3話
裏庭から玄関へ戻る。玄関ホールはいつも通り静かで、綺麗だ。
玄関ホールなどの客人の目が届くところ場所は特に綺麗にしている。それでも以前に比べると、美術品が少し減っているのが現状。
私は少し息を吸い、ちょうど近くにいた数少ない使用人の中で最年少のミカに声をかける。
「ねぇ、少し聞きたい事があるのだけど…」
「は、はい!お嬢様!何でしょうか?」
年若いメイドは背筋を伸ばして答える。
この屋敷で働く使用人は最低限。仕事量に比して疲れが顔や身体に現れている。
「この屋敷で、今一番掃除や修繕が行き届いてない場所はどこかしら?」
一瞬、ミカは言葉に詰まった。
「それは……」
視線が僅かに泳ぐ。
「正直に教えて欲しいの。咎める訳ではないわ」
安心させるよう微笑みながら問う。
ミカは少し迷ったあと、静かに口を開いた。
「まずお客様やお嬢様方の目の届かない所が一番かと…使われていない客間や書庫の一部、北側の廊下などです。あとは掃除は出来ても修繕までは出来てない所が多数…」
「分かったわ、ありがとう」
私は頷き、ミカは頭を下げ仕事に戻った。
「まずは北側の廊下ね」
私はそう呟き、歩き出した。
北側の廊下はほとんど使われていない。使用人たちが時々使うぐらい。
「ここね。……ふぅ、少し窓を開けましょう」
窓はあるが光は弱く、壁には薄く染みが残り、床材や窓も少し軋んでいる。
人手が足りず後回しにするしか無かった場所。
「……まずは、ここから」
私は一人、廊下の中央に立ち、静かに目を閉じ集中して魔力を巡らせる。
埃、細かな汚れ、壁の湿気や雨漏り等で出来たであろう染み。
一つひとつを“理解”するように、意識を向ける。
「整えよ」
小さく呟くとわずかに空気が揺れている。
隅に溜まっていた埃が、音もなく集まり、壁や天井に出来てる小さな染みが少しずつ薄くなり、明るさを取り戻していった。
次に視線を上げる。
天井の雨漏りで滲んで出来た小さな染み。
「……ここもね」
原因は分かってる。
ほんの僅かな隙間。古い屋根材のズレ。
魔力を細く、慎重に流し込む。
「塞いで」
木材がわずかに軋み、隙間が埋まっていき天井は元の姿に戻った。
廊下を隅から隅まで見渡し、私は小さく息を吐いた。
「……出来た。楽しい…!」
その楽しさから思わずふふっと笑った。
「そういえば、あそこも気になってたのよね」
私は今朝の食堂へ向かう途中に気になっていた所があった事を思い出し、移動することにした。
◇◇◇
廊下の窓の汚れやカーテンの修繕、大きく目立つ訳では無く、どれも小さなものばかり。
「まずは、窓の汚れからね」
「綺麗になれ」
窓の汚れが水に覆われ、汚れが浮き、濡れた窓の水滴が取り除かれていった。
視線はカーテンへ向けられる。
以前は季節ごとに替えられていたカーテン。だが今は、節約のためにほとんど売られてしまった。
残っているのは、この一組だけ。
そのカーテンも汚れや修繕の跡が目立っていた。
カーテンも同様に直した。
直したのはほんの数カ所。けれど通路全体の印象が少し変わった。
「うん。綺麗になったわね」
私は満足してその場を離れた。
◇◇◇
その頃。
北側の通路を通りかかったアンナは、思わず足を止め目を疑った。
「……え?」
どことなく薄暗い印象の埃っぽかったはずの廊下が、明らかに変わっていた。
床や屋根などが綺麗になり、空気が澄んでいる。
「誰か、掃除を?」
首を傾げ、確認のため急ぎ足で侍女長の元へ向かう。




