるんだったら、友達を頼れよな」
「そうだな、そうするよ」
ありがたいお話だ。こんなこと言ってくれるやつが、俺の周りに何人いるのだろうか。世界中探しまわってもそういないだろうよ。
でも本当に悩んだりしているわけじゃないから、今回はパスだな。
悠次がうーんと少し考えた後、口を開いた。
「お前、この後暇か?ちょっとカフェかどっか寄っていかないか?もちろん奢ってやる」
なんとも素晴らしい提案だろうか。まさか悠次が奢るとか言い出すとは。
いつもの俺ならその提案をありがたーく受けるだろう。でも残念、今日は無理なのである。
「何のつもりだよ。お前が奢るなんて。ほんとに何もないから心配すんな——あ、でもその奢ってやるって話はありがたく受け取らせてもらおうかな。ぜひとも週明けにでも奢ってくれ」
「やれやれ、そんな無駄口叩けるってことは、本当に大丈夫そうだな。もちろん、奢るのは今日までだよ」
残念。タダでドリンクは飲めないらしい。
そうかよと相槌を打つと、横から、
「なら西川君、せっかくなら私に奢ってくれやしないかね?」
これまた元気な奴が登場した。授業が終わってそれなりにくたくたになっている生徒も多いっていうのに、こいつだけは別らしい。無限の体力でも持っているのだろうか。
あまりにも元気なもんで、俺と悠次はたじろぐ。
「なっ——よ、芳野さん。も、もちろん君がいいならいい、ですよ」
ははーん。相変わらずだね、悠次くんよ。
「よかったな、奢る相手ができて」
「あのなぁ、もとはと言えば、お前に気を使って始まった話なんだけど?」
「それはすまん」
本当に申し訳ないな。悠次は一年のころから世話焼きってか、真面目な奴だよな。
「なになにどうしたの?神崎君何か困りごとでも?」
「いやな、こいつ今日一日中なんだか困ってるっていうか、なんだか雰囲気がおかしかったからさ」
「あー確かに。今日なんか少し調子が悪そうだったね」
悠次に芳野、この二人にそういわれたんならそうなんだろう。認めよう。だからと言って、そんな困りごとではないから心配する必要はないんだが。
「二人ともすまんかったな、心配かけて。でも大丈夫だから。俺はそろそろ帰らせてもらうよ。用事があるからね」
「用事、ねぇ」
なんだよ、その疑いの目は。なんもやましいことなんてねぇよ。
お前がそんな目をするんだったら、こっちは——
俺はカバンを持って、去り際に「まあ、悠次こそ楽しんできたまえよ」と耳打ちだけして、放課後の賑やかな教室を出た。
さあ、帰るとしますかね。
待ち伏せ。そう聞いて皆は何を思い浮かべるだろうか。ドッキリ、奇襲、ストーカー。待ち伏せという言葉だけを聞くと、そこまでいい印象はないのではないだろうか。
しかし今俺は、その待ち伏せをしている。もちろん、ドッキリ、狩猟、ストーカー、そのどれにも当てはまらない。理由はただ一つ。昨日交わした約束である、たこ焼きを作ってやるということについて、白石さんと話したいことがあったからだ。約束をしたのはいいのだ。でも、何時なのかとかは全く決めていなかった。そのことを聞くために待っている。このバカでかいマンションの前で。
夕方ということで、学校帰りらしい学生や、買い物帰りの主婦たちが俺の前を通り過ぎていく。
誰かに見られているわけではない。と言うか誰も気にしていないのだろうが、なんだか周りから視線を向けられているように感じてしまう。別にやましいことはないのだけど。
ちなみに、白石さんはもう帰ってるのでは?という質問にはこう答えよう。「問題ない」と。
なぜなら、教室から去る際、まだカバンが机にかかっているのを確認済みだ。本人を見たわけではないが。
だからここで待っていれば——
