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デジャヴ  作者: 武崎豊
3/5

第3話 通過点

 四月十四日。

 目覚ましが鳴る。


(今度は予測できなかった)


 春樹は眉をひそめる。

 昨日は三秒前に分かったが、今日は何も感じなかった。

 布団の中で考える。

 予測しようとするとズレる。

 ノートに書かれていた一文。

 なら、予測しなければいいのか?


 学校へ向かう途中。

 横断歩道の信号が点滅している。


(赤になる)


 分かる。

 いや、これは誰でも分かる。

 青の残り時間が短いだけだ。

 自分は普通だ、そう言い聞かせる。


 二時間目。

 突然、校内放送が入る。

 ノイズ混じりの声。

「本日、午後の授業は……」

 春樹の胸が強く打つ。


(中止になる)


 理由は分からない。

 だが確信がある。

「中止になる」

 小さく呟いた瞬間。

「本日、午後の授業は通常通り行います」

 違う。

 教室の空気は何も変わらない。

 クラスメイトはざわつき、また静まる。

 春樹だけが取り残される。


 昼休み。

 美咲が隣に座る。

「最近、本当に大丈夫?」

 その声は、以前より低い。

 心配が混じっている。

「大丈夫だよ」

 春樹は笑う。

 自分でも分かる、笑い方が不自然だ。

「春樹さ」

 美咲は言い淀む。


(病院行った方がいいよと言う)


 予測する。

「ちょっと休んだ方がいいんじゃない?」

 違う。

 だが、近い。

 微妙に変わる。


 放課後。

 悠斗が強引に腕を掴む。

「なあ、本気で聞くけどさ。何か見えてんの?」

「見えてない」

「じゃあなんで、さっき放送の前に中止って言った?」

「……分かった気がしただけ」


(お前、おかしいよと言う)


 予測する。

「それ、気のせいってレベルじゃねえぞ」

 違う。

 悠斗の目は、はっきりと不安を帯びていた。


 帰宅後。

 ノートを開く。


《四月十四日》

・目覚まし予測できず

・校内放送外れ

・美咲と悠斗の台詞が変化


 ペンを置き、じっと待つ。

 数分後、何も起こらない。

 ほっと息を吐いた、その時。


・大きなことは当たらない。


 一行、増える。

 今度は、はっきり見た。

 文字が、にじむように浮かび上がった。

 自分の筆跡で。


 春樹の手が震える。

 怖い。

 だが同時に、確信が強まる。


(これは脳の誤作動じゃない)


 当たらないのは、大きいからだ。

 世界が修正している。

 繰り返しを防ぐために。


 なら、もっと決定的なことを。

 春樹はカレンダーを見る。

 赤丸がついている日。

 今週末、両親は車で遠出する予定だ。

 胸の奥に、強い既視感が走る。


 雨……

 ブレーキ音……

 ガラスの割れる音……


 映像は曖昧だが、感触だけがある。


「……これだ」


 もしこれが当たるなら。

 もし防げなかったら。

 それは証明になる。


 布団に入り、目を閉じる。

 遠くで、タイヤの軋む音がした気がした。



 四月十七日。

 朝から雨だった。

 天気予報は晴れだったはずだと、母が小さく文句を言う。

 その声を聞きながら、春樹の胸は妙に静かだった。

 天気は雨、予感ではなく、既視感。


 父は玄関で靴紐を結ぶ。

「昼過ぎには戻る」

 母が鍵を確認する。

「夕飯までには帰るからね」


 ブレーキ音……

 ガラスの割れる音……


 映像の断片が脳裏に浮かぶ。

 だが春樹は何も言わなかった。

 言っても無駄だと、どこかで分かっている。

 これは流れだ、繰り返しの一部。

「いってらっしゃい」

 自分の声が、やけに遠く聞こえた。


 午後。

 スマホが鳴る。

 知らない番号。

 出た瞬間、理解する。


「……はい」


 病院。

 白い廊下、消毒液の匂い。

 医師が淡々と説明する。

「残念ですが……」

 美咲と悠斗が駆けつける。

 美咲は泣き崩れる。

 悠斗は唇を噛みしめる。


 春樹だけが、何も感じなかった。

 驚きも。

 悲しみも。

 怒りも。

 ただ、確認している。


(やっぱり…)


 夜。

 家は静まり返っている。

 雨は止んでいた。

 ノートを開く。


《四月十七日》

・両親事故死

・予測通り

・感情が動かない


 数秒後、文字が浮かぶ。


・ここまで来た。


 春樹は小さく笑う。

 恐怖はない。

 むしろ、納得があった。


(これは現実じゃない)


 もし本当に現実なら、こんなに冷静でいられるはずがない。

 涙も出ないなんて、おかしい。

 だから違う、これは途中経過。

 リセット前の段階。


 スマホが震える。

 美咲からのメッセージ。

《大丈夫じゃないよね。そばにいるから》

 画面を見つめる。

 文字は読める、意味も分かる。

 だが、何も動かない。


(前も、同じ文面だった)


 返信はしない。

 天井を見上げる。

 静かな部屋。


(次はどこだ)


 春樹はゆっくり目を閉じる。

 胸の奥で、確信が育っていく。


 ここまで来たなら。

 あとは、あの場所だ。


 高いところ。

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