僕がここで、終わっても、物語は、終わらない。
吐夢。
僕らは、しばらく、見つめあった。
あどけない瞳。
僕らが、九尾狐でなかったら、歳の離れた、ただの兄弟に、
見えただろう。
だけど、
人の気配が消えた街で、
対峙する僕らは、
遥かに、人から、かけ離れた姿をしていた。
ここから、先は、吐夢の侵入を許してはいけない
「手伝おうか?」
関わらない主義の晴が言った。
「いや・・・」
僕は、首を振った。
「最後くらい、格好つけさせて」
「最後なのか?」
笑った。
「いや・・・。母さんと音羽をよろしく」
「わかってる」
「中で、準備を進めていて」
吐夢達の血で、作られたウィルスなら
僕の血で、解決できる筈。
九回、生き返る。
その生命力で。
「何も、吐夢で、作ればいいじゃない?」
口を歪めて、音羽が言った。
「颯太が、犠牲になる事ない。大体、純粋な九尾狐でないのに、完成すると思う?」
「ダメだろう・・・吐夢。ばかり、背負わせる事なんて、できない」
「吐夢をどうするの?」
母さんが聞いた。
吐夢を拾って、育てたのは、母さんだ。
「吐夢の過ちをどうしたら、わからせる事ができる?」
「吐夢は、飢えているの。愛情に」
それは、言わないでよ。
母さん。
僕だって、同じなんだから。
「吐夢の願いを叶える事は、できるよ」
静かに、晴に目配せをする。
「母さんは・・・心配しないで」
こんな時まで、僕以外じゃないんだ。
ふと、結局、僕も吐夢と同じなんだな。
笑った。
いくら、長く、生きれても、手にできる愛情には、限りがある。
僕も、
音羽も、
互いの傷を慰め合って、生きてきた。
僕には、音羽が居たから、
道を踏み外す事がなかったのかもしれない。
「僕を捕まえようとしているんでしょう?」
吐夢が、警戒する。
「どうしても、中に、僕を入れないつもり?」
「そうだよ・・・。ここから先は、通さない」
「九尾狐の半端者が、奥に、勝てると思う?」
「半端じゃないよ。人とのハーフだから、九尾狐には、ない強さがるんだよ」
「そうかな」
吐夢は、すでに、人の形では、なかった。
僕も、見た事のない、耳まで、口の裂けた青しろい獣へと、姿を変えていた。
「いいよ。吐夢」
僕は、自分の能力の限界を知らない。
吐夢のように、完全体に変化する事もできない。
ハーフだから?
そう思いながら、
体の芯から、炎が溢れ出すのを感じる。
本気で。
闘う日が来るなんて、思わなかった。
まだ、自分が、人の形をしていると信じていた。
吐夢の容赦ない攻撃を交わしながら、
そのスピードに翻弄されながら、
僕という形が、変わって行くのを感じた。
吐夢を一歩たりとも、研究室の門を括らせてはならない。
低く唸りながら、吐夢は、僕に致命傷を与えようと、
怯まず、襲いかかる。
「ハーフだから」
その言葉が、頭に響く。
力の差を感じながら、
吐夢の攻撃をかわす。
「結局、逃げるだけだろう?」
逃げているのではない。
吐夢は、僕を攻撃しながら、研究室の中に入ろうと、隙を狙ってくる。
必死に。
僕が、本気で、研究室に入れないように、守っていると信じて。
「ほら!」
吐夢が、笑った。
僕の一瞬の隙をついて、吐夢は、研究室の中へと滑り込んだ。
「メチャクチャに、壊してやるからな」
吐夢の声がこだました。
・・・宙に。
「終わった」
晴の声が、聞こえた。
一瞬、空間に歪みが生まれ、縦に二つに割れた。
その瞬間、
目の前にあった筈の、研究室は消えていった。
「ほ・・・んとに」
僕は、膝から崩れ落ちた。