ビンゴ。遠くに白石さんが歩いてきているのが見えた。距離としては結構あるし、顔まではわからないが、まあお察しの通り、髪の色で一発だ。
白石さんがマンション前に着くまでスマホでもいじって暇をつぶす。どこの誰かもしれない、どうでもいいSNSの投稿を見ながら、時々白石さんのいる方向を確認する。
ある程度近づいたところで、
「やあ、白石さん」
声をかけた。世間一般の人間ならば名前を呼ばれたらここで、「どうしたの?」とかなんとか反応するものである。世間一般の人間ならば——
何もなかったように横を通りすぎて行った。カクテルパーティー効果が存在しない世界線なのだろうか。
「ちょいちょい、待て。少し話があるんだよ」
そういって肩を軽く叩いた。
すると、ビクッと肩を上げて反応して、数秒硬直した後、振り向く。
「......」
「......」
沈黙。相手から言葉を投げかける気はなさそうだな。ならさっそく本題と行こうか。
「あのさ、昨日した約束、覚えてる?」
「うん」
「ならいい。俺は何時にそっち行けばいい?あと部屋どこだ?それと——」
俺はいくつかの確認事項を聞いた後、すぐに家に戻って準備をした。
「よっこらしょっと」
なかなかの大荷物だ。たこ焼き器に二人前の具材。さすがに重たい。
マンションを出ると、すぐそこに白石さんがいる。というか来させた。
「これ、持ってくれるか?」
そう言って袋に入れている具材を手渡す。さすがに全部持っての移動は、短い距離と言えどめんどくさい。だから荷物の一部を持たせた。もちろん同意済みである。
にしてもすごい豪華だ。思わず感嘆の声を漏らしてしまうほどに。もうどこもかしこもキラキラしている。
俺はとうとう白石さんの部屋の前に着いてしまった。
経緯や相手はともあれ、俺は今女の子の家に来ている。しかも一人暮らしの。
正直言うと、心拍数が爆上がり中である。今日一日浮かない感じだったのも、このことのせいだろう。
白石さんが家の鍵を開ける。
「どうぞ」
「お、お邪魔します」
ドアの向こうに広がるのは、とても広い玄関である。安アパートの一室くらいはあるんじゃないか?
白石さんが先に靴を脱ぎ、並べた靴の横に、自分の靴をそろえて部屋に入る。
俺の目に入った光景は、少しばかり目を疑うものだった。
もちろんリビングがだだっ広いのはそうなのだが——
「おい白石、飯の前にまずすることがあるだろ」
つい呼び捨てにしてしまうのも無理もない。俺たち男子の抱く幻想の一つ、女の子の部屋は綺麗でかわいらしいものである。これが無残にも散っていった。
リビングは、質素の一言に尽き、何か小物が置いてあったり本棚があったりなどは全くなく、必要最低限の家具。テレビにソファ、テーブルにキャビネットがあるくらいだ。キャビネットの上には、ポツンと時計が置かれているだけ。
それに、ゴミ屋敷、とまではいかないが、それなりに散らかっている。
とくにキッチンだ。これから料理、と言ってもたこ焼きの生地を作ろうというのになんだこの有様は。シンクはいつからため込んだのかわからない食器に、出しっぱの調理道具、そして全体的に汚い。
「よし白石、まずはキッチンの片づけだ」
俺は両手に抱えていたたこ焼き器を、机の上の物をのけて置く。そして袖をまくってキッチンの前に立つ。
「なあ、一つ質問だがよ、この食器いつからここに置いてある」
白石さんの方を見る。
「えっと——一週間くらい」
聞きましたでしょうか。なんとも恐ろしいことをおっしゃる。
はぁっとため息ひとつこぼして
「なあ、まずはここ片付けるからな?いいな?」
「......なんで?」
「なんでもなにもな、こんなんじゃなんも出来ねぇよ。その間に白石さんは机の上とか片付けといてくれ」
ていうか今日俺が来るんだからある程度片付けときなさいよ......
なんだか、来る前の緊張はどこへやら——なんだか肩の荷が下りた気分だ。
おいおい、もしかしてこれちゃんと水に浸してないな?こびりついてるじゃねぇか。
食器に付いた頑固な汚れを頑張って洗い落としては、乾かし、洗って乾かし......
「多いな」
思わず声が漏れた。食器が多い、多すぎる。そのくせしてフライパンとかは全くなし。捨てられているごみからもあらかた想像はつくのだが——
「なあ白石さん。自炊とかしないのか?」
どう見ても冷凍食品とかインスタント食品とか、手軽に作れるものばかりだ。
「自炊はしない。できない」
「こんな食生活だと体壊すぞ」
キッチンに置きっぱになっていた冷凍パスタの袋を手に持ち言った。
さすがにこんなもんばっかりは体に良くない。
「大丈夫。私は健康」
おいおい、いまは健康でもなぁ、そう長く続かないんだぞ。
「いつか不健康になるかもだろ。それに片付けも大してしてないし。見ろ、こんなとこに埃が溜まってる」
カウンター部分に指をスーッと走らせると、あら不思議、埃がいっぱい付くではありませんか。親がきたりしたら発狂するぜ。大切なわが娘が、病気になるかもしれない部屋で暮らしてるとか知ったらよ。
この汚さじゃあ飯は結構後になりそうだな。
俺は忙しなくキッチンを片付け、キッチンやテーブル周辺の掃除を行った。ちなみに、初めは白石さんにも手伝ってもらったのだが——ていうかここ白石さんの家だから当たり前なのだが......まったくと言ってもいいほど役に立たなかったので、おとなしくソファに座らせておいた。掃除をさせようとしたら、むしろ悪化していった気がしたのだ。
こうして、おとなしく座っていればただのかわいい女の子なんだけどなぁ。
掃除は三十分ほどかかってしまった。これでも狭い範囲を急ぎでやった方だ。でもまあこれでやっとたこ焼きの生地が作れるってもんだ。ったく、何やってんだか......
皆さん大変長らくお待たせいたしました。それでは始めましょう、たこ焼きクッキング、生地編を。
まず初めに、たこ焼き粉を入れる。そしてそこにもろもろぶち込む!そして混ぜる!以上。詳しい作り方?自分で調べな。
あとはタコや青ネギ、こんにゃく、それとソーセージを細かく切ります。そして、それらとコーン、キムチをそれぞれのお皿に入れて、生地の入ったボールとお皿を机に並べる。
「そんじゃあ作りますか」
白石さんがうなずく。
「まずは油を適当に引く。ここでひとつ、油でひったひたにして、たこ揚げにならないように」
これは俺のプライドだ。
そして生地を流し込む!まんべんなくだばーっとだ。
白石さんが心なしか目を輝かせながら、
「生地が溢れてる」
「いいんだよ。てかこうすんのが普通だ」
たまにいるんですよね、生地を穴から溢れないようにしなきゃいけないと思う人が。でも実は逆なのである。
「ちゃんとこうして浸さないと、綺麗に丸くなったりしないんだよ」
いまいちわからないといったご様子だ。まあ普段から作らない人にはわからないのも無理はない。
「とりあえず次に、天かすとかもろもろをぶち込む。適当にだばーっとだ」
テーブルに置いてある具材を適当に入れていく。わざわざ一つ一つ丁寧に入れる必要はない。ある程度の場所に入れときゃ何とかなる。
「あ、でもタコとソーセージは一つずつちゃんと入れる。じゃないと不公平だからな」
後はしばらく待つ。ここからはしばらく暇である。
ワクワクといった感じだろうか。あまり感情を表に出さない彼女にしては珍しい。飯には興味があるのか?意外な一面だな。
俺はふとキッチンの方を見る。飯に興味がある割には、普段の飯は適当だ。よくわからんな。
「なあ、白石さんって食べ物に興味があるのか?」
その質問には、首を傾げた。何言っているの?ということなのだろう。
「気づいてないのか?お前、少しだが目を輝かせてるぞ。普段はそんな目をしないのに」
といってもまだ出会って数日なんだけどさ。
「そもそも料理できるのか?自炊はしないってさっきいってたけどさ」
「できない」
一言。でしょうね。
「そもそもお前ひとりの時何してるんだ?見た感じゲーム機があるとか本が置いてあるとかではなさそうだけど。まあ全部の部屋を見たわけじゃないから言い切れはしないけどさ」
実際見たのは、玄関からこのだだっ広いリビングまでだし。でもこのリビングには教科書とか服やカバン、その他もろもろが適当に置かれている。普通は自室に置いておくものだ。偏見だけど。だからこそ本とか、そこにあるでっかいテレビにゲーム機が繋がっていない。だから何をしているのかわからない。
「一人暮らしってさ、暇なもんでゲームや読書、料理——あとは寝るくらいしかすることないからな。俺はだけど」
「本は......読む」
「そうか、ジャンルは?」
「決まってない」
「なんでも読むってことか。それはすごい。俺なんてファンタジーものばっか読んでるよ」
なんだこの、びっくりするぐらい盛り上がりに欠ける会話は。
会話下手が二人もいると、こうも酷いものなのか。
「にしてもよく俺を家に上げたな。まだ出会って数日の、しかも男をさ。俺ならそうできねぇな。出会ったばっかの女の子を家に呼ぶのは」
「私も呼ばない」
「でも現に俺はここにいる。そうだろ?」
「うん」
「なら矛盾している」
「うん」
「どっちなんだよ」
「普通は呼ばない。でも今日は別」
「なんだそりゃ。たこ焼きのためってか?」
「......うん」
おお、それはそれは、なんともグルメなのでしょうか。ならなおさら料理とかしなよ。
そんな突っ込みが喉にまで来たところで、
「そろそろいい感じだな」
俺は竹串を手に持つ。そして、網目状に切りこみを入れ、生地を一つ一つに寄せ集めながら、ひっくりかえす。一つ、また一つと順にやっていく。
「歪な形」
「いいんだよ。いずれ綺麗な形になる」
「本当?」
わからないと首を傾げる。こいつは首を傾げる癖でもあるのだろうな。だが安心しろ、
「本当だ」
このまま焼けば綺麗な形になる。
残ってたやつもすべてひっくりかえした。これでこそたこ焼きのだいご味の一つだよな。そしてしばらく焼き続ける。
ある程度焼けてきたところで、くるくるとまわしながら焼く。ジュウジュウと表面が焼ける音、ほのかに匂う焦げたチーズ、生地からはみ出たキムチに焼き目が付き、外にはみ出たコーンが跳ね上がる。
竹串で適当にひっくり返してると、白石さんがこっちを見てきた。
「どうした?——これか?」
竹串をヒラヒラと見せる。
すると頷いた。やっぱり自分も回したかったらしい。そうならそうと、目線だけではなく、言葉にして伝えてほしいのだけども。
「ほれ、これをどうぞ」
新しい竹串を取り出して手渡す。
「回し方は——こうすればいい」
たこ焼きを一つ、竹串で端の方を刺し、上に持ち上げるようにくるっと回して見せた。
「やってみろ」
白石さんは竹串をたこ焼きめがけて一刺し。そしてくるりと——うまくいくわけもなく。たこ焼きが真っ二つに割れて、中のタコが外に飛び出した。
まあ、初めてだから仕方がない。誰だって初めは失敗するもんさ。かく言う俺も、初めは上手いことできなかったもんだ。人間だれしも、初っ端からできるわけない。慣れだ、慣れ。
俺は白石さんが崩してしまったたこ焼きを成型する。
「まだまだあるんだ、やっていって慣れればいい」
「うん」
返事を一つだけして、もう一度チャレンジする。
今度は上手くいった。これは誰が見てもちゃんとできているだろう。といっても、ある程度焼けた状態だから、簡単ではあるんだけどね。
それでも回せたことが嬉しかったのか、心なしか満足しているようにも見える。というかドヤってるって言っても過言ではないな。
こうしてみていると、やっぱり芳野の言ってた噂とやらの信憑性が疑われるぞ。確かに普段から感情に乏しそうではあるが、今は結構感情が露になっている。といっても常人のそれではないのだが。白石さん基準からすると結構なもんだ。
「よくやったな。上出来だ」
「......うん」
こいつ、今日ほとんど「うん」としか言って無くね?そもそもこれを言ったに含めてもいいのか?
こうなったら何としてでも何か喋らしてやりたいのだが、俺に何かいい話題があるわけではないしな......
とかなんとか、悩みながらクルクルとたこ焼きを回し続ける。
表面が硬くなり、竹串を弱い力で刺そうとするとうまく刺さらない。
「そろそろだな」
カリカリに焼けたたこ焼きを作るには、油でひたひたにして焼くなどという行為は決してしない。ゆっくりと時間をかけて育て上げることにより、やっと真なるカリカリのたこ焼きができるってもんだ。
「もう食えるぞ。好きなだけ取りな」
俺は適当に十個ほど皿に移す。残りは白石さんの皿に移した後、生地をまた新たに流し込む。
「ん?ああ、先に食っていいぞ。こっちは気にすんな」
俺が食べるより先に作り始めたから、気を使ったのかね。
と思ったのだが、白石さんがタコの入ったお皿を手に取った。
なるほど、そっちか。
俺は先に天かすをぶち込んだ後、
「いいぞ、入れて。でもあれな、一個ずつ入れるんだぞ」
「わかった」
そう言って、丁寧に一つずつ入れていく。うん、初々しくていいもんだね。でもちょっと遅い。先に空いているところから、ほかの具材を入れていく。
「これで良し。後は焼けるまで、さっき焼いたやつでも食うか」
俺はソース、マヨネーズ、青のりの順にかけていく。
ソースとマヨネーズの香りが、たこ焼きの香りと混ざる。これでこそ皆が想像するたこ焼きである。
二つ箸で半分に割る。
なんて言ったって俺は猫舌なんでね。こうして冷まさないと食べれないのだ。ふうふうと息を吹きかけて、それを口に放り込む。噛むとカリッとした食感と共に、口の中一面にたこ焼きの香りが広がる。
美味い。
白石さんもたこ焼きを半分に割り、息を吹きかけるでもなく一口食べた。俺は熱いのがだめだから割ったのであって、そうする必要はないんだけどな。
こほっ——
むせた。
熱いんかい。
「熱いのだめなのか?」
「......うん」
らしいですよ、みなさん。なら息吹きかけて冷ませってな。割るとこまで真似てなぜそのあとを真似ないのか、わからんな。
俺はそっと、さっき割ったもう一つを食べる。
今度は、ふうふう、と息を丁寧に吹きかけ、恐る恐る口にたこ焼きを入れる。しっかりと咀嚼し、飲み込む。
「おいしい」
よしきた!おいしいと言ってくれれば、作ってよかったってもんだ。それにしても、おいしいならもっとそういう顔してくれよな。食う前とほぼ変わらんぞ。
俺が頬杖ついて眺めていると。
「なに?」
「あ、いや、すまん。俺の作ったもんをおいしいと言って、食ってもらえたのが嬉しくてな。人に飯作るなんて滅多にしないからさ」
ていうか家族以外に作るのは初めてだ。たこ焼きは比較的簡単な部類だけど、もし失敗したらどうしようとか考えてたからな。
「そろそろこいつらひっくり返すけど、やるか?」
「やる」
嬉しそうに返事をしたのであった。
次回第六話 たこ焼き美学(2)
たこ焼きのコーン、急に跳ねて怖い




